第十九話 とある少女のお話(2)
ーー何が 間違っていたんだろう。
一体 何が。
「……………遅い…………なぁ」
瑠璃は喫茶店の入り口とスマホの時計を、交互に見ながら思った。
いつもなら、あの天使のようなキラキラ眩しい可愛い顔で「瑠璃さん、お待たせ」と走ってやって来る頃だ。
委員会も終わっている時間のはず。こんなに遅れてきたことはない。まさか、あの彼に限って帰ったなんて有り得ないし。
「………………」
なんだか落ち着かない。こんなことならきちんと約束しておくべきだったのか?そういえば、と瑠璃はまたスマホに視線を落とす。
(別に、東雲くんに電話しちゃダメってわけじゃないのよね……?一応、付き合ってるんだし。まだLINEしかしたことないけど……)
LINEにしようか迷ったが、思いきって電話してみよう。その方が手っ取り早いし……
そう思い、通話ボタンをタップする。しかし電話に出たのは彼ではなくーー
「もしもし?警察です。お宅は、この電話の持ち主とどういう関係で?」
「…………え……?」
彼が集団リンチで亡くなったと知ったのは、その時だった。
どこを、どうやって帰ったのか、覚えていない。
何かの間違いで、これは夢で、そうじゃなきゃ……
そうじゃなきゃおかしいでしょ。
私のいる喫茶店に向かう途中で、そんな事件に巻き込まれるなんて。本当なら全然通り道なんかじゃないのに。
私の………せい?
何が、間違いだったのか。あの日喫茶店で待っていたこと?それともそもそも付き合ったのが間違いだったのか。
あの、天使みたいな笑顔には
「……………もう…………会えない………」
目を閉じれば、今も眼裏に蘇る。『瑠璃さん、瑠璃さん』と呼ぶ声が。
「…………っ。どう、して………っっ!!」
どうして、こんなことに。
どうして。どうして。
それから何日経っただろうか、死んだ魚みたいな濁った目で、ただ日々が過ぎていくのを待って。
学校に行けば、会えるような気がした。やっぱり夢だったんだって。私は長い長い夢を見ていたんだって。そう、思って。でも、聞こえてくるのはそんな都合のいいものじゃなくて。
「なんか死んだ一年?ヤバイよなー。不良に絡まれてだったんだろ?」「目立つもんな、あの見た目じゃ」「こっち戻ってきたのが間違いだったんじゃねーの」「てゆーか、なんであんな所に居たわけ?通学路じゃなくね?」「それなー。彼女に会いに行く途中だったらしいぜ」「えっ、マジ?彼女かわいそー」
「……………っっ」
すれ違った生徒達の言葉に居たたまれない。どうしたらいいのかわからない。
青い顔で廊下を走る。もう、ムリだ。もう…………
帰りたい。
どこに?
どこに、帰ればいいの?
「………瑠璃センパイ!!」
不意に、背後から声をかけられる。
肩で息をしながらこちらを見てくる彼は。
「あなたは……」