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8話 告げ口と骨接ぎ

「へぇ。マイナがそんなことを言ったの。」


 昼食後、パッケと一緒に冒険者ギルドの出張所に来ていた。義母さんとリナに食事を届けるためだ。


 そこで、さっきの父上とマイナ先生のやり取りを話すと、急に義母さんの声が冷たくなった。

 なぜあんな空気になったのかわからなくて、好奇心から義母さんに聞いてみたのだけど、この反応は失敗だったのかもしれない。これじゃ告げ口しているみたいだ。


「マイナ先生は真っ赤になってるし、父上も何か挙動不審になるし、空気は重くなるし、最悪だったよ。」


 開き直って、最後まで喋りきる。


 義母さんは笑顔で聞いているけど、その笑顔が何か怖い。


「それで、ヴォイドは何と答えたの?」


「えと、相談させてもらって良いかって。」


 もしかしたら義母さんは、マイナ先生が同じうちに住むことを警戒しているのだろうか?マイナ先生は美人だし、修羅場とかあり得るかもしれない。


「そう。相談ね。相談かぁ。」


 ふにゃりと、義母さんの空気が緩む。ちょっと顔が赤い。


「えっと、どういうこと?」


「これはあなたもいずれ注意しなきゃならないことなのだけど、男性のいる貴族の家に、使用人以外の若い女性が住み込むと、その女性は妾か妻とみなされるの。つまり、マイナは妾か妻に立候補したということね。」


 ああ、やっぱりあれは愛の告白だったのか。赤くなってたし。


「家柄的にも能力的にも、もっと良い条件のところはありそうなものだけど、あの子そういう話断っていたらしいし、ずっとうちを狙ってたのかしら。」


「ええっと、もし先生がうちに住んだら、義母さんはどうなるの?離婚?」


 確か、僕の本当の母上は僕を産んですぐ失くなったらしい。その後、父上が再婚したのが母上の双子の妹でもある義母さんだ。


 と、いうことは、こちらの世界も一夫一婦制ということではなかろうか。いきなり修羅場は勘弁してほしい。


「もしかして、イントも奥さんは一人とか思ってる?」


 僕は素直にうなずく。義母さんはちょっと呆れた顔をした。


「この国ではね、世襲の貴族と豪商は複数妻を持つことが許されてるの。貴族の場合は爵位にもよるけど、男爵なら二人で、爵位が上がるごとに一人ずつ増えていくの。」


「あれ?じゃあ僕のホントの母上と義母さんは、一緒に父上の妻になれたの?」


「そうね。でもうちの実家は新興の男爵家に二人も娘が嫁入りするのを渋っていたし、王家も邪魔してきてね。ダメだったの。」


「王家が邪魔?何があったの?」


「詳しくは知らないけど、妻の枠を埋めたくなかったということは、誰かと結婚させようとしてたってことじゃないかしら。直後に停戦条約が締結されたから、色々と事情が変わってるのかも知れないけど。」


 なるほど。父上は王家に目をつけられるレベルの人物だったということか。


 だとしたら、何で今こんなに貧乏なんだろう?


「パッケは何か知らない?」


 隣に立って、少し苦い顔で話を聞いていた執事に聞いてみる。パッケは古株なので、色々事情を知っていそうだ。


「奥様は御存知ないかも知れませんが、旦那様には当時、第三王女殿下と婚約するお話がありました。王女殿下側が希望されておられたと聞いておりますが、いろいろありまして、すでに殿下はナログ共和国の元首とご結婚されておられます。ですので、王家のことは気になさいませんよう。」


 正直、王女が家族になっていたかも知れないとか、ちょっと想像できない。本当に何をしたんだ、父上は。


 義母さんはというと、驚いてはいるが、どこか納得した顔をしていた。


 これはあれか。はぜろリア充!とか言うタイミングだろうか。


「そうだったの。だからあの時ヴォイドは処刑されなかったのね。ありがとうパッケ、教えてくれて。」


 でもなかった。なんか不穏な発言だ。義母さんの目が潤んでいる。


「まぁ良いわ。イント、ちょっとリナの様子を見てきてくれる?さっき骨折の治療に行ったんだけど、ちょっと遅いわ。」


 何で処刑されかけたのか、かなり気になるところではあるけど、鼻をグズグズいわせている義母さんは見ていられないので、外に出る。


 外には椅子に座った冒険者のおじさんと、その足元に座り込むストリナ、その横でストリナの手元をのぞき込む若い男性がいた。他にも、椅子に座ったおじさんと似たような服装の人が少し離れたところから見守っている。


「リナ、うまくいってる?」


 声をかけると、ストリナが振り返る。こちらに気が付くと、暗かった表情がパッと明るくなった。


「おにいちゃん!」


 視線がこちらに集中する。あ、これはうまくいってないな。全員の表情が暗い。


「どうしたの?」


「それがね。なにもおきないの。おねがいしてるのに、せいれいさん、いうこときいてくれないの。」


 ストリナが泣きそうになっている。マズイ。言っていることがイマイチわからない。無意識に目が泳いで、ストリナの隣に立っている若い男性と目が合う。


「イント様でらっしゃいますね。お初にお目にかかります。私は冒険者ギルドの出張所職員のオバラと申します。」


 目が合っただけなのに、ものすごく丁寧な挨拶をされた。オバラさんは急所だけを守る軽装の革鎧と、剣を身に着けている。ベルトには小さなナイフもぶら下げられていて、単なる職員には見えない。


「先ほどからストリナ様が治癒の神術であるヒールを使われているのですが、神術が発動しないのです。どうも聖霊が術の発動を拒否しているようでして。」


 オバラさんは、進み出て説明してくれる。へー。治癒の神術って、聖霊とかいうのにお願いして、治してもらうものなんだ。


「わたしがみじゅくだからなの!やくたたずなの!」


 6歳のくせに未熟とか役立たずとか、難しい言葉知ってるよな。ぽろぽろと泣き始めるストリナを見て、ちょっと動揺しながらそんなことを思う。


「骨を折ったのはあっしが油断したせいで、治らないのはお嬢ちゃんのせいじゃねぇよ。泣きなさんなよ。」


 椅子に座った顔色の悪い冒険者がストリナを必死に慰めている。その足は、脛の辺りが異様に腫れて変色していて、途中不自然な段差まであった。見ていて痛々しい。


 ん?段差?昔理科準備室でみた骨格標本を思い出してみるが、あれ、もしかして骨がずれているからじゃ・・・


「ねぇオバラさん。ヒールって、ズレた骨とかも元の位置に戻るの?」


 オバラさんは聞かれている意味が分からない様子で、首を捻っている。


「ずれる?ずれるというのはわかりませんが、骨折がひどい場合、聖霊神術のヒールは発動しないことがあるという話は聞いたことがあります。護法神術のヒールであれば一応発動しますが、治っても歩けなくなったりすることはあるようです。そのあたりは自然治癒と同じですね。」


 神術というのがイマイチよくわからないので理解できない。でも歩けなくなるのは骨がズレたままくっつくからではなかろうか。保健体育で骨折の応急処置を習った際、そんな話を聞いた覚えがある。


 ただ、その時は無理矢理戻さず医者に見せなさいと言われたけど、医者のいない今は、自力でどうにかするしかない。


 神術があれば、何とかできるかもしれない。


「そうですか。かなり痛いと思うのですが、少し触らせてもらって良いですか?」


 顔色の悪い冒険者は泣いているストリナの顔と僕の顔を見比べ、うなずいた。


「それで何とかなるなら、やってくれ。」


 オバラはハラハラしているようだが、口を挟んでくる様子はない。よし。物は試しだ。


「リナ。俺が合図を出したら、もう一度ヒールだ。いけるかも知れない。」


 僕が近づくと、冒険者のおじさんは布を思い切り噛んで、ぎゅっと目を閉じた。患部に近くに触れると、ビクンと小さく身体が跳ねる。


「力を抜いてください。行きます。」


 骨格標本をイメージしながら、足を引っ張るが、8歳の力ではちょっとやそっとの力ではビクともしない。おじさんは脂汗を搔きながらグッと耐えている。

 そろそろと全体重をかけて引っ張って、ようやく段差が小さくなる。手を添えて、骨を押し込む。

 目にしわが寄るくらい思いっきり目を閉じて脂汗を流すおじさんが痛々しすぎて、こっちも脂汗が出てきた。


「リナ、やって!」


 構えていたリナが、すかさず護符をかざしてヒールをかける。キラキラとした光が、おじさんの身体に吸収され、それが脛に渦を巻くように集まっていく。


 効果は劇的で、一瞬で腫れが引き、紫色に変色していた肌が元の色に戻っていった。前世の世界ではありえない、奇跡の光景だろう。光が消えると、骨折の痕跡がまったくわからなくなった。


 これが神術。すごいな。まだ6歳でこれとか、将来どうなるんだろう?


「おおおお。すごい!痛みが引いたぞ!」


 おじさんは僕以上に感動していたようで、泣き出さんばかりに喜んでいる。


 おじさんの脛から手を放して、ストリナのほうを見ると、こちらも飛び上がらんばかりに喜んでいた。


 オバラさんは放心していて、ポカンと口が開いている。


「もうダメかもと思ってたけど、これなら冒険者を続けられる!ありがとう嬢ちゃん坊ちゃん。」


 遠巻きに見ていたおじさんの仲間達が駆け寄ってきたので、おじさんも椅子から立ち上がり、その後仲間たちにもみくちゃにされていた。


 治ってすぐ動いて良いんだろうか。神術による治癒が、どの程度なのか知らないけれども。


「よかったね!ありがとう。おにいちゃん。」


 ストリナはニコニコと上機嫌になっている。


 オバラが冒険者おじさんの仲間から何か渡されて、我に返っていた。銀色がちらりと見えたので、多分報酬の銀貨だろう。


 おそらく、ストリナの仕事は終わりだ。


「そうだな。これで終わりなら、お昼持ってきているから、食べようか。義母さんが待ってるよ。」


 その後、ストリナは昼食を食べながら、嬉しそうに母さんとパッケに先ほどのことを話していた。

 途中、発動しなかった神術が僕が何かして発動したというあたりで、なぜか二人から何をしたか問い詰められて、骨のずれを直したと説明したら、変な目で見られた。


 医者でもないのに、勝手に骨の位置を直したのは、まずかったのかも知れない。前世なら正しくない処置で、間違いなく怒られていたはずだ。


 最終的に問題なく治ったので、怒られたりはしなかったけれど。

キーワードに「ハーレム」は入れたが、それが主人公の事とは言ってない(キリッ)


なお、作中に、主人公が骨接ぎをしているシーンがありましたが、実際には添え木をして骨がズレないよう応急処置をして、病院に運ぶというのが教科書的に正しい答えとなります。お間違えなきようお願いします。


——感謝——

初めて感想をいただき、さらに評価もお2人目からいただくことができました。

総合評価が2桁突入・・・。これからも頑張ります!

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