第十二話 とある少年のお話 白影編(3)
白影は校門を出てからはやる気持ちで走り出した。
駅近くのいつもの喫茶店。そこに瑠璃さんがいる。
廃れた商店街や車通りのない道路を走って、走って。
息を切らしながら、赤信号でやっと立ち止まった。
その時。突如背後に人の気配を感じた。
「あれぇ〜?君もしかして」
背筋が凍った。二度と聞きたくなかったこの声は。
東雲は振り向きそれが誰かを確認した。
「…赤塚…」
彼は面白そうに笑って
「久しぶりだねぇ。君が市外の高校に行ったって話は聞いたけど、まさかこうして会えるとは思わなかったよ」
と、見下すような小馬鹿にした口調で言った。
彼…赤塚は東雲の中学の同級生だった。
東雲の父親はイギリス人と日本人のハーフで、母親はイギリス人。
つまり東雲は日本人のクォーターだった。
容姿はほとんどイギリス人と変わらない。
中学二年の時に交通事故で両親を亡くし、日本に住む資産家の祖父を頼ってイギリスからやってきた。
日本に住むからには日本人の生活を、という祖父の意向で日本人学校に転入させられたのだが、果たして自分にはそれがいいこととはこれっぽっちも思わなかった。
生まれも育ちも話題性たっぷりの彼は、とにかく目立ちいつも周りから浮いていた。
最終的にはイジメの標的にされるほどに。
そのイジメを指揮していたのがこの赤塚だった。
中学の頃から茶髪にピアス(それも3つも)、腰パンでポケットからジャラジャラ鎖を吊っていて、上流階級で育った東雲にはどう見ても下品にしか見えなかった。
今は口ピアスや髪を部分的に赤く染めたりと更に酷い容貌で、グラサンしてタバコまでふかしている。
日本ではこれが「普通」なのか。
東雲はうんざりした。
そもそも自分が彼らと同じ中学に通ったこと自体間違いなんだ。本当ならイギリスで飛び級して高校に通っていたはずなのに。
どうしてこんなヤツらの遊び道具にされなきゃならないんだ。
東雲は嫌悪感を露わに彼を睨み付けた。
「悪いが、おまえに構ってる暇はない。とっとと失せろ」
「おいおい、なんだよその態度〜。しばらくぶりに遊んでやろうと思ったのにさぁ」
赤塚は口角を吊り上げた。
そして、連れが数人後ろのコンビニから出てくるのを目の端で捉え
「ちょっと付き合ってもらおうか」
と凄む。
「イヤだって言ったら?」
「は、何それウケる。断れると思ってんの?」
赤塚の連れ、もとい子分は五人ほど。さすがに逃げられないと察した東雲は、腹を決めた。
「…いいけど。その代わり…
It retorts it if done.(やられたらやり返すぜ)」
これが彼の最期の言葉となることを、誰も知る由もなく。