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43話 人外と本戦

 


 拍手の中、父上が疲れた様子もなく退場していく。


 父上は軽く流しているかのような、体重を感じさせない動きで、空まで飛んで見せた。


 相手のリーダーと開始前に握手していたのもポイントが高いし、圧倒的不利な状況から、攻撃をすべて捌いた上で、無傷で相手を圧倒したのも、物語っぽくて良い。


「ここまではイント君の計画通りだね。お義父さん、予想以上に演劇の騎士みたいだよ。」


 マイナ先生がぎこちなく笑いかけてきた。想定を遥かに上回る実力に、観客席のざわつきは収まっていない。


 父上は退場途中にストリナに抱き着かれ、頭をポンポンしながら引きはがしていた。子煩悩なのも大衆に受けるだろうか?


 このまま父上には優勝してもらい、我が家の名誉と信頼を回復させ、その上で製塩業に出資し、広告塔になる。製塩業の資金がなんとかなったら、経営は誰かに任せて不労収入を手に入れる。以降は働かなくても良いバラ色の人生だ。領地に引きこもって、マイナ先生とイチャイチャして過ごせばよい。


 まぁ、塩の件も難航しているので、そんなにうまくいかない気がしないでもないけれど。


「陛下も実力を示した上で優勝せよと仰っていたし・・・・。」


 マイナ先生の方に視線を向けると、その向こうの殺気に似た剣呑な気配を放つフォートラン伯爵と目が合う。


「えっと。どうなさいました?フォートラン伯爵様?」


 目が座っていて、正直怖い。


「小僧は、マイナちゃんにヴォイドの事を『お義父さん』て呼ばせとるんか?まだ儂は許可を出しとらんはずやけど、気の早いこっちゃな。」


 また、意地悪そうな口調で、伯爵が会話に入ってくる。いや、ちょっと待て。そもそもマイナ先生って、父上のことを『お義父さん』なんて呼んでたっけ?


「伯父様!イント君はまだ8歳なんだから、肩車なんて子どもの遊びだよ!そんなの根に持って揚げ足をとらないで!」


 さっきから、マイナ先生がこちらの肩ばかり持つので、伯爵の機嫌はさらに下降している。けっこうお酒を飲んでいるからかもしれない。

 が、そもそも呼び名はマイナ先生が、急に切り替えたから僕が絡まれているわけで、僕に責任はない。マイナ先生、もしかしてわざとやってる!?


「いーや!騙されたらあかん。そいつは見た目通りとちゃうんやろ?さっきも、鼻の下を伸ばしてだらしなく笑っとったわ。婚約の許可取りに来て、他の女の股座に頭突っ込むとか、ありえへんで。マイナちゃん目ぇ覚まし。」


 言われてみれば肩車はあり得ない気がしてくる。前世ですら女子を肩車するとか恥ずかしかったわけで、それよりも貞操観念が厳しいこちらの世界で許されるわけがなかった。

 ちなみに、笑っていたのは確かだけど、照れくさかっただけで、だらしなくはなかった、と、思う。


「伯父様!酔いすぎです!デリカシーがなくなってきてますよ。」


 マイナ先生、身分差を気にせず反発してるけど、大丈夫なんだろうか?フォートラン伯爵は嬉しそうだけど。


 ユニィは隣の席で、真っ赤になって小さくなっている。


「イント、ごめん。」


 ユニィが小声で謝ってくるが、打開策が見つからないのでどうしようもない。肩車は本日2つ目のミスだ。


「こっちこそごめん。ゼンさんが聞いたら怒りそうだよね。」


 全方位でマズい。慣れないことを急にやったもんだから、色々無理が出てきている気がする。


 現実逃避で闘技場の方を見ると、ストリナが笑顔で負傷した選手の治療に当たっているのが見えた。内容は聞こえないが、楽しそうにお喋りしている。


「それはイントがコテンパンにすればいい話だから、予定は変わらないよ。」


 ゼンさんに剣の練習に誘われるというあれか。もし本当に誘って来たら、丁重に断ろう。


「何で僕がゼンさんに勝てると思ってるんだか。」


「さっきの試合見てもわかんない?立場的にはヴォイド様の後継者なんだよ、イントは。」


 ユニィの言葉に背筋がゾッとする。他人事だと思っていたけど、もしかして僕自身も下手に負けたり逃げたり出来なくなるのだろうか?


 骨折の治療を受ける選手たちが、目に飛び込んでくる。あんな痛そうな世界が身近になるとか、勘弁して欲しい。


「無茶だよ。僕にそんなに怪我させたいわけ?それに、僕が勝とうが負けようが、婚約は破棄できないでしょ。」


 聞いている話では、許嫁としては悪くはなさそうだと思う。根拠の無い自信と、先に聞いた話を疑わない純粋さは、中二ぐらいの年頃によくある傾向だ。あと2、3年もすれば落ち着くだろう。


「それは関係ないの。イントを馬鹿にしたの、絶対許せないんだから。」


 何だろうか。本人は怒ってないのに、ユニィだけ怒って、でも僕がその怒りを処理しなくちゃいけない。何だか理不尽だ。


 ふと視線を感じて、マイナ先生の方を見ると、二人そろってこちらを見てる。言い争いは終わったらしい。


「マイナちゃん、あれはええんか?性懲りもなくイチャついとるで?」


「良いんです。ゼン様をコテンパンにするのは大賛成ですから。」


 マイナ先生はふくれっ面で、それでもこちらの肩をもってくれる。だが違うんだ。そっち方向への援護射撃はありがたくない。


「もーワシはイントをコテンパンにしたいけどな。」


 フォートラン伯爵は半眼でこちらを見ながら、果実酒の入ったグラスを不機嫌そうにあおる。


 ユニィがまた真っ赤になって小さくなる。僕が気に入らないのはわかるけど、ユニィまで巻き込むのはやめて欲しい。


「あ、父上出てきた。」


 ユニィが呟くと同時に、銅羅と大太鼓が打ち鳴らさられる。本戦は入場も演出があるらしい。


 シーゲン子爵は、棍を肩に担いで、重厚な威圧感を放ちながら入場してくる。控え目に言って、お腹がポッコリしたぽっちゃり体型なので、威圧感とのギャップが半端ない。


 対する相手は、木剣を持った剣士風の男だ。確か予選第一ブロックの勝者だったか。


 バトルロワイアル方式だった予選とは違い、本戦は一対一方式になるらしい。


 第一ブロックの試合は良く見てないが、フォートラン伯爵があんまり良い試合ではないと辛口なことを言っていた。つまり相手は格下ということだろうか?


 双方15メートルぐらい離れた位置で向かい合い、一礼する。


 審判が真ん中に立って、手を真っ直ぐ上に上げる。


 会場がシンと、静まった。


 数瞬の間をあけて、審判が手を振り下ろす。


 同時に銅羅が鳴らされる。


「え?」


 次の瞬間には、折れた木剣が宙を舞い、剣士風の男が意識を失って、スローモーションのように倒れていく。


 その少し後ろで、シーゲン子爵が棍を振り抜いた状態で停止していた。さっきも父上も使った『縮地』というやつだ。


 試合時間、1秒。木剣が折れているところから見て、相手選手も防御しようとはしたのだろう。だが、圧倒的すぎたようだ。


 相手に実力を一切発揮させずに勝つ。おそらく父上も、何も言わなければこういう戦い方をしていたような気がする。


 これはこれでアリだったかもしれない。


「はっは。今年の決勝は盛り上がりそうやな。酒がうまいわ。」


 ほとんどの観客は理解が追い付かなかったのだろう。たっぷりと間を開けてから、絶叫に近い歓声が場内を満たした。




 先日来、読もうと決意していた『道徳』の教科書を図書館で読んできました。東京書籍さんの中学の教科書でした。なんというか、文章が多い。


 内容は古文や漢文の説話系の話を現代風のジレンマにアレンジした感じでした。その昔に数学と物理で役割が重なってしまったことがありましたが、国語と道徳、役割がかぶらないですかね?


 ともあれ、読了感はなぜか最近ライトノベル扱いされなくなった某シリーズにでてきた『責難は成事にあらず』の衝撃をかなり軽くした感じでした。

 答えが一つではない物語は割と好物なので、読み物としても面白いかも。


 多分これ、小説のテーマの参考にすれば、多少重厚で少し説教臭い話が書けるかも。皆さんも1作どうです?



———お礼———


更新もしていないのに、こっそり増えていくブックマーク。いつもホントありがとうございます。


アプリで読んでくれている方も、たまに直接ログインして、評価をポチっとしてくれると、作者は机を叩いて喜びます。


引き続きよろしくお願いいたします。

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