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49話 人外と崩壊【ヴォイド視点】

 筋肉ダルマの巨体を赤い刺青が覆い尽くしている。


 符咒で使われる紋様について教えたことはないため、描かれているのは聖紋である。


 身体に聖紋を描き、仙術によって蓄えた霊力を使って、神術を発動させるという方法は、以前研究したことがあるが、そう簡単にはいかなかった。


 皮膚の表面にしか術が展開できなかったのだ。炎系神術を使えば燃えるのは自分だけだし、水系神術は湿るだけ、風系神術なんか発動したかどうかもわからないくらいだった。


 それに対して、こちらは古文書を解読して見つけた、仙術の一系統である符咒の紋様をアレンジしたものだ。神術からの防御や身体強化に特化していて、『雷法』による攻撃力強化もある。


 何より仙術との親和性はこちらのほうが上だ。


「双方、構えっ!」


 審判が手を上げ、振り下ろすと同時に銅鑼が鳴る。


 シーゲンは開始直後に、『縮地』で距離を詰めてきた。


 まずは小手調べなのだろう。無造作に棍を振るってくる。


 ん?小手調べって何だ?


 シーゲンはすべて一撃必殺を狙ってくる奴だ。猛烈な違和感と嫌な予感で、全力で飛び退く。


「へ?」


 閃光が走り抜けて、余波で視界がくるくると回転する。


 今、何が起きた?感覚としてはジェクティとの模擬戦に近いが、シーゲンにそこまでの攻撃力はなかったはずだ。


 視界の隅で、闘技場の舞台が三分の一ほど抉れて砕け、審判が腰を抜かしているのが見える。


「おいおい、直撃したら肉片じゃないか。やりすぎだ。」


 シーゲンが何をしたかよくわからないが、危険性は十二分に理解できた。あんなものを連発されたら、観客に被害が出て、失格になりかねない。


「いやいや、これくらいやならないと師匠には通じんでしょ。」


 シーゲンは嬉しそうに棍を構える。


「後学のために一応聞くが、今何をした?」


「いやぁ、ジェクティ姐さんの殲滅神術に憧れてたので、師匠から『丹咒身』を教えてもらってから、いろいろ試して、できました。」


 シーゲンの刺青が身体からふわっと浮かび上がり、空中に聖紋が展開される。そこをシーゲンの圧縮した霊力を込めた拳が射抜く。


 空中の聖紋陣が輝き、先ほどの閃光が放たれた。


「あぶねっ!」


 躱すと観客に被害が出そうだったので、木剣で神術の構成ごと斬る。が、霊力の圧だけで踏ん張りきれずに後退させられる。


 確かにジェクティの殲滅神術の極小版だ。


「できましたってな。仙術と神術は同時行使できないことになってるんだから、できてもここでやっちゃダメだろ。」


 それが可能だと気付く人間がいれば、いずれできる人間が増えて行き、できる人間の優位性が揺らぐ。


 自分もシーゲンも、仙術の開拓者という立場からくる優位性で成り上がったにすぎない。二人とも究極的に優秀だったわけではないので、技を盗まれて、対策を見つけ出されてしまえば、たちまち優位性は失われてしまう。


「お堅いですな。師匠。これが仙術ではないと観客が気付けますか?」


 シーゲンが棍で殴りかかってくる。その一撃一撃に衝撃波や閃光が上乗せさせてくる。


 こちらも強力な身体強化と雷で応戦するが、防ぎきれなかった余波だけでジリジリと体力と舞台の石材が削られていく。


 シーゲン、また腕を上げたな。気を抜けば全部持って行かれそうだ。


「ひ、ひぃ」


 石の破片が直撃した審判が、あざになった頬を押さえながら、ものすごい勢いで舞台上から逃げた。


 砕ける舞台の細かい破片は、すでに観客席にも降り注ぎ始めている。


「これが異常事態というのは、誰でもわかるさ。まぁでも、審判が逃げてくれて助かった。」


 雷をまとわせた木剣から、シーゲンの足元を狙って『飛刃』を放つ。シーゲンはギリギリで躱す。


「あがが」


 雷には不思議な特性がある。かすっただけでも相手を痺れさせることができるのだ。


 一瞬のスキを逃さず、踏み込んで木剣を叩きこむ。


 が、その手応えは砂袋を叩いたような感触で、ダメージが通らない。


 もうちょっと高威力の攻撃が必要そうだ。


 少し迷ったところで、シーゲンが自由を取り戻す。


「むん!」


 シーゲンは棍を振り抜いて、衝撃波を飛ばしてくる。周囲の舞台がビスケットのように砕けていく。受け止める気にもならないので、『雲歩』で空中へ駆け上がり、衝撃波を見送る。


 キィン!


 衝撃波は元々の舞台の端ぐらいまで到達して、出現した透明の板に弾きかえされた。


「おお!姐さんか。ありがたい!」


 気がつくと、上も含めて、四方が覆われていた。ジェクティが防御系の神術である『結界』で覆ったのだろう。これなら余波で観客が傷つくことはなくなる。


「まったくだ。」


 次の一合で、木剣と棍が粉々になり、発せられる衝撃波が、結界を揺らす。


 そのまま、高速で移動しながら連続で術を打ち合う。


 全身の刺青は水銀であるため、金行の術である『飛刃』は手からでも放てる。本来の威力とまではいかないが、木剣から放つよりは威力が格段に上がるはずだ。


 シーゲンも拳で聖紋神術を発動させ、クレーターを大量生産してくる。


 それにしても、霊力の消耗が激しすぎる試合だ。


 見ると、シーゲンの刺青も数が減ってきている。こちらと同じように消耗しているのだろう。

 肩で息をしていて苦しそうだが、やたら嬉しそうだ。


「師匠と本気でやりあってみたいという夢がかないましたよ。」


 余所行き口調で、シーゲンが笑う。


「おい。正直なところを言ってみろ。」


 挑発するとさらに楽しそうな顔になった。


「ぶっ飛べ女たらし!!」


 瞬間、これまでで最大の聖紋陣が空中に展開された。しかも複層の多重展開。


 おそらく、あれが直撃したら、この闘技場は観客席を含めて丸々吹き飛ばされる威力になるだろう。そこまでジェクティに似せなくても良いのに。


 だが、ジェクティに似ているからこそ、これまで喧嘩で何度も経験している。こちらも2枚目の切り札を切ることにしよう。地味な術なので、観客席からは何をしたかわからないはず。


「『霞喰』!!」






祝!武闘大会突破。


———お礼———


総合評価が700ptに到達しました。


ユニーク閲覧数からすると、8千人以上の方に読んでいただけたようです。


本当にありがたいですね。


引き続き、評価やブックマークなどで構っていただけると、作者は喜んで続きを書きそうな気がします。

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