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魂の棲拠  作者: 神月雪兎
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第一四話 唯或るものと引き換えに

「…俺次第…?」

東雲は目を見開いた。

死後の世界があるとして、それからの自分の人生に選択の余地があるなど思ってもみなかった。

「一体…どういうことだ?」

すぐさま聞き返す東雲に、フードの彼は今更ながらに姿勢を正して

「その前に、自己紹介がまだだったな。俺は蓮。死神の長をやってる。で、だ。あんたが選べる道は二つ。死神になって俺の下で働くか、天界行って来世に転生するか。こっちも人手不足だからな、出来れば働いてくれると助かるんだが」

凛とした口調で言われた。

さすが長というだけあって威風堂々としている。別に目上の人でもないのになんだか恐縮してしまう。

だが変なプライドのおかげでそんな素振りを見せるわけにはいかなかった。

なにくそと、こっちも精一杯ふんぞり返って言い返す。

「てゆーかそんなん急に言われてもさ。死神って何すんの?その鎌で人殺しすんの?俺、そーゆーのムリなんだけど」


ついさっき人殺しした自分のセリフじゃないな、と思うが最初からわかってて人殺しするのとじゃわけが違う。


いや待てよ。そうだとしたらこのナツキとかいうやつが俺を殺したようなもんじゃないか。


次第にイラついた東雲はナツキをじろりと睨む。


ナツキは肩をすくめて言った。

「勘違いしてるようだが死神は人殺しじゃない。死神の仕事は死んだ人間の魂をこちらへ運ぶことだ」

「じゃあその鎌はなんなんだ」

ナツキが腕組みした中にすっぽり収まっている、彼の身長程はある鎌に視線をずらした。

薄暗い部屋の中で鈍色に光る鎌は不気味という他ない。

「これは魔力の入った道具だ。これがないと魂の回収が出来ない。死神の証明みたいなもんだな。それから、死ぬ人間の決定は天界の天使が決める。そのリストをもらった蓮死長が仕事を割り振ったり、連れてきた魂で死神になれる資格のある奴に声をかけたりする。今まさにそんな状況だな」


ナツキがざっくりとだがわかりやすく説明してくれた。ただその中で一つ気になる言葉があった。

「資格?」

「まず生前に執着がないことだな」

蓮が目をつぶって口にした。

東雲には意味がよく理解出来なかった。

執着なら自分にだってある。まさかあんな風に人生が終わるなんて思ってもみなかったのだから。しかも一七才で。

本当なら、これからもっといろんな人生を迎えられたはずだった。

特別夢なんてあったわけじゃないけど、両親の死から立ち直り赤塚達不良とも離れ、やっと落ち着いた生活を送れると思っていたのに。




………?




ふと東雲は違和感を感じた。


そういえば…なんで俺、赤塚と会ったんだっけ?

確か学校帰りにコンビニの前で…。

…俺はどこかに行こうとしてて…

確か…そうだ誰かと待ち合わせを…




『東雲くん…、東雲くん』




ふと、頭の隅で声がした。女が俺を呼ぶ声。

誰かはわからない。だけど、とても優しい声。

思い出せないけど、自分は彼女に会いに行こうとしていた気がした。その途中で赤塚達と…。


「…執着なら、俺だってあるよ」

全てを覚えていない自分に不甲斐なさや憤りを感じた。どうして忘れてしまったんだろう。大事な人だったはずなのに。彼女の名前も、顔も、彼女との思い出も…何にもわからない。


蓮はようやく目を見開いた。

「執着と未練は違う。未練は…誰にでもある。違いは、自らの死を受け入れらるかどうかだ。生に執着を持っている魂にはこの仕事を任せられない。しかし残念なことに、執着のある魂は意外に多い。他にも要因はあるが、資格のある奴が絶対的に少ないのが現状だ」

相変わらず無表情で東雲を見つめ

「しかし、やる気がないならすぐに天界へ送る。それがルールだからな」と机上のリストらしいものを手に取り目を通し始めた。


時間がないことを知った東雲は覚悟を決めた。

「…いいぜ、やっても。あんたらも困ってるみたいだし。…ただし条件がある」

これは賭けだった。もし叶うならば、死神だろうがやってやる。


「まぁ、だいたいわかるな。お前が忘れている女のことだろう」

リストを上から下まで食い入るようにみていた蓮が呟く。

「…!」

「お前のデータはある程度入ってきてるからな」

蓮はリストを見えないように裏面にして机に置いた。

「で?その女のことを教えて欲しいのか?」


…違う。それじゃあ意味がない。自分から思い出さないと。自分が彼女の記憶を取り戻さないと。


「…そうじゃない。ただ、彼女に会いたい。そうすれば…思い出せる気がする」

蓮は僅かに目を見開いた。そして。

「…わかった、約束しよう。お前が思い出すかどうかは保証しないがな」

「…それでも、いいんだ」




それでも。他人に彼女との思い出を語られるよりはずっといいから。



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