第二十話 とある少女のお話(3)
「……………諒祐くん………」
瑠璃は、自分を呼び止めた男の顔を見上げた。
彼は東雲と仲の良かったクラスメートで、瑠璃と同じ生徒会メンバーの後輩でもあった。
突然、息せききって、私を追いかけてくるなんて。一体どうしたのか。
怪訝な顔で見つめると、
「しっかり、してください……!!」
と怒っているような、泣きたいような表情でキッとこちらを見据えてきた。
(え?しっかり……??しっかりってどういう……??)
………私が、帰りたいと思っていた事を見抜かれたのか?どうしたらいいのかわからないこの気持ちを、早く捨て去れとかそういう……??
「…………無理、だよ………。だって、私の、せい……。私のせいで、東雲くんが……!!」
やばい、泣きそうだ。脚が震える。もう、立っているのだって、やっとな精神状態なのに。そんなこと、言うから。
「………………っっ」
廊下にしゃがみこんで、うつむく。顔を上げたら涙が溢れてしまうから。これ以上、何も言わないで欲しかった。
しかし彼は言った。
「………違いますよ、瑠璃さんのせいなんかじゃない。本当に、悪いのは………、悪いのは俺なんです」
「…………え?なんで……?諒祐くんは、関係ない……」
「………関係、あります。だから……俺は、瑠璃さんは、瑠璃さんだけは、守らなきゃいけないんです……!!このままじゃ、瑠璃さんまで消えてしまう………!!」
「…………?何……、何を言って」
「お願いだから、しっかりしてください………!!そうじゃなきゃ、瑠璃さんまで引きずり込まれてしまう!!」
苦しそうに言葉を紡ぐ彼に、それ以上何も聞けなかった。ただ、彼は何か後悔しているようだった。私と同じように、東雲くんが亡くなった事への責任を感じているような。
「…………なんか、よくわかんないけど、わかった」
ぐしぐしと潤んだ目を擦り、立ち上がる。ーーそうだ。悲しいのは、自分だけじゃない。
「…………………。ホントですか?」
諒祐くんが疑わしげにこちらを見る。
「うん、ごめん、そんなに心配かけてるなんて思わなかった。もう大丈夫。しっかりするから」
そう言って、少しだけ微笑んでみせる。
「昼休み終わっちゃうから、またね」
「………また、`ちゃんと´会ってください。約束ですよ」
諒祐くんの言い回しが気になったけれど、その時は深く考えていなかった。
彼に会うのが、これが最期だってことを。