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28話 王都への道程と貨幣価値

 違和感に気がついたのは、 王都への旅の途中だった。


 身体が軽い感じで、走っても疲れにくいし、速度も前世の全速力ぐらいを数時間は維持できている。8歳にして、前世の身体能力を完全に超えたらしい。


 とは言え、神術も仙術も発動すらしないのは変わらないし、弓もこの2日で何度か魔物を狙う機会があったが、一度も命中させられていない。


 剣は回避だけ少し上手くなった。父上相手だと相変わらずポコポコ殴られているが、ストリナ相手だと何とか防ぎ切ることが出来ている。もちろん攻撃に関しては、巻藁が切れるようになった程度で、ストリナにすら通用していないが。


 ともかく、走るのが楽になったことで、走っている最中がヒマになった。だから走りながら馬車の中のマイナ先生と質疑応答できるし、教科書の悪魔と教科書を紐解くことができる。


 そう言えば、教科書を人前で読んでみて、新たにいくつか発見があった。


 この教科書、どうも他の人には見えないらしい。これは教科書の悪魔も同様で、今も肩に乗って足をプラプラさせているが、誰も何も言ってこないのがその証拠だ。悪魔曰く、契約者にしか見えないらしい。


 さらに、この教科書、手に持つ必要がない。走りながら読んでた時に、手が滑って落としそうになったが、その際に教科書が浮かんでいて驚いてしまった。ページをめくるのも触れなくて良い事に気づいてからは、常に自分の周辺に浮かせている。二宮尊徳もビックリな『ながらタブレット』だ。


 まぁ、『ながらタブレット』を試しはじめて、すぐに躓いて後続の賢人ギルドの馬車にひかれそうになったので、それ以降は小声で悪魔と話す程度にしている。


 ともかく、移動時間が一気に有効活用できるようになった。


 ただ、頭の痛い問題も出てきている。


「おにいちゃん、まものいた!きょうそうね!」


 隣に走り寄ってきたストリナが、また街道脇の森を指差しながら、声をかけてくる。冒険者の仕事の一つに街道の魔物駆除があると聞いて以降、ストリナは魔物を目敏く見つけてくるようになった。


 そして魔物を見つけると、ストリナは競争と称してどちらが先に仕留めるかという勝負を挑んでくる。戦績は0勝4敗3分。一回も勝てていない。


「やー」


 ストリナが目いっぱいに小さい弓を引いて矢を放つ。飛んでいく方向に目を凝らすと、100メートル以上先に3メートル以上はある茶色のトカゲが見えた。多分あれは偽竜と呼ばれる種類で、生きている限り成長し続けるタイプの魔物と聞いたことがある。

 自分より小さな獲物しか狙わないため、小さい頃は馬車を襲わず討伐されにくいが、馬車より大きくなって馬車を襲う頃には皮膚が分厚くなり、並の冒険者では歯が立たなくなる厄介な奴らしい。


 矢が背中にストンと刺さる。偽竜は雄叫びをあげて、周囲を見回し———


 目が合った。


 慌てて僕も連射してみるが、動き始めた偽竜は鱗で矢を弾いて、一本も刺さらない。偽竜はこちらに向かって、突進してくる。


「父上っ!!」


 慌てて父上を呼ぶ。ストリナは、相手の実力を見ないで攻撃する悪い癖がある。偽竜なんて6歳と8歳が倒せるわけがない。


 結局、偽竜は飛び出してきた父上とパッケが同時に投げた投げ矢を両目に同時に受けて息絶えた。

 馬車の一団は停車すらせず、少し速度を緩めただけでそのまま走り抜けていく。偽竜は父上とパッケの手によって、手際よく魔物用の荷馬車に放り込まれた。


 こうやって道中狩られた魔物たちは、次に滞在する街で売られ、同行者全員に均等に分割される約束だ。我が家は貧乏なので、こうでもしないと王都までの路銀が賄えないらしい。


 ともあれ、これで0勝4敗4分だ。


「リナ、相手はちゃんと見ような。今のは偽竜じゃないか。」


 悪い癖を直そうと注意すると、リナはむくれた表情でそっぽを向いてしまった。


「言うこと聞かないなら、ちょっと休んできな。」


 走りながら腕を引き、我が家の馬車まで連れて行くと、御者台に座るパッケにストリナを抱き上げて渡す。ストリナはむくれた表情のまま、パッケの膝を通り越して、助手席にちょこんと座った。


 それを見届けて、馬車から少し距離をあけて走る。


『吾輩、恐竜というものの実物を初めて見たのである。』


 声が馬車に届かなくなったあたりで、肩に乗っている悪魔が喋り出す。


「へぇ。あれって恐竜なの?」


 確かに恐竜の雰囲気はあるが、前世で言うならコモドオオトカゲを大きくした感じだろう。


『違うのであるか?』


「あれくらいの大きさの爬虫類って地球にもいたんじゃない?ワニとかさ。」


『その通りである。ワニは6メートルを超えるものもいるのである。』


「まぁ多分、偽竜の方が何倍も厄介な気がするけど。近づいてくると炎のブレスとか吐くらしいし。」


『そうなのであるか。あちらの世界とはいろいろ違うのである。そう言えば、先ほどこちらの通貨をお小遣いとして受け取っていたであるな。少し見せてほしいのである。』


 今朝、生まれて初めてお小遣いをもらった。魔物を売却した利益の一部で、銀貨2枚だ。走りながら、その2枚が入った巾着を懐から取り出す。


「これ、日本円にしたらいくらぐらいだと思う?」


 銀貨は500円玉の4倍ぐらいの重さがあった。実はけっこう重く、身体の小さな悪魔に渡すと抱えるのも大変そうだ。


『これはちょうど明治時代の壱円銀貨ぐらいの大きさであるから、1円と言えなくもないが、わからないであるな。金属の価値は希少性で変わるものであるし、物の値段は産地からの距離や技術の進歩によって変わるものである。』


「1円銀貨か。明治維新の時の新政府って、1両を1円に改めたんだよね?1両って金の小判だったのに、1円は銀貨だったんだ。それってけっこうなインフレが起きてたんじゃない?」


『そうであるな。ああ、これである。』


 近くで浮かんでいた教科書が、急に姿を変える。これは授業で使っていた資料集だろうか。あれ?教科書ってもしかして『政治・経済』だけではないのか?


 ページがパラパラめくれ、該当ページが出てくる。


『明治新政府は全国の藩の借金を肩代わりしたのである。インフレが起きても仕方ないであるな。』


「江戸時代の小判って、現代で言うとどれくらいの価値があるの?」


『小判は18グラムあるのである。金の地金が1グラム5千5百円ぐらいであるから、10万円程度の価値であるな。他にも4万円程度の価値という説もあるのであるが、比較対象によってバラバラなのである。』


 わかりにくいな。日本ですらそれなら、どこぞのネット小説みたいに、金貨1枚10万円で、銀貨1枚1万円みたいな単純計算はできないということか。


「へー。しかし、そう考えてみると、明治維新から150年ぽっちで4万倍から10万倍のインフレが起きてたんだね。あの国。何が原因なの?」


『吾輩は叡智の守護者にして、案内人。叡智の書にないものを教えることはできないのである。』


 要するに知らないってことね。


『まぁ、こちらの世界は間違いなく貴金属本位制なのであるからして、インフレはそれほど考慮しなくても良いと思うのである。』


 そう言えばこちらの世界に来て紙幣を見たことがない。小規模な取引であれば持ち歩いても問題はないが、大規模な取引だとどうしているんだろう?


 もし問題があっても、偉い人が考えることで、僕が考えるようなことでもないけど。



最近後書きで読んでいただいているお礼しか書いていませんが、今日1万PVをはるかに超えて1万2千PVを超えました。一日当たり3千7百PVも増えています。


もちろん、ブックマークが20件していただき、評価もお2人からいただきました。


本当にありがとうございます。


今贔屓にしてくださっている皆様に、「あの小説の読者が200人ぐらいだった頃から知ってるぜ」と自慢していただける作品にできるよう、がんばっていきたいと思っています。


さて、次回はさっくり王都にはいります。次こそは、社会人の皆様にはお馴染み、新規事業を立ち上げる時だいたい足りなくなるあれの問題にイントたちが挑みます。多分。

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