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45話 剣闘士と孫弟子【ヴォイド視点】

またまたヴォイド視点です!

 

 深呼吸を繰り返して、魂魄に圧縮した霊力を満たしていく。


 仙術は『魂魄』をコントロールする技術だ。『魂』は精神的な部分を、『魄』は肉体的な部分を指す。双方鍛えて行けば、掛け算的な肉体強化が可能になり、神術や毒物に強い耐性を持てるようになる。極めれば老いに対する耐性も手にはいるそうだ。


 限界まで霊力を満たし、目の前の男を見る。なぜか化粧をしている細身の男だ。名をペーパというらしい。


 予選第7ブロックにはシーゲンの息子であるナックスがいたはずだが、彼が上がってきたということは、ナックスは負けたのだろう。


 ナックスは仙術に至っていたと聞いている。つまり、彼はできるということだ。剣闘士は実戦的な戦い方をしないイメージがあるが、そうではないかもしれない。


 どちらにせよ、イントからの課題は、相手の実力を出し尽くさせて、圧倒的な実力差で勝つこと。

 リスクが大きすぎて好みではないけれど、死ぬことがないなら面白いかもしれない。


「双方、構えっ!」


 審判が声を上げる。


 さて、どうしたものか。シーゲンは開始後一撃で勝負を決めていた。相手に力を出させる前に勝つというのは、弟子としてのシーゲンに教えた戦術だ。

 こんな場面でも教えを守るとは、律儀な奴だ。


 同じように勝ちたいところだが、与えられた課題から考えればそれはできない。


「とりあえず、すべて受けてみるか。」


 呟いて、木剣を正眼に構える。


 相手の武装も木剣だ。通常の間合いは五分。『飛刃』を使えば間合いの外から攻撃できるが、剣を振るという動作がともなうので、神術の『風刃』より躱しやすい。


 相手も正眼の構え。観客を意識してか、わずかに微笑んでいる。


 審判が片手をまっすぐ上げた。


 ペーパの目が細められる。半眼であれば、瞬きはない。『縮地』を警戒しているのだろう。確かに、普段であれば瞬き一つの隙で、すべてを終わらせることができる。


 審判が手を振り下ろし、銅鑼が鳴らされる。


 だが、ペーパは動かない。


 少し待ってみるが、やっぱり動かない。どうやら初撃まで手の内を伏せるつもりらしい。戦場では手の内を研究された奴から死んでいく。


 見た目の軽薄さと違い、手堅い奴だ。


 そうなれば、相手に実力を発揮させるために、こちらから動く必要がある。


 遠距離戦は苦手だが、まずは『飛刃』から行ってみるか。


 と、思った瞬間、一瞬でペーパが目の前に迫っていた。


 どうやら無意識に瞬きをしてしまったらしい。


「セイッ!」


 一歩下がって振り下ろされる剣閃を躱す。まさか、同門以外で『縮地』を使える人間がいるとは思わなかったので、これは油断なのだろう。


 ゾッとする感覚とともに、ペーパの剣が跳ね上がってくる。さらに下がろうとするが、『縮地』に制動をかけていなかったので、間合いはすぐに詰められる。


「チッ」


 弾き返そうと、迎撃に出てみたが、横向きにくるりと回転して躱された。その回転の勢いそのままに、剣が叩きこまれてくる。


 今、わかりにくかったが、回転の時空中を一回蹴った?


 疑問がよぎる。地面を蹴る『縮地』と、宙を蹴る『雲歩』では難易度がかなり違う。


 あれが出来るのは師匠と直弟子であるシーゲンとアノーテ、あとは神術で似たようなものを再現したオーブとジェクティぐらいのものだ。


 雑念のせいか、躱す際に服の袖が少し裂けた。


『飛刃』を連発するという手もあるが、観客に被害が及ぶのはご法度なので、この位置から撃つのは危険が伴う。


 まぁ力押ししかないか。


 と、いうわけで、小細工なしの連撃を次々に打ち込んでいく。


 最初のうちは何とか躱したり捌いたりされたものの、すぐにペーパの息が上がり始め、やがて必死の形相で防御に徹し始める。


 ここまで防げるのは妙だ。すでに剣術から仙術に至っていることは間違いないが、独学でここまで至れるものだろうか?


 霊力の使い方も、自分が教えた弟子たちにそっくりだ。


 だが、顔も名前も憶えがない。


「むんっ!」


 腕を爆発的に強化して、こちらの木剣をペーパの木剣に叩きつける。ペーパは木剣に両手を添えて防ごうとするが、木剣が折れて吹っ飛んでいく。


 勝負あったかな?


 吹っ飛んで行ったペーパは、空中を何度か蹴って勢いを殺し、床に転がる。


「聞いてたとおり、とんでもない人だ。」


 ペーパが息を切らしながら、折れた木剣を両手に構える。


「聞いてた?」


 思わず聞き返す。やはり関係者なのだろうか?


 考えられるとすれば、孫弟子だろうか?


 ペーパが短くなって2本になった木剣を手に、こちらに飛び込んでくる。そのまま回転しながら連撃を打ち込んできた。


「なるほど。その双剣術、アノーテの弟子か。」


 アノーテは、冒険者時代のパーティーメンバーの一人で、短剣を両手に持って戦うスタイルの女性だった。一緒に義勇兵にも志願し、指揮官だったシーゲンの副官をやっていた。終戦後は、嫁入りする第三王女パイラ様の護衛として、ナログ共和国に渡ったと聞いている。


 甘酸っぱい思い出と、苦い思い出が同時に溢れてきた。


「わかりますかっ!」


 最後の力を振り絞って暴風のように回転するペーパから、『縮地』で距離をとる。


「アノーテは元気か?」


 問いかけると、ペーパはいったん止まって、息を整え始めた。


「ええ。あなたの子どもを育てながら、元首婦人の護衛主任をこなされていますよ。」


 ペーパの言葉で思考が止まる。あのアノーテが子どもを産んだ?それも僕の?


「今は雑念は捨てていただきましょうか。私はあなたに勝ちたい!」


 再びペーパが飛び込んでくる。心は呆然としたまま、身体が勝手に迎撃を開始する。


 僕の本来の剣は、本能的・反射的な防御を磨けば磨くほど、防ぎにくくなる幻惑の剣だ。


 卑怯な印象とならないよう、今回の大会では封印しようと思っていたが、身体が反射的に動く。


 心を占めるのは、あの時の恥ずかし気な笑顔と、あの日追えなかった無力感と罪悪感、そして何も教えられていなかった焦燥感。


 試合をとっとと終わらせて、部屋で一人で不貞寝したい。


「な!?」


 気がつくと、防御をことごとく失敗して、再び吹っ飛んでいくペーパが見えた。今度はちゃんときりもみしながら場外まで飛んで、地面を転がって動かなくなる。


 これはやりすぎたかもしれない———



すでに公開している話に、大きく手を入れたくなる衝動に駆られて、現在葛藤中。


誰だ武闘大会の賞金で出資金を作ろうとか言いだした奴は!!


———お礼———

総合評価が600を超えました。読んでいただいてありがとうございます!

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