第二十三話 賭け
「ナツキ。折り入って話がある」
死長のレンに呼ばれて開口一番そう言われた彼は、不審に思い片眉をあげた。
「天界から来た次のリストだ」
レンはバサッと、書類の束を死長室の机に投げるように置く。
見ろ、ということだろうか。随分分厚い書類だ。おそらく一度に沢山死者が出るのだろう。
「失礼します」
読むと列車事故の案件だった。死者9人、重傷者30余名。天界の決めた予定では、だが。
「一応お前を担当に据えておく。が、それは表向きだ。実際には行く必要ない」
「……何かお考えが?」
「ああ。それには白影を行かせる」
レンのあまりにも何でもないような返答に、ナツキは目を見開いた。
「正気ですか?」
白影はここにきてまだ3日だ。仕事のなんたるかも解っていないようなヤツに、列車事故案件?
ベテランのナツキでさえ楽ではない任務だというのに。
「あいつが行けば、合法的に死神を増やせるかもしれん。賭けではあるが、な。」
合法的にということは、あくまでも無理矢理にではなく、逃げ場を残しておくということか。
「……そうですか。じゃあ俺は発作で寝込んでいることにします。だけど、気が変わったらいつでも言ってくださいよ?俺も一応、アイツのことは気にかけてるんで」
ナツキが眉を寄せる。
「心配するな。悪いようにはしない」
レンは話は終わりだとばかりに、ナツキには目もくれず傲岸不遜に答えた。
ナツキは溜息一つ吐いて、死長室を後にした。
☆ ☆ ☆
「…………え。俺が一人で列車事故案件ですか?」
呼び出された白影は寝耳に水で目を丸くする。
「そうだ。ナツキに行かせるつもりだったが、体調を崩したようだ。体力的なものは生前のものを引き継ぐからな。当然一度死んだ身だから死ぬことは無いが、しばらくは動けないだろう」
「だからってなんでいきなり俺………」
困惑する白影に、レン死長はリストを突きつけた。
「現場を見てみろ。お前が通っていた学校付近だろう。基本的には生前縁のあった場所は避けるのだが、お前が会いたがっていた人間に会えるかもしれん。………まぁ、賭けにはなるが。それにお前以外に割ける人員もいない。不安なら誰かと交代させて、違う仕事を振るが」
そう言われ、納得した。どうせ違う仕事をさせられるなら、記憶の底にある大事な人と逢いたい。逢ってどうするかはわからないが。
「…………わかりました。支度をしてすぐに向かいます」
「頼んだぞ」
レン死長は珍しく、白影をじっと見つめて退室を見送った。