42話 第3騎士団と背負い投げ【ヴォイド視点】
開始の笛が吹き鳴らされた。
戦場を駆け巡っていたあの頃のように、緊張で手が震える。いつまで経っても、この感覚は慣れない。
緊張をなんとか噛み殺して、騎士団を観察する。
騎士団は前衛、中衛、後衛と分かれており、前衛は大盾を全面に並べて、その隙間から槍を突き出して陣地を築いていた。
中衛は陣地の左右に分かれて槍を構えていて、後衛はその後方で聖言を唱えている。
軍と魔物が戦う際のスタンダードな陣形だが、やはり練度が高そうなのが厄介だ。
開始直後に炎の玉が複数飛んできたので、木剣で斬り払う。炎の玉が構成を斬られて爆発せずに消えていくのを見ながら、相手の力を引き出す方法を考える。
かつて考えていたのとは真逆で、何だかおかしくなる。まぁゆっくりやって行こう。
炎の玉を斬ったのが珍しかったのか、観客席がどよめく。
小走りに陣形の側面に回り込もうとすると、すぐに中衛が反応して、回り込んだ側の前衛にスイッチする。反対側でいらなくなった前衛は中衛に入った。
なるほど。中衛は前衛の予備兵力か。
後衛から、今度は見えない風の刃が複数同時に防げないタイミングで放たれる。まぁ当たっても問題ないけど、とりあえずステップで位置を変えて、かわせないものだけ剣で斬る。
相手の陣形は、盾で防御を固めていて、槍で間合いに入れないようにして、神術で攻撃するためのものだというのは分かった。ならば、こちらはまずは遠距離から小手調べだ。
10歩ほど離れた位置から、木剣を横薙ぎに振るう。木剣に何かを斬るような負荷がかかり、剣から衝撃波のような飛ぶ斬撃が放たれる。
元々は金属の刃からしか放てない『飛刃』という高位仙術の一種なのだが、最近改良して木剣からでも放てるようにしてみた。神術では遠距離攻撃が基本で自己強化が奥義となるが、仙術はその逆、自己強化が基本で、遠距離攻撃が奥義になる。
見る人が見れば高位であることが伝わるが、神術で風の刃を見慣れていれば凄さが伝わりにくい技だ。
バキッ!
『飛刃』が前衛が構える盾に命中した瞬間、オガクズが飛び散って一文字の筋が入る。が、斬れてはいない。
この程度では盾の強固な防御は抜けそうもない。金属製の剣なら両断できたと思うが、仕方ない。
「怯むな!仙術士には神術が効きにくいだけで、まったく効かないわけではない!全体、前へ!」
掛け声と共に密集陣形が前進を始める。一糸乱れぬ動きで、動揺は見られない。まったく厄介な奴らだ。
後衛の神術士たちの詠唱も聞こえてくる。合唱のようになっているので、おそらく同じ神術を同時発動する気だ。長い詠唱でもあるので、高威力の範囲攻撃だろうか?
中衛が左右に広がって、こちらを取り囲むように展開してくる。おそらく、闘技場の端で逃げ場をなくす作戦だ。
さっきの風の刃程度ならどうということはないが、例えばジェクティクラスの範囲神術が来たら、仙術の防御なんかぶち抜かれてしまう。どんな術が来るかわからない以上、真正面から受けるのは得策ではない。
「まぁでも、その程度で逃げ道がなくなるはずもないわけで。」
呟きながら、タイミングを計って空中に駆け上がった。次の瞬間に炎の嵐がそれまで僕のいた辺りを舐めるように吹き荒れている。
先ほど空中に駆け上がった術は、高位仙術の『雲歩』だ。真人と呼ばれるレベルの仙人は、雲に乗って移動すると言われている。その基本となるのが『雲歩』で、こんな風にがんばれば雲がなくても何とかなったりする。
会場のボルテージが上がるのを聞きながら、ちょっとブルーになった。これを見せた以上、次から空に対する警戒が強くなるだろう。
空からの奇襲があり得ることを知られるだけでも、何かと厄介なのだが。
見下ろすと、騎士たちが驚愕の表情でこちらを見上げている。彼らの上司のベシク子爵を見ると、先ほど爆笑していたのが嘘のように、歯ぎしりせんばかりの顔で観戦していた。
あの顔を見れただけで良しとしよう。
上空から、『飛刃』を下に向かってまき散らす。飛び道具がないので、反撃できず、大盾が削られていく。オガクズだらけになった騎士たちが、ヤケクソ気味に槍を投げつけてくるが、空中で『飛刃』に弾かれてこちらまでは届かない。
おかげで槍が減って、陣形が崩れた。
騎士団から離れた位置に着地して、木剣を構える。これで相手の実力は十分に引き出せたと言えるだろうか?
神術が散発的に飛んでくるが、もはや連携は取れていない。動揺しているようなので、これ以上続けても実力は出せないだろう。
相手の実力を引き出す方法、もっと考えておかないとな。
トントンと、軽くステップを踏んでから、仙術で自分の身体を強化し、軽く地面を蹴る。ストリナに見せるなとジェクティに言われ、あれから封印していた『縮地』と呼ばれる技術だ。
元々は一歩で数歩分動いている様子が、地面を縮めているように見えたからその名がついたらしいが、今みたいにがんばれば瞬間移動みたいに見えないこともない。
騎士たちからは、陣形の側面に急に僕が現れたように見えただろう。
側面には盾がないので、目についた騎士から順番に、木剣で腕や足を折っていく。どんな陣形もだいたいそうだが、陣形の内側に入ってしまえば、後は簡単な作業だ。
隊長らしき人だけが、唯一まともに反応して反撃してきているけど、それを捌きつつ、雑兵の処理を進める。
あっという間に、闘技場を倒れた選手たちの呻き声が満たすようになった。
立っているのは、隊長と僕だけ。
「いやはや、噂とは当てにならないものですな。良い噂も悪い噂も、どちらも正しくなかったようだ。」
お互いに木剣を構えて、しばし見つめあう。
「どのような噂かは知りませんが、お恥ずかしい限りです。」
隊長の実力は、パッケのレベルに僅かに届かないくらいか?
「こちらこそ、井の中の蛙であると思い知らされているところで、顔から火が出そうですよ。」
言い終わると、隊長がこちらの間合いに踏み込んできた。動きは制魄が十分できているレベルで、もう少し魂を鍛えれば仙術のレベルに至れそうな鋭さだ。
1撃、2撃と避けて、3撃目で木剣受け止めざるを得なくなる。年齢からすると、今後、自力で剣術から仙術に至る可能性のある逸材だろう。
そんな事を考えながら、隊長の剣を延々と捌く。圧倒的な力を示すには、攻撃を貰うわけにはいかない。さりとて、一撃で沈めたら相手の実力を引き出せない。
さじ加減に迷いながら、40撃目ぐらいまで捌いたところで、隊長の息が上がり始める。これぐらいで充分かな?
隊長が疲れて体勢がブレたところで、そのまま木剣を外に流し、袖と襟を掴んで懐に潜り込む。
イントから習った異世界の技、『背負い投げ』である。
隊長はキレイに宙を舞って、背中から地面に叩きつけられた。イントから『受身』という防御技を習っていなければ、技の威力を受け流せないため、おそらくこれで終わるはずだ。
投げた後すぐに隊長から離れ、様子を伺う。
隊長は白目をむいていて、起き上がってくる気配はない。
「予選第8ブロック、勝者はヴォイド・コンストラクタ閣下です!」
審判が駆け寄ってきて、腕を取って持ち上げられた。
空中に文字が浮かんでいるのが見え、轟音のような拍手が会場を満たす。
急に気恥ずかしくなったが、ともあれこれで予選は終わりだ。なかなか難しかった。
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