第二十二話 レンの計画。
白影が瑞希と道具庫に向かっている最中、 薄暗い道具庫で、双子がぼそぼそ話していた。
「…………白影………か。好いた女の事を忘れるなんざ、憐れなものよの」
リンが呟く。
「まぁ、バグ自体は珍しくもない……。特に自分にとって大事なものであればあるだけ、こちらには持ち込めない」
レンがそれに返す。淡々と、どうでもいいことのように。いっそ感情がないのだろうかと思えるほど、レンは冷たい。そんな人間を恐ろしくもあり、慕ってもいる自分は狂っているのかもしれない。
「………で?どうするんだ、今回は。《彼女の事を思い出したい》《会いたい》が希望なんだろう。白影の」
とは言っても、そう簡単に会える契機を用意できるはずもない。
死者を選定するのは天界の仕事。その場に彼女が居合わせる確率などどれ程のものだというのか。勿論、任務以外で地上に遣わすわけにはいかない。
「今回はやはり、できる限りの協力を約束して、上手いことこちらに引き込むしかないだろうが」
リンが思案気にそう言うと、レンは
「それがな、本当に偶然だが、彼女は直近の列車事故の現場に居合わせることになる。彼女自身はリストには入っていないが、そこに白影を遣わせれば……」
「なるほど、一応は約束を守った体になるわけだ。それで、主軸には誰を?」
列車事故というからには、リストが一人ということはあり得ない。複数だとしたら、大抵は二人以上が任務にあたることになる。
「今回の件は白影一人に任せる」
「!?」
驚いて目を剥いた。一人でもキツイ仕事だというのに、そもそも白影はまだ見習いなのだ。
「………無理だろう。失敗するのが目に見えている」
そう言うと、レンは凄絶に笑って「だからだよ」と言った。
その言葉だけで、リンにはレンの言いたいことがわかった。
(…………つまり、あわよくば《彼女もこちらに連れてこれないか》《死神を増やすカードに使えないか》ってところ……)
「とはいえ、ハナから見習い一人に任せたのではこの計画は怪しまれる。根回しはするつもりだ。勿論、」
レンは十四才とは思えない妖艶な笑みを浮かべて
「手伝ってくれるだろう?リン」
抱擁と共に耳元で囁く。
そうされたリンが、逆らえるはずもなかった。