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39話 剣闘士と英雄の息子

 マイナ先生の説明によれば、剣闘士というのは、ショーとして戦いを見せる剣士のことを言うらしい。見栄え重視のド派手な戦い方を得意としていて、しかも戦い方ほどには怪我をしない不思議な人たちなんだそうだ。


 前世で言うプロレスラーみたいなものだろうか?


 渋いおっさんの奥さんがファンだと言っていたのが少し気になって、マイナ先生にいろいろ聞いていたが、予選第7ブロックの選手たちが入場してくると、それが誰だかすぐにわかった。


 一人だけ、やたら煌びやかな衣装を着て、木剣をクルクル華麗に振り回している選手がいた。前世で見たバトントワリングを彷彿とさせる動きだ。


 黄色い歓声の内容から、名前はペーパというらしい。化粧までしてイケメンを演出し、嘘臭い爽やかな笑みを浮かべている。


「何年か前に八百長が発覚してから、剣闘の人気は下火になっちゃってるの。武闘大会は怪我したらしばらく興業出来ないから、剣闘士の人たちはあんまり出たがらないらしいんだけど、今回は強さのアピールのため、剣闘士の大会で優勝した人が出てきたみたい。」


 マイナ先生が解説してくれる。開始前のパフォーマンス演武を見る限り、確かに強そうだ。


「ねぇパッケ。あの人ってどれくらい強いの?」


 後ろに控えていた執事のパッケに尋ねて見る。パッケは、闘技場を一瞥し、


「一目ですべてがわかるわけではありませんが、これまでの選手の中で彼に確実に勝てるのは、シーゲン閣下ぐらいのものでしょうか。」


 と答えた。まぁプロの人が弱かったら話にならないよな。


「へぇ。そんなに強いんだ。パッケなら勝てる?」


 パッケは首をかしげながら、こちらを見てくる。


「勝負事はやってみなければわかりませんが、おそらく負けません。」


 えらい自信だ。だがパッケは仙術抜きの父上に勝っていたし、弱いわけがない。


「ほぉ。大した自信やないか。ペーパは騎士団が真剣にスカウトを考えとる逸材やで。ホンマに勝てるんか?」


 フォートラン伯爵が話に入ってくる。パッケは表情を変えることなく、フォートラン伯爵の視線を受け止めた。気負っている様子はない。


「奇襲など特定の条件下ではわかりませんが、闘技場で正面から戦うなら、負けない自信はあります。」


「儂かて報告は読んでるねん。ヴォイド小隊のメンバーは、中核となった4人以外は一般兵からの異動で配属になったはずや。つまりお前もその一人。せやから、お前がそこまで強いいうんは、ちょっと信じられへんのやけどなぁ。」


 フォートラン伯爵がため息をつく。


「彼との比較で申し上げただけで、例えばこの会場で警備に当たっている騎士様の中には、私よりも力のありそうな方がたくさんおられます。それほど驚くことではございませんよ。」


 こちらの世界の人間の筋力は、鍛えれば鍛えるほど強くなるような気がしている。8歳の僕ですら、村から王都まで走り切れたぐらいだ。訓練すれば一般人でも強くなれるのだろう。


 確かに驚くことではない。


「ここで警備しとんのは近衛騎士団。この国の最精鋭やから当たり前や。まぁ跡継ぎの護衛を一人で任せられるぐらいなんやから、それぐらいの実力があっても不思議はないんかもな。疑って悪かった。」


 フォートラン伯爵はパッケに謝った。パッケは謝られたことに驚いて固まってしまう。


「よっしゃ、このブロックを勝ち抜いたやつが、ヴォイドの相手や。ウチのもんも出てるから、みんな応援したってや。」


 パッケが固まってしまったことを気にした様子もなく、フォートラン伯爵が立ち上がって、周囲に声をかけはじめた。


「パッケ、なんで固まってるの?」


 パッケに小声で声をかけると、パッケは小さく息を吐いた。


「いえ、伯爵様が平民の私に謝られるというのは、あまりあることではないのです。それで驚いてしまって。」


 身分制度とかよくわからない。


「そんなもんなんだ。」


 しかし、よく考えたら、ウチの使用人は2人。何だか誤解されている気がしないでもない。


 マイナ先生は、フォートラン伯爵と何やら話込みだしたので、ユニィに話しかけてみる。


「ちなみに、ユニィんちって何人ぐらい雇ってるの?」


 前世では使用人なんていなかったから、今世の方が恵まれてると言えなくもないけど、こちらの貴族としてはどうなんだろう?


「え?ウチは少ないよ。使用人が王都の屋敷と合わせて五十人ぐらいで、私兵団が5百人ぐらいかな。イントんとこは?」


 げげ。何か規模が違う。これは敬語で喋らないとダメだろうか?


「し、使用人が2人かな。」


 ウチの使用人はパッケとアンだけだ。兵士なんて、見たこともない。


「え?それだけ?使用人より家族の方が多いの?」


 その使用人も家族みたいなものだし。


「そうそう。差がありすぎて、なんかユニィに敬語で喋らないといけないような気がしてきたよ。」


 ユニィは噴き出して、手をヒラヒラさせる。


「今さらだね。今イントに敬語で喋られたら、蕁麻疹でるかも。それに厳密に言ったらイントは男爵の継承順位1位で、私は子爵の3位。そんな差はないから。」


 ユニィは闘技場を指さした。


「我が家でイントが敬語で喋らないといけないのは、私の兄たちと父上ぐらいだよ。」


 ユニィが指さした方を見ると、シーゲン家の長男のナックス・シーゲンが試合の開始位置についている。他の選手に比べて体格が小さいため、ペーパ選手とは逆にまったく目立っていない感じだ。


 武装はシーゲン伯爵と同じ棍で、配置についてから微動だにしていない。


「え?ナックス様って、この大会出てたの?おいくつだったっけ?」


 正直、驚いた。挨拶に来た時に一言二言会話をしたことがあるので顔は知っていて、多分強いんだろうなとは思っていたけど、大人に混じって大会に参加できるほどとは思っていなかった。


「兄貴は14歳だね。15歳になったら、騎士団に入る予定なんだけど、それまでに父上に一撃入れるんだって息巻いてて。この大会をチャンスだと思ったみたい。」


 そんな目標を持てること自体、ちょっと信じられない。自分に置き換えて考えると、あと6年で父上に一撃入れれるかと言われても、多分無理だろう。それができると思うあたり、噂に聞く中二病というやつではなかろうか。


「もしかしてだけど、許嫁さんと模擬戦したお兄さんって、ナックス様なの?」


 ユニィが嬉しそうに頷く。

 いや、それはいくらなんでもひどいだろ。へっぴり腰で呆れたとか、そういう問題じゃない。


「あいつ、兄貴に手加減してもらってたのに、すごいびびっちゃってねー。」


 まぁ、それを指摘すると十倍返しされてこっちまで被害がでそうだし、素直に聞き流しておこう。


「あ、始まるよ。」


 開始の笛が吹かれ、選手が一斉に動き出す。

 開始直後、ペーパ選手に対して、一斉に攻撃が集中する。


「ああ、やっぱりペーパ選手のとこに集まったか。剣闘士は一対一で戦うのが基本だから、強敵はみんなで叩こうってことね。」


 ユニィが解説してくれる。ペーパ選手は華麗なジャンプを決めて距離を取り、近くにいた一人を木剣で殴り倒した。各個撃破の構えだ。


 ナックス様も、シーゲン子爵譲りの突きで、一人沈めている。小柄なので、姿勢を低くして下から放たれる突きは、さぞかし大人には防ぎにくいだろう。


「ナックス様もなんか凄いよ。あ、二人目だ。」


 腕や足が変な方向に曲がる人が続出して、ちょっと痛々しい。これ、間違って頭に当たったら、死人が出かねないんじゃなかろうか。


 ナックス様と、ペーパ選手は同じぐらいのペースで選手を減らしていく。


 これはナックス様とペーパ選手、互角なのではなかろうか。


「うん。兄貴って思ってたよりすごかったんだね。父上にボコボコにされて泣きべそかいてるイメージしかなかったんだけど。」


 ユニィも大概ひどいんじゃなかろうか。殴られると普通に痛いし、精神年齢が高校生の僕ですら、泣きそうだったのに、14歳が耐えられるはずもない。


「ユニィも訓練始めたらわかる。絶対泣きたくなるよ。」


 その間にも、ペーパ選手は後退しながら各個撃破し、ナックス様はペーパ選手を追いかける集団を後ろから襲って、どんどん数を減らしていく。


「私がそんな風になるわけないじゃない。私はやればできる子なの!」


 と、人数が半分ぐらいまで減ったところで、ペーパ選手が一気に勝負に出た。急に自分を追撃する選手たちのど真ん中に飛び込んで、一気に木剣を振るう。


 あっという間に5,6人が倒れ伏す。さすがに疲れたのか、ペーパ選手は肩で息をし始めている。


 残りの数人も、同時に動いたナックス様が地面に沈めている。14歳とは思えない動きだ。


 これで、闘技場で立っているのは二人だけになったーーー


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


ブックマーク登録、お二人にしていただきました。ありがとうございます。


もうすぐ、総合評価ポイント500なので、皆様にお手伝いいただけたら嬉しいなぁと思います。


よろしくお願いします。



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