第十一話 とある少年のお話 白影編(2)
「ふっふっふ…」
生徒会室にて諒祐は、隣でニヤニヤニマニマ笑う東雲を見て気味悪がった。
「キモ…」
心底うへぇっという顔で呟く諒祐にも東雲はめげず
「なんとでも言うがいい!今の俺は最強だ!なんてったって今日は」
「瑠璃さんとデートだろ。何べんも聞いたって」
諒祐はウンザリ顔で言った。
東雲が瑠璃先輩を好きなのは知っていたし、取り持ってもやった。
本当なら喜んでやりたいところだが、東雲があまりにも浮かれているのでその気が失せた。
「それはいいけど、そろそろ行かないとヤバいんじゃない?瑠璃さん待たせてるんだろ」
実はこの二人だけ、会計の仕事が終わらず居残っていたのだった。
会長の瑠璃は既に待ち合わせの喫茶店へ向かっている。
「あぁ、いいんだそれは。約束っていう約束でもないから」
東雲は書類をパラパラとめくり目を通しながら、淡々と続けた。
「元々毎週金曜日に、瑠璃さんが必ず行く行きつけのカフェがあってさ。俺が用事ない時お邪魔させてもらってる、みたいな?俺が行かなくても瑠璃さん、六時過ぎまではいるはずなんだ。だから、待たせてるってのとはちょっと違う。瑠璃さんにも今日はいけないかもって言ってあるし」
諒祐は東雲に不審気な眼差しを寄せた。
なんだその会えなくてもいいみたいな言い方。やたらあっさりしていないか。
「その割りに嬉しそうじゃん」
「え?ああ、別に会えるのが全てじゃないから。会えなくても、会いたいって思えば、会おうって思えば会ってくれる。瑠璃さんと時間を共有出来る。今はそれで充分だから」
東雲は心底嬉しそうに微笑んだ。碧の瞳が澄んで綺麗だった。
入学当時の獣のような目をした彼とはまるで別人だ。
「…おまえ、今本当に幸せなんだな」
何気なく呟く。
「…幸せだよ?怖いくらいにね」
諒祐も東雲もそれからずっと黙り込んだ。
――二人共、知っていた。いつかは終わりが来ることを。
どれくらい経っただろう。黙々と仕事をしていた二人は揃って顔を上げた。
「………よし、あとは先生に提出して終わりだな」
東雲は立ち上がった。
今からならまだあの喫茶店に間に合う。
「俺、これ出してそのまま行くわ。後片付けはおまえに任せる」
諒祐は何か嫌な予感がした。
「…おい」
とっさに東雲を呼び止める。
「ん?」
振り返った東雲はいつも通りの笑顔で。
だから、気のせいにした。
「…いや。色ボケも大概にしろよ」
「それは無理」
東雲はニッと笑って教室を後にした。