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27話 訓練と仕返しと

「と、いうわけで、イントにはそろそろ実戦を意識した訓練も必要だと思うんだ。一人で魔物と戦うのと、僕の打ち込みを防御し続けるのと、どっちが良い?」


 宿に帰ってきて、普段着に着替えた僕に提示されたのは、究極の二択だ。


 マイナ先生たちは、昼食の後、賢人ギルドに出勤していった。僕はいつも通りにユニィのところに遊びに行こうとして、ユニィの目の前で訓練を唱える父上に拉致された。


「どっちも嫌です。」


 僕の回答は決まっている。魔物と戦うのは、実戦を『意識した』と言いながら実戦そのものだし、打ち込みを防御とか、嫉妬に狂った父上が何をするかわからない。


 それに、昨日走った影響で下半身、特にふくらはぎが痛くなってきている。


「ほう。じゃあちょっとリナを見てみろ。」


 言われて、さっきから短めの木剣で素振りをしているストリナのほうを見る。怪我から回復して身体を動かせることが嬉しいのか、笑顔で木剣を振っている。


「あの調子なら、すぐに打ち込みをしたがるだろうな。相手は、僕がいなければイントがする事になる。妹に怪我させられる兄。情けないよなぁ。」


 そういうのはずるい。確かに、妹に負けたくないとは思ってる。


「手に負えない魔物に襲われて逃げていたら、マイナが転んだ。剣の腕に自信がなくて迷ったら、マイナ先生が食い殺される。そんなことになったら、悔やんでも悔やみきれないだろうなぁ。」


 父上は白々しく言ってくる。最近似たようなことがあったばかりで、想像すると寒気がした。


「わかったよ。じゃあ打ち込みのほうで。」


 仕方なく、消去法で打ち込みの方を選ぶ。魔物は手加減してくれないので死ぬ可能性があるが、父上ならそれはないからだ。


「よく言った。それでこそ我が息子だ。」


 父上は満面の笑みで、木でできた短剣を放り投げてくる。

 周囲を見回すと、少し離れたところで、同じ宿に泊まっている身なりの良い冒険者が訓練しているのが見えた。広さは十分そうだ。


 木剣を受け取って、正眼に構える。ちょっと剣道を意識してみた。


「じゃ、問題点を指摘しながら打ち込んでいくぞ。」


 父上がゆっくり打ち込んでくる。何回かは防げたが、利き手じゃない方に回り込まれて、たちまち不利になった。


「まず、短剣は両手で持たなくていい。それに短剣じゃないとしても手が逆だ。」


 左肩に一発、それほど強くはないが、十分に痛い一撃が入る。


「あと、握りが甘い。」


 父上の剣が僕の剣に絡みつくような錯覚があって、剣が手からすっぽ抜けて真上に飛んで行った。


「剣を失ったらすぐ対処。逃げるか殴るか、イントなら相手を投げても良いかな。」


 喋りながら、頭と頬とわき腹に計3発痛いのが入る。だから柔道は授業でしかやったことないから、こんな場面じゃ無理だって。


 転げるようにその場から離れて、剣を拾って構え直す。


 今度は強く握ってみた。


「身体を正面に向けてたら突き放題だ。それにその握り方じゃ早く動かせないよ。」


 父上の動きはゆっくりなのに、防ぐのが間に合わない。


 肩の骨の間に突きが入る。

「痛っ!」


 あまりの痛みに悶絶していると、木剣でペチッと頭を叩かれた。


 マイナ先生の件の腹いせをされているという考えが一瞬よぎったが、よくよく考えると、木剣で殴られているのにこの程度の痛みって逆にすごくないか?


「ほらほら。後でリナにお願いしてやるから立ちな。」


 父上に言われて、我慢して立ち上がる。今度はフェンシングをイメージして、横に構えてみる。


「ええ?短剣で突きの構えって間合い考えてる?」


 今度はこちらの間合いの外から、突きを放ってくる。2回防いで3回目に肩に有効打が入る。痛い。


「それにさっきから、何で剣で剣を受け止めようとしてるの?」


 ええ?そういう訓練じゃないの?


「例えば、こういうのとか。」


 父上が横薙ぎの一撃を放ってきたので、短剣で真正面から受け止める。


「え?」


 父上の剣は、受け止めても速度が緩まず、そのまま振りぬかれていた。


 ゆっくりだったせいか、じわりと重たい衝撃が伝わって身体が持ち上がり、気が付くと肩から地面と激突している。


「受け止めざるを得ない時は仕方がないけど、そうでないなら躱すほうがいいよ。真剣同士をぶつけたら、悲しいほど刃こぼれするし、研ぎ直すと剣身が痩せるしね。戦場では、武器を失った奴から死んでいくんだ。」


 さすがに地面と激突すると、痛すぎて声がでない。


「ちょっと休憩にしようか。リナ、お兄ちゃんを助けてあげて。」


 素振りをしていたストリナが走ってくる。


「おにいちゃん、いたかった?ヒール!」


 真新しい護符型コンパイラから銀色の聖紋が広がって、光が身体に染み込んでいく。痛みがスーッと引いていった。


「めちゃくちゃ痛かった。でも治ったよ。ありがとう。」


 ストリナの頭を撫でると、嬉しそうに笑う。


 前世の世界に、神術なんて便利なものはなかった。打ち身をすれば、軟膏を塗っても治るまで痛いのが普通。それがこっちの世界じゃ一瞬で治る。

 異世界だよなぁ。


「ああそうそう。明日には王都に出発することになる。イントは走って馬車と並走だけど、リナはどうする?」


 また馬車と並走なのか。村からここまで、休憩時間を除くと3時間ぐらい走りっぱなしだったけど、王都はそれ以上だろう。疲れそうだ。


「もちろんいっしょにはしる!おかあさんからあたらしいしんじゅつをならってるから、れんしゅうしながらはしる!」


 張りきるストリナの頭を撫でながら、不思議な気分になる。

 僕はまだ神術を発動すらさせられてないのに、ストリナはもう次の神術を習い始めている。これは明らかな差だろう。


 こうまで違うと、ストリナに負けないためにも、ストリナとは違う道を模索する必要性を感じてくる。父上や義母さんの言う通り、身を守る力は必要だとしても、すべての労力を武力向上に賭けなくても良いのではないか。我が家が武門の貴族だとしてもだ。


 幸い、市場原理や需要と供給の話はこちらで通じたし、筆算の有用性も認められた。マイナ先生ともっと仲良くなるためにも、そっち方面で使えそうな知識を思い出した方が良いかも知れない。


 後であの教科書の悪魔にも聞いてみよう。


「よし、息は整ったようだな。じゃあもう一本やるぞ。立て!」


 父上は楽しそうに練習の続行を告げた。


 ———その後、小学校の時にやったドッジボールを思い出し、何度か躱すことに成功したが、それを繰り返していると父上が速度を上げてきて、結局ポコポコ殴られた。


 その後本人の希望で同じようにやったストリナに対しては全部寸止めだったので、絶対僕を殴りたかっただけだと思う。



ファッ!?なんかおかしなことが起きました。


昨日(10月29日)のPV数が2,708と、一昨日の3倍以上を記録。

加えて、総合評価は前日比+92(評価人数+5人、ブックマーク数+23人)となりました。

これ、現在の日間ランキングで言うとハイファンタジーの82位ぐらいの規模みたいです。

そして、はじめて某スコッパーさんのブログで取り上げていただけました。


読んでくださった皆様、評価やブックマークをしてくださった皆様、記事で取り上げていただいたスコッパーさん、本当にありがとうございます。


うまくすれば、朝方の日間ランキングには乗れるやもしれませんね。


さて、次あたりから王都突入です。社会人の皆様にはお馴染み、新規事業を立ち上げる時だいたい足りなくなるあれの問題にイントが挑みます。

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