41話 第3騎士団と集団戦【ヴォイド視点】
今回は父上視点です。初めての試みですが、ご了承ください。
貴族になったのは失敗だったろうか。
王家から与えられたコンストラクタという家名を捨てて、ただのヴォイドとして生きる道を、自分はなぜ選ばなかったのか。
事の始まりは、冒険者パーティーメンバーだったオーブ達に誘われて義勇兵として戦争に参加したことだ。当時のオーブとジェクティは巷でも噂になる程の美少女姉妹で、アノーテも冒険者ギルドで飲んでいたら、声をかけられまくるほどの美女。きっかけは間違いなく下心だったと、今ならわかる。
その後いろいろあったが、当初の目的であった領土の奪還も、下心も成就していたのだから、別に貴族を続ける必要もなかった。
どうせ剣一本あれば、それなりに裕福に生きていけたのだ。領土奪還後、欺瞞命令で嵌められる前に、出奔する機会などいくらでもあった。
それが、どうしてこうなったんだろう?家族を守るために自領に引きこもって、対立を避け、結果王家への恩を返すこともないまま、ダラダラとここまで来てしまった。
その間に妻になったオーブを失い、オーブの忘れ形見の息子のイントまで、魔物に奪われかけた。本末転倒だ。
運良く生き残ったイントは、性格はまったく変わっていないものの、急に大人びて、変な知識に目覚めてしまった。最初は別人になったかと思ったほどだ。
そして、塩不足の相談をしたら、思っていたよりも建設的な意見が返ってきた。これなら王家に恩返しができるかもしれないと、嫌がるイントを無理やり王都まで連れてきてみたものの、家の財政状況がギリギリすぎて、イントの足を引っ張ってしまう始末。
情けない話ではあるが、この王命を果たせば、多額の賞金を手にすることができる。
見世物に出て、自分の剣を披露することには、なぜか生理的な嫌悪感がある。だが、嫌がるイントを王都まで連れてきて伏魔殿に放り込んでしまった以上、足手まといになるわけにはいかない。
『じゃあこうしよう。次の武闘大会、その叙事詩に出てくる騎士みたいに正々堂々行動してみてよ。相手に実力を出し尽くさせて、その上でお客さんにもわかる圧倒的な実力で優勝しよう。』
イントもマイナも賢い。王命の裏の意図を読んで、そんな対策を打ち出してきた。あの二人の組み合わせは悪くない。今はまだ恋人というより姉弟といった感じではあるが、噛み合っている感じが微笑ましい。
マイナは将来美しく成長しそうなので、自分の第二婦人にできなかったのは若干残念ではあるが、息子のためであれば祝福できる。できなかったらジェクティに殺されるので、きっとできるはずだ。
問題は、息子からの指示である『相手に実力を出し尽くさせて』という部分である。よくよく考えてみれば、何をもって実力を出し尽くさせたかがわからない。
例えば、今残っている選手の武装は、ほぼ全員大盾と槍で、一人だけ剣だ。全員の武装がたまたま同じなんてことは考えにくいので、イントの予想通り僕の実力を疑う貴族が手を回したのだろう。狙いは疑いようがない。つまり、集団戦を仕掛けてくる相手の『実力を出し尽くさせて』勝たなければならないということだ。
こちらに絡んでくる様子もないので、統制がとれているのだろう。練度もなかなかありそうだ。
だが、だからこそ、どの程度が全力なのかわからない。
「予選第8ブロックの選手の皆様は、入場して所定の位置についてください!」
答えが出ずに悶々としたまま、入場の声がかかる。
係員の指示に従って、通路を進んでいると、ジェクティとストリナが立っていた。今日は冒険者ギルドからの仕事でストリナが来て、その付き添いのジェクティも陛下からの王命で、情報掲示を手伝っているらしい。
仕事の合間をぬって、わざわざ来てくれたらしい。
「とーさま、がんばって!」
「楽しんできてね。あなた。」
待ち受けていた二人から応援の声がかかったので、手を挙げて返事を返しながら通り過ぎる。
やっぱり家族は良いな。叶うなら、イントやストリナが胸を張って生きていける環境を用意してやりたい。そのためには、今日優勝するところからだ。
通路を抜けると、闘技場の舞台が見えてくる。観客席を見回すと、なぜか真っ青なイントと、オロオロしているマイナ、あとは顔を真っ赤にしたシーゲンの娘が見えた。
その横には意地悪そうな顔をしたフォートラン伯爵がいるところから見て、また情報収集にでも来たのだろう。
さらに見回すと、貴族専用席の中に論文の発表会で出くわしたベシク子爵がいるのも見えた。こちらを指さしながら取り巻きの貴族と爆笑しているところから見て、手を回したのは彼だろう。となれば、相手は第3騎士団ということになる。
しかし、第3騎士団にどの程度の実力があるかなど、僕は知らない。少なくともあの戦争には参加していなかった。だから初手は慎重に行きたい。
「貴殿らは第3騎士団の方々とお見受けする。本日は正々堂々お相手させていただくので、よろしく頼む。」
開始前に、隊長らしき剣をもっている人物に握手を求めに行く。隊長は複雑な顔で握手に応じてくれる。
「コンストラクタ卿。今回は卿に対し、全員でお相手させていただかなければならない。それは承知しておられるか??」
審判たちが不安げな顔でよってくる。八百長がないように監視しているのだろう。
「もちろん承知している。それはこちらが最も得意とするところでもあるゆえ、遠慮なくやっていただきたい。」
イントからの課題は正々堂々だ。集団戦は集団戦として正々堂々破る必要がある。そのためには、双方禍根が残らないようにする必要がある。
隊長は少しホッとした表情になった。上役は大した人物ではなさそうだが、この隊長は一門の人物らしい。
「ありがたい。では、同意があることを観客にも示すため、開始時点から陣形を組ませてもらいたい。」
なるほど。最初から陣形を組めば、相手の実力を発揮しやすくなる。ならば否はない。
「問題ない。では私の開始地点をあちらの端としたいが、審判は構わないか?」
審判に集団戦を認める旨を自ら申し出ると、周辺の騎士たちも驚いた顔をしている。
「少々お待ちください。協議してまいります。」
審判の一人が、指示を仰ぎに駆け出す。向かう先は陛下の元だろうか?それとも別の貴族だろうか?
だが、どちらにせよ却下されることはあり得ない。ベシク子爵側には不都合はないし、こちらが希望していると伝えれば、陛下もOKするはずだ。
「では、結論が出るまで、双方準備をしましょうか。」
隊長に声をかけて、さっさと闘技場の端に移動する。
隊長もてきぱきと指示を出し、陣形を組み上げていく。
1対その他の構図がはっきりして、会場がざわつき始めた。
しばらく待つと、貴賓席から青い旗が上がる。それを見届けて、審判たちが駆けつけてきて開始が知らされる。
「陛下が開始位置の変更をお認めになりました。試合を開始しますので、準備してください!」
観客席のざわつきがさらに大きくなり、審判同士が手信号で開始前の確認をし始める。
やっと本番か。観客の視線が全身に突き刺さっている感じで、なんだか緊張してきた———
運命的なタイミングで道徳の教科書についての情報が入ったので、さっそく読みに行こうとしたら、月曜は図書館の休館日でしたorz
仕方がないので、カフェで一本書きました。何だかな―。
ちなみに今回は父上視点です。イント視点では、父上の試合に臨場感が出ないことが判明し、しぶしぶ視点を変えました。なろうで視点を細かく切り替えるタイプの小説が多いのも納得ですね。3人称タイプの方が書きやすかったのかなぁ・・・
———お礼———
いつもお読みいただきありがとうございます。
評価が1人とブックマークが6人いただきました。
これで、総合評価の節目である500ptを突破し、作者はカフェでニヤニヤして店員さんに怪しまれております。本当にありがとうございます。
引き続きよろしくお願いしますね。
———修正記録———
2019.11.19 入場時の応援セリフ前後に説明を追加。




