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34話 狸と小悪魔

 父上の武闘大会の日がやってきた。もっとまったりと計画が練れるものと考えていたけど、昨日の論文発表といい、今日の武闘大会といい、王都滞在がこんなにも忙しいとは思っていなかった。


 今日は朝の早い段階で、父上が出場選手として闘技場の控え室に行き、ストリナは治癒神術が使える冒険者として指名依頼を受け、大会の救護班として会場のどこかにいる。義母さんはストリナの付き添いで、マイナ先生の両親は昨日の論文発表の影響で賢人ギルドから離れられなくなっている。


 結果、観客席側に入ったのは僕とマイナ先生、あとは僕の付き添いを命じられたパッケの3人だけだ。なんだかみんな忙しい。


 試合開始より少し早めに、闘技場内に用意された席に辿り着くと、貴族用の席ではないにも関わらず、すでに貴族らしき先客がたくさんいた。


 さらに料理を載せたワゴンも並べられており、飲み物の用意をする給仕の姿も見える。


「あ、きたきた。こっちだよ。」


 先客の中にいたユニィが、手招きしてきた。ユニィの隣には、中学生ぐらいに見える男の子が座っている。噂の婚約者だろうか。


「あれ?何でいるの?」

 マイナ先生と一緒に、ユニィに近よっていく。


 ユニィはシーゲン子爵の娘で、普段はシーゲンの街で暮らしている。どうして王都の武闘大会の観客席にいるのだろうか?


「あれ?知らなかった?一昨年あんまり盛り上がらなかったとかで、去年、昔5連覇してた父上が呼ばれて、優勝したの。だから今回も出場してるってわけ。」


「そうなんだ。知らなかったよ。」


 つまり国内最強はシーゲン子爵ということか。あの布袋さんみたいなゆるゆるの状態から、一瞬でムキムキのボディビルダーみたいに変身する場面を見た時は衝撃を受けたけど、実力は知らない。あの後庭で父上と何をやっていたみたいだけど、もしや実力差を見せつけて優勝とか、無理なのだろうか。


「失礼。ユニィ、随分と仲が良さそうだけど、紹介してもらえないかい?」


 中学生ぐらいの年頃の男の子が声をかけてきた。ユニィがハッとして慌てて男の子を紹介してくる。


「あ、こちらは私の許嫁のゼン・パイソン様です。」


「これは失礼しました。僕はイント・コンストラクタ。男爵家の嫡男です。こちらは僕の家庭教師を引き受けてもらっているマイナ・フォートラン先生です。」


 僕が自己紹介したあと、マイナ先生が腰を落として軽く挨拶をする。


「なるほど。コンストラクタ家と言えば、確か辺境で謹慎させられている男爵家だったね。どうしてここに?」


 ユニィがムッとした顔をする。僕は父上からこうなる可能性について話を聞いていたので、特に気にならない。


「別件で王都に滞在していたのですが、父上が急遽この大会に出場することになりまして。」


 ユニィの表情がパッと明るくなった。


「わぁスゴイ。じゃあヴォイド様と父上の本気の試合が見られるんですね。楽しみ!」


 今度はゼンが嫌そうな顔をする。


「ユニィ、君は僕の妻になるんだから、現実をちゃんと見るようにしてね。この大会は予選があるんだから、君の父上と当たるわけはないよ。話は聞いているけど、彼のお父さんは斥候で、騎士ですらなかったそうじゃないか。得意の『闇討ち』ができなければ、予選の突破すらままならないだろうに。」


 ゼンさんは、格下と見ればオブラートに包んだ表現すらしないタイプか。陰険なタイプよりは嫌いじゃないけど、口は禍の元だ。ちょっと心配になってくる。


「コンストラクタ家は武門の家柄。そこのイント君ですら、一人で魔狼を仕留める腕利きです。ヴォイド様はたまにシーゲンの館にいらっしゃって、父上に剣の手ほどきをしているようですので、やはり相当の腕ではないかと思いますが。」


 ユニィが不満そうな顔で反論する。喧嘩で僕を引き合いに出すのはやめて欲しい。魔狼を仕留めたのは偶然で、僕の実力ではない。


「何を言っているのかわからないね。それほどの実力があるなら、君の父上同様、正々堂々敵を打ち破れば良かったはずだ。『闇討ち』なんていう手段を取っている時点で、実力がないことの証明じゃないか。

 それに、その歳で魔狼を仕留めた?馬鹿言っちゃいけない。そんな法螺話を信じているようじゃ、将来すぐ騙されるようになるよ?」


 許嫁が僕の肩を持ったことで、ゼンさんはムキになってきたようだ。ただ、少し周囲の貴族たちが殺気だってきたように感じる。ここでうるさくするのはまずい。


「お言葉ですが、私はその場にいましたので、イント君が魔狼を一撃で仕留めたのをこの目で見ましたよ。」


 マイナ先生まで参戦してくる。魔狼を仕留めた際、一発外しているから、一撃で仕留めたわけではない。脚色すると後でバレた時恥ずかしいので、やめて欲しいのだが。


「お話し中失礼します。主のコモン・ドゥ・フォートランが、イント様とマイナ様をお呼びです。」


 どうやって場を納めようかと考えて始めたところで、執事が声をかけてきた。見ると、それほど離れていない位置に座っているフォートラン伯爵と目が合う。少し厳しい顔をしている。


 この状況で、挨拶もせずに喧嘩を始めたのはまずいだろう。


「わかりました。ゼン様、これで失礼させていただきますね。」


 まだ何か言いたそうなマイナ先生の裾を引っ張って、その場を辞した。


 ユニィたちから遠ざかりながら、少し考える。


 先ほど投げかけられた言葉は、オブラートに包まれていなかったが故に、父上に対する一般貴族の認識であることがうかがわれた。ゼンさんが誰かに言われて、違和感を感じずに受け入れてもおかしくはない程度に、論理的でもあった。


「あいつ、イント君たちの何を知っているのかしら。」


 マイナ先生がプリプリ怒っている。先生のこんな顔を見たことがなかったので、少し嬉しくなった。


「素直なんじゃないかと思うよ。誰かから教えられてたことが、そのまま正解だと信じてたみたいだし。でも、論より証拠だから、父上がここで実力を示せば、さっきみたいな話は立ち消えると思うよ。王命は大会出場だけじゃなくて、『優勝』だからね。父上は手を抜かないと思うし。」


 問題はシーゲン子爵に勝てるかどうかだけど。


「ヴォイドには『優勝』の王命が課せられてるんか。」


 小声で話していたはずなのに、フォートラン伯爵が話に入ってくる。


「興味深いからしっかり話聞きたいとこやけど、あまりおおっぴらに王命の話をせんほうがええで。そこだけ聞いたら、誤解されかねへん話やわ。」


 なるほど。王命による八百長が疑われたりとかあるかもしれない。


「軽率でした。ご教示感謝します。それと、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」


「こんにちは。伯父様。今日はどうして一般席なのですか?」


 僕が謝罪と挨拶をした後、マイナ先生がそれとなく話題を変えた。


「それなぁ。今日はうちの派閥の貴族が何人か試合に出とってなぁ。王家からの密命で、その家族を守らなあかんねん。昨日の今日やったから、まとめさせてもろてん。マイナちゃんも来るって聞いとったしな。勝手にここ離れたらあかんで。」


 フォートラン伯爵は嬉しそうに、先生の質問に答える。しかし、おおっぴらに王命の話をしないように言いながら、密命の話はすぐに答えるあたり、どんだけ先生のことが好きなんだ。


「それより、昨日の論文発表、大好評やったな。ワシも陛下と一緒に貴賓室で見とったけど、立派になってて泣いてしもたわ。」


 ビクっと、先生が硬直した。


「え?どういうことですか?」


「いや、マイナちゃんはこないだまでこーんなちっこかったのに、もうあんな喋れるようになったか思たら、感動してしもてな。」


 伯爵は膝より下あたりを指していう。


「そんな小さかったことなんてありません!そこじゃなくて、陛下が来ていたって所です。聞いてないですよ!」


 そうだよなぁ。15歳の論文発表に、国王が来るとかありえないから、先生が焦るのもわかるけど、その慌てっぷりがなかなかかわいい。ニヤニヤしながら見ていると、先生から軽く睨まれた。


「お忍びやからな。言うてしもたら、お忍びにならへんやろ。」


 それも一理ある。


「うっかり失礼なこと言って、縛り首にでもなったらどうするんですか!!」


 そんなことがありえるのか。


「それは安心しとき。陛下もマイナちゃんが甚く気に入って、一週間で小僧が結果出されへんかったら、王太子の第4夫人か第5夫人でどうやって言うてはったわ。」


 待て待て待て。それは強力すぎるライバルというか、勝ち目がほぼないじゃないか。しかも、一週間後の条件を知っているってことは、全部報告してるってことなのでは?


「王太子殿下なんて嫌です!窮屈そうだし、絶対イント君のほうが色々知ってるんだから!それにイント君は貨幣の流通改善も含めて、もう目処をつけてるんだから、絶対許可してもらいます。」


 だからちょっと待て。今先生、女性共通の夢であるシンデレラストーリーを、窮屈ってだけで蹴った気がするぞ。と言うか、色々知っているどうかが婚約者になれるかどうかの基準になるって、なんか違うだろ。


「貨幣の流通改善なんて大きく出たもんやな。面白そうやから、酒でも飲みながら試合の合間に中間報告を聞かせてもらおか。」


 伯爵は有無を言わせず、マイナ先生を隣に座らせ、さらにその隣に僕を座らせる。もう何と言っていいかわからない。ここには派閥の貴族たちが山ほどいるのに。


「イント君!叔父様をギャフンと言わせてやって!」


 で、僕が説明することになるのか。案が練り切れてないから、下手なことを言ってしまって、縛り首になりそうで怖い。


 ただでさえ、自称天使の悪魔が憑いているのに。


昨日、仕事を休んで、嫁と一緒にマヌルネコを見に行こうとしたんですが、移動中に動物園が休園日であることが発覚し、急遽行先をUSJに変更しました。


結婚記念日に引き続き、出費が嵩む日々。恋愛って何だ~~~!


と、いうわけで、昨日アップできず申し訳ありません。酔いつぶれてました。



———お礼———

評価がまた一件増えて、ブックマークも伸びて、総合評価が400超えてました。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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