19話 王家と戦犯
大変申し訳ございません。今回短くなっています。前話に引っ付けておけば良かった!
「何だ?どういう状況だ?これは?」
プラースさんやアブスさんに声をかけて、館に戻て来た父上が、食堂で首を捻っている。
「いや、僕には音楽センスがないらしくって。」
一人蚊帳の外にされてしまった僕が、父上の問いに答えた。
少し離れたところでは、義母さんとマイナ先生とストリナが、僕が書いた九九一覧を囲んで、有名な童謡やら武勲詩なんかのリズムに乗せて、替え歌で九九を歌っている。
「いや、何で歌ってるんだ?」
父上の疑問は解けなかったらしい。
手元に、論文の下書きの束があったので、父上に手渡す。
「マイナ先生って計算能力が異様に高いらしくって、初心者が掛け算を身に着ける手順をイメージできてなかったみたいなんだ。だから一桁同士の掛け算を暗記する方法を提案して、覚えやすいように歌にしてみたけど、僕は音楽センスがないって言われて。」
ひどい風評被害だと思う。日本語をこちらの言葉に翻訳すると、歌いにくくなっただけだ。決して音痴なわけではない。
「なるほど。」
一応は納得してくれたらしい。渡された論文を読み始める。
「父上はこの後すぐに温泉に行くんですか?」
読んでいる父上に声をかけると、やや上の空な感じの返事がある。
「ああ。昼ご飯を食べたら、3人で現地に行ってみるつもりだ。今必要な資材と馬の手配をさせている。塩を手に入れて明日の夜までには戻るから、明後日には王都に向けて出発するつもりだ。イントも準備しておけよ。」
父上は決断から行動までが早い。本当に塩が取れるかはわからないが、塩が取れれば大金星だ。実際に塩不足が起きている以上、温泉から塩が取れることはこの国では知られていないはずで、それを証明できれば手柄にはなるだろう。
実際にどの程度の需要を満たせるか、国が塩不足の問題をどれくらい深刻に捉えているかによって、手柄の大きさに変化はでるだろうが。
「わかりました。温泉で塩が取れた場合、その成果はすぐに国に報告するんですか?秘匿して我々だけで売れば、莫大な利益になりますよ。」
一応確認しておく。父上は顔を上げ、苦笑いをして首を横に振った。
「イント、よく覚えておきなさい。塩の問題を早急に解決しなければ、今年の冬を越せない民が多く出る。それを防ぐ手段を知りながら、貴族がそれを己の利益のためだけに使ったと知られれば、王家はきっと許さないよ。あまり王家を舐めない方が良い。それに———」
一瞬ためらった後、父上は続ける。
「戦犯の私が今こうしていられるのも、王家のおかげだから、その恩は返さないといけないんだ。」
『戦犯』
父上は先の戦争で大きな手柄をあげて、貴族に成り上がった。その父上が、自分のことを『戦犯』と呼んだ。それが非常に気になる。気になるが、父上の表情が辛そうで、それ以上の追及できなかった。
「イントは跡継ぎだから、いずれ話さないととは思ってるんだ。王都に行ったらいろいろ言われると思うから、それから話すよ。」
父上はこちらの表情を読んだのか、それだけ言うと、論文に視線を戻した。
ブックマークが3件、評価が1件増えていました。
「いいね!」が欲しくて道を踏み外す人がブームになっていたことがありましたが、今なら気分がわかります。本当にありがとうございました。
さて、次回からはシーゲンの街経由の王都行きになります。




