37話 出資獲得と痛恨のミス
塩不足問題の対策に関する説明は、スムーズに終わった。
アスキーさんの説明を一度見ていたことと、いつの間にか文書化された資料をフォートラン伯爵が持っていたことがその要因だろう。
そして、その間に第3ブロックと第4ブロックの予選が終わっている。
第3ブロックはしばらく逃げ回っていた神術士が、唐突に暴風を吹き荒れさせて勝負を決め、第4ブロックは4人が集団戦を行ってそれ以外の選手を排除した後、3人が棄権して決勝出場者が決まった。
その間にストリナは、ずれた骨折などを低位の治癒神術であるヒールで治療して見せ、驚いた他の神術士たちが見学に集まったりして存在感を放ち始めている。
今は第5ブロックが試合をしているが、まだ父上は出てきていない。
「ふむ。塩資源の調査は今後も継続するとして、減免は公営市場への出店料や関税の一部免除で対応できる。補助金は、出資に入るだけで代替できるだろう。問題は輸入経路の開拓だな。」
現在、塩の輸入はアンタム都市連邦からの輸入に頼っている。しかし、最近製塩所が放火されて塩の値段が上がったため、上限価格があるログラム王国には塩が入ってこなくなった。上限価格を撤廃の提案はフォートラン伯爵の意見で削除されているので、塩の値段を上げて輸入量を増やすという手段は使えない。
「調べた限り、現在アンタムからの塩の輸入量は7割ぐらい落ち込んでいるが、燃えた製塩所の生産量はその7割よりかなり少ない。貴族どもは隣国の陰謀だと騒いでいたが、需要と供給の話を聞くと、納得できる話だな。」
僕を除外して、話し合いが進む。
「せやったら、商人の間に、ウチで塩を生産できるようになったと情報を流したったらええんちゃいます?生産量の情報は抜きにして。」
「なるほど。根も葉もない噂ではないから、効果は高そうだ。だぶついた塩が値崩れすれば、既存のルートでも流入が見込めるな。」
うわぁ。なんか悪どそうな話をしているな。
「あとはナログ共和国だが、この秋に麦が不足するという噂があるな。去年高潮被害が出て、まだ復旧していないところがあるらしい。これまでは備蓄から食料を供給していたようだが、場合によっては塩と麦の交換を持ちかけてみよう。」
溢れ出る雲の上感。何者だろうね。この人たち。
「その情報も、先方に使者を出した時点で公表しましょか。アンタムの連中、独占が崩れて大慌てしよりますわ。」
ハッタリで足りない分を補う気か。そんな話、闘技場内のオープンな場所でするのはどうかと思うが。
「ならば、まずは株式会社から軌道に乗せねばな。出資金の見通しはどの程度まで進んでいるんだ?」
「へ?」
ポカンと聞いていたので、いきなり話を振られて、慌てて背筋を伸ばして座り直す。
「ああ、いえ、えーと・・・。今確定と呼んでも良いのは、アスキー様とターナさんから千枚、シーゲン支部の賢人ギルドから千枚、後は行商人ギルドに声を掛けるつもりです。」
フォートラン伯爵が意地の悪い笑みでこちらを見てくる。
「なんや、まだ2千枚ぽっちか。そんな状況やったら、まだマイナちゃんとの婚約を認めるわけにはいかへんなぁ。ヴォイドは出さへんのか?」
金銭感覚の違いに、ため息をつきそうになったが、グッとガマンする。そもそも、資金繰りの計画を立てることが条件だったはずで、金策そのものまで言われていたわけではなかったように思うけど、それを言ったら負けのような気もする。
「我が家は貧乏ですので、領内の温泉の一箇所に製塩所を建てようとしたために、財産が底をついております。」
実際、出る前に軽く計算してみたが、領民が手弁当で手伝ってくれない限り、完成まで至らないと思う。我が家がそんな状況下にあることは、フォートラン伯爵なら当然知っているはずだ。
「ですが、父上がこの大会で1位か2位になれば、その分は出資に回せると思います。」
それを聞いて、フォートラン伯爵は面白そうに笑う。
「あかんなぁ。そんな貧しくて博打みたいなこと言うやつの家に、マイナちゃんはやれんわ。」
後から条件を増やしていくとか、大人は汚い。確かに貧しい家に嫁に来てもらうのは心苦しいから、大きくなったら可能な限り頑張りたいところではあるが。
「あら伯父様。うちのお父様からの承認はすでに頂いていますし、お父様はすでにフォートラン伯爵家の継承権を放棄しております。今やただの傍流ですから、法的には伯父様の許可なんていらないんですよ。」
マイナ先生は相変わらず青白い顔だったけど、それでも伯爵を牽制していた。貴族家の当主は、継承権を放棄して独立した家に対し、何かを強制する権限はないんだそうだ。できても、せいぜい家名を返却させることぐらいらしい。
「なっ!?マイナちゃんはこんな小僧の肩を持って、そんな意地悪なこと言うんか?」
伯爵が前世のうるさい親戚とかぶって見える。
「伯父様が意地悪を言うからです。」
観客席からワッと歓声が上がり、見ると第5ブロックの予選が終わったらしい。まったく見ていなかったが、剣士っぽい人が勝利したらしい。折れた木剣を掲げて、雄叫びを上げていた。
「ふむ。見込まれたものだな。面白い。」
渋いおっさんが温かい目でこちらを見てくる。
「それはそうと、最初に練り切れていないとも言っていたな。練り切れていなかったのはどの部分だ?」
ああ、その説明をまだしてなかったか。
「話ながら解決させてもらった部分もあったので、現状決まってないのは3つでしょうか。」
順番に説明していく。
まず、配当をお金にするか、現物(塩)にするかという問題がある。
出資者が領内に塩の温泉を抱える領主や、各地の行商人ギルドばかりなら、塩の方が喜ばれる可能性が高い。
なぜなら、領主は飢饉に備えた備蓄に塩を含めているし、行商人にとって塩は商品だからだ。
一方、金持ちが資産運用で出資してくるなら、当然現金のほうが喜ばれる。塩を受け取ってから売るのは面倒だからだ。
一長一短だが、どちらにするのかは出資を募る前に決めておく必要があるだろう。
もう一つの問題が、出資の目標額をいくらにするかだ。現状3万枚が最低ラインだが、その額で本当に足りるのかは未知数だろう。何かトラブルがあれば、すぐお手上げになる可能性がある。
最後の問題が流通だ。塩の温泉はだいたいが山奥で、中には秘湯っぽい位置にある温泉もある。どうしても無理そうな温泉は外してあるが、現地確認をしたわけではないので、現在予定している温泉でも問題は発生するかもしれない。
と、いうようなことを説明している間に、第6ブロックの予選が始まっていた。またしても、うちの派閥の貴族は出場していないらしく、周囲は盛り上がっていない。
「ふむ。残る問題がそれだけなのであれば、配当を塩とすることと、出資の目標額を金貨4万枚にするという条件で、こちらからは個人的に金貨1万枚を用意しよう。もちろん国王に説明し、認可を得てからの話になるが。」
渋いおっさんは、渋い声で出資を宣言した。言われている内容が理解できていない可能性もあるが、一歩前進できたのは間違いない、はずなのだが。
「うん?どうした?嬉しくないのか?何か気になることでもあるのか?」
おっさんはこちらが答えないのを怪訝に思ったのか、少し首を捻った。
「いや、それが本当なら嬉しいんですけど、そもそもおっさんって、どこのどなたかなって。」
「あっ。」
「コラっ!」
「ぶふっ」
あ、しまった。
本日は午前中出勤だったので、午後から図書館に行って、中学校から高校までの化学と物理の教科書を一通り読破してきました。
最近の中学校の科学の教科書て、そのジャンルを極めた先にどんな職業があるのか、きちんと紹介してるんですね。自分の時代がどうだったか、まったく覚えていませんが、学校の勉強に意味があるのかというありがちな子どもの主張に、全力で反論している感じで好感がもてました。
———お礼———
本日もブックマークを4名様にしていただき、評価もお一人していただきました。
PV総数ももうすぐ3万。20年前にネットで公開していた小説のアクセス総数を抜きました。
読んでいただいている皆様、本当にありがとうございます。




