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40話 さらなるミスと文化の違い

 さすが見せ物で剣術をやっているだけはある。


 前世の時代劇の殺陣を彷彿とさせる動きで、ナックス様の棍をすべて捌いていく。


 父上の動きと比べると、華があると言うか、装飾が多いというか、見惚れてしまう要素は多くある。


 が、なんというか、父上は一切予備動作なく打ち込んでくるのに対し、ペーパ選手には予備動作がありそうだ。


 まぁ、だからと言って、僕にはナックス様のように的確に打ち込みを受け止めるのはまだ無理だろうけど。


「シーゲンの跡継ぎも立派になったもんやな。これはひょっとしたらひょっとするんちゃうか?」


 フォートラン伯爵は興奮した様子で、身を乗り出している。ユニィも身内の試合で、拳を握りしめながら観戦に集中していて、話しかけられそうもない。


 キョロキョロしていると、マイナ先生と目があった。


「マイナ先生、わかる?」


 マイナ先生は、困った顔で首を横に振った。


「イント君解説してよ。剣術やってるんでしょ?」


 マイナ先生が言ってくる。絶対わかってて言ってるよな。これ。


「わかるわけないよ。父上と比べると、一撃一撃の気配が強い感じはあるけど。」


「気配が強いってどういうこと?ヴォイド様はどんな感じなの?」


 マイナ先生が小首を傾げながら尋ね返してくる。ちょっとキュンとしてしまう。


「父上は打ち込み前の気配が全然なくて、最初は剣が当たってから気づいてたんだ。父上はそれでもゆっくりやってくれてたから、しばらくしたらそれは躱せるようになったんだけど、今度は偽の気配を出されて、騙されるんだ。当たると痛いから、けっこう必死なんだけど、どうにもできなくて。」


 前世に体育でバスケットボールをやっていた際、バスケットボール部員にフェイントですぐに抜かれてしまうという経験をした事があるが、父上の剣はそれに近い。これはまだ全然克服できていない。


 いくらゆっくりでも、初心者にフェイント山盛りで攻めて来るのはどうかと思う。


「一回宿の裏でやってるの見た事あるけど、もしかしてリナちゃんもそんな訓練を受けてるの?」


 会場には木を打ち合う音がずっと響いている。よく折れないもんだ。


「そうそう。父上は問題点は教えてくれるけど、答えは教えてくれないから、アプローチの仕方は違うけどね。リナは今逆に父上に攻撃して手を止めさせる方法を試してて、実験台にされてるよ。」


 ストリナのフェイントはまだ防げる。父上と何が違うかまではわからないけど、見分けはつくからだ。


「ともかく、ペーパ選手は偽の気配をこれまで出してない感じがするんだ。疲れているフリをしてる感じはあるけど。」


 言っていて気づく。フェイントも騙し打ちの一種だ。こちらも世界は、戦場でも名乗りを上げてから戦う事が当たり前のようだし、ゲリラ戦みたいな戦い方は嫌われていた。

 ということは、フェイントも嫌われたりしないだろうか。


 今回、父上には相手の実力を出し尽くさせた上で、『正々堂々』勝利して欲しいとお願いした。でも、父上がもしフェイントを無意識に使っているとすれば、観客は『正々堂々』と判断してもらえるだろうか?


 こちらの世界の文化はまだいまいちつかめていないので、不安だ。


 闘技場では、ナックス様が仙術による肉体強化を発動したらしく、急に動きを加速させて、ペーパ選手を防戦一方に追い込んでいるのが見えた。


 ワッと観客が盛り上がって、周囲の観客たちが一斉に立ち上がる。


 それでまた闘技場が見えなくなった。


「あっ。見えない!ちょっとイント、あんた肩車しなさいよ!」


 試合が見えなくなって慌てたユニィが、袖を引っ張ってくる。去年一緒に遊んだ時、木になった果実を取るために肩車したことがあり、ユニィはそれを覚えていたらしい。


 だが待て。こちらの世界の文化で、貴族の男子が女子を肩車するのはアリだろうか?ここにはフォートラン伯爵もいて、失敗できない。


「いや、無理だから!ちょ、ちょっと!」


 ユニィは気にすることなく、問答無用で席に座ったままだった僕の上に跨ってくる。


「ほら!立って!早く!」


 兄の様子を見たいのだろう。焦った声で頭を叩いてくる。


 こうなったら仕方がない。ぐっと力を込めて、立ち上がった。


「見えた!」


 頭上からユニィの嬉しそうな声が聞こえた。見えたのなら良かったけど、僕はめちゃくちゃ恥ずかしい。


 恐る恐る、隣を見ると、引き攣った笑顔のマイナ先生と、凶悪そうな笑顔のフォートラン伯爵の姿が見えた。


「ああっ!兄貴!躱して!」


 ユニィの声が悲鳴に変わり始め、頭を何発か殴られる。


 そして、周囲に落胆のため息が満ちた。どうやらナックス様の切り札は通用しなかったらしい。


「あにきぃぃぃ」


 ユニィの声が泣声に変わり、ユニィに頭を抱きしめられて前が見えなくなる。


 僕は危機感を抱えながらも何も言えず、ユニィが落ち着くのを待つことしかできない。


 しばらくして、ユニィが手を離した頃には、周りの観客はほとんど座っていて、僕らとマイナ先生だけがオロオロとした様子で立っていた。


 言うまでもなく、めちゃくちゃ目立っている。


 ああ、これは終わった———


 僕は失敗を悟った。



たまに行く隠れ家的な居酒屋さんに金曜日に一人で飲みに行ったら、そこで道徳の教科書を編集されているという方に出会いました。


他のお客さんと話しやすいカウンターだけの居酒屋さんなのですが、まさかそんな方が隣で飲んでいるとは思わず、かなり驚きました。教科書を作っている方と、それをネタにした小説を書いている僕が隣でお酒を飲む。世の中狭いですね。


聞けば、副読本だった昔と違い、道徳は正式な教科として採用されているのだとか。


僕らの時代の学校の先生方には、今にして思えば政治的に中立でなかった方も多く、地雷原を歩くかのような教科化が実現しているということは、また時代が変わったんだなぁと妙な感慨がありました。


ともあれ、教科化されたというのなら、道徳の教科書を読まないわけにはいきません。(実はテーマが繊細になりすぎる恐れがあり、まだ手を出していませんでした。)


嫁と遊びに行こうと、月曜に半休を取り、嫁がそれを忘れて他の用事を入れてしまったことすら、予定調和に思えてしまうこの偶然。


面白いものが見つかると良いなぁ・・・



———お礼———


お一人からブックマークをいただきました。お読みいただきありがとうございます。


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