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17話 剣術と温泉の発見

 朝の鍛練は、7歳の誕生日に貰った短剣を使った訓練だった。


 義母さんに説教されて以降、護身用に持ち歩いているもので、もちろん真剣だ。


「じゃ、それ斬ってみて。」


 父上は軽い調子で指示をしてくる。


 父上が指さした先には、石畳の隙間に、細い木の棒が何本か突き刺してある。太さは人差し指より少し細いぐらいだろうか。多分、以前父上が遠くから切断していた木と同じものだ。


 言われた通りに短剣を抜き、斬りつけてみる。


 ぺち


 しっかり固定されていなかったのか、棒は斬れることなく倒れた。


「ありゃ?」


 倒れた棒を拾い、元の隙間に深く突き刺そうとする。


「あー、ダメダメ。深く刺さなくても斬れるようにならないと。」


 父上が僕の手から短剣を取り上げると、さっと振った。それだけで、そこに立っていた木の棒が斜めに切断される。


 断面がものすごくキレイだ。


「これは矢を作る時の木でね。軽くて切りやすい木なんだ。これが斬れないようなら、この辺りによくいるスケルトン程度でさえ傷つけられないよ。」


 スケルトンって、骨だけのアンデッドだよね。レイスに襲われた時、直前に現れた魔物だったはず。よく考えたら、骨を斬るって、すごいな。


「さっきも言ったけど、短剣は棒じゃない。刃物ってことを意識して。じゃ、もう一回。」


 父上が返してきた短剣を受け取って、頷く。それから、棒のないところで一回ゆっくり短剣を振ってみて、軌道と刃の向きを把握する。


 それから、もう一度挑戦してみる。


 ぺき


 間抜けな音と共に、また棒が倒れた。


「うん、いいよ。今度はもっと速く振ってみようか。」


 いいの?斬れてないけど。


「大丈夫。見てごらん。今度は斬れかけてるから。」


 こちらが怪訝な反応をしているのを感じたのか、父上が先ほどの棒を拾って見せてくれる。確かに、先ほどより深い切れ目が入っていた。


 納得して、何もないところで何回か素振りしてみる。


 速く、速く、速く。よし。


 次の棒の前に進み、短剣を振る。


 ミシッ


 今度は棒が二つに分かれて、飛んで行った。


「やった!斬れた!」


 思わずガッツポーズをしてしまう。充実感が沸き上がってくる。


「こらこら。まだ喜ぶのは早いよ。見てごらん。」


 父上が先ほどの棒を拾い、断面を見せてくる。


 見ると、断面の途中でささくれた長いトゲが見える。


「ほら、最後まで斬れてないね。途中で折れてるよ。速度を意識しすぎて、刃筋がずれたんだ。」


 斬れてなかったのか。充実感が霧散する。


 ふと、視線を感じて館を見上げると、3階の窓からストリナがこちらを見ていた。悔しいのだろう。泣きそうな顔だ。


「でも、惜しかった。もう一回!」


 もう一回刃筋意識して、ゆっくり素振りする。いけそうだ。


 サクッ


 今度は棒の下側は立ったまま、短剣の刃が棒を通り抜けた。さっきより抵抗が軽い。


「おっ?今のは良いね。忘れないうちにこれ全部行ってみよう。」


 コツは掴んだ。父上が指さした棒を5、6本連続で斬っていく。何だか気持ち良い。


「うん。良いね。じゃあそれを忘れないように、素振りしてみようか。とりあえず20回。」


 言われた通りに短剣を振る。短剣は鉄の塊で、そこそこ重い。力を込めているので、すぐに手がだるくなってくる。


 神術の訓練もそうだが、剣術の訓練も地味だ。せっかく異世界に転生したのに、地道すぎる。


「ほら、雑念が入ってるよ。刃筋がズレてきた。」


 手もだるい。


「戦場じゃ疲れた奴から死んでいくよ。最後まで手を抜かないで。」


 20回振った時点で、腕が重くなっていく。


「お疲れ様。じゃ次左手ね。右手ほど器用には動かないから、最初は振るだけで良いよ。素振り30回で。」


 間髪入れず、次のメニューを言い渡される。


 そう言えば、陸上部の顧問も、筋トレはバランス良くと言ってたっけ。背筋と腹筋は偏るといけないとか言ってたし、多分腕の左右も同じなんだろう。


 素直に左手に持ち替えて、30回振る。明日の両腕の筋肉痛は確定だろう。


「旦那様?マイナ様がご到着されましたが、いかがいたしましょう?」


 ちょうど30回振ったあたりで、アンがマイナ先生を連れてやってきた。貴族であれば応接室に案内するらしいけど、貧乏で使用人が少ないのうちでは直接連れてくる事になっている。


「早かったな。塩の件はどうだった。」


 声をかけられて、マイナ先生がアンの後ろから進み出てくる。一瞬、マイナ先生がこちらをチラリと見て、視線が交差する。マイナ先生の顔がちょっとにやけていた。


「はい。岩のような塩、岩塩についての情報はありませんでしたが、温泉については調べがつきました。」


「ほう。どうやって調べたんだ?」


「先日、王都から美容の専門家がこの辺りの温泉を調査しに来ており、その調査結果をシーゲンの街の賢人ギルドが入手していました。それによると、ここコンストラクタ領内には5箇所の温泉があり、そのうち2箇所は『塩っぱい』のだそうです。近い方の温泉はこの村から馬で1時間程度の位置にあり、その情報源はこの村のアブスさんと記録にはありました。」


 アブスさんは、こないだスカイチキンを売ってもらった猟師さんだ。情報源が割と身近だったのは意外だけど、父上を隊長と呼んでいたし、案内も頼みやすそうだ。悪い話ではない。


「近いな。それなら、王都に実物の塩を持っていけるかもしれないな。イント、塩の作り方を教えてくれ。」


 父上が尋ねてくる。知っている前提で聞いてきてるけど、僕は煮詰めるぐらいしか知らない。


「えーと。その温泉水を鍋で煮詰めると、多分できると思う。やったことがあるわけじゃないから、詳しくは知らないけど。」


 マイナは驚いた顔でこちらを見た後、続けた。


「それについてはこちらでも調べさせて頂きました。海から塩を作る場合と同じであればの話ですが———」


 マイナが説明するところによれば、この世界の海塩は、


 1.大きな鍋で塩水を煮る。


 2.半分ぐらいまで水が減ったところで、もう一度塩水を足す。


 3.水が白く濁ってしばらくしたら、塩水を目の細かい布で濾す。


 4.さらに煮詰めると、鍋の底に塩が溜まり始める。


 5.鍋の底にある程度塩が溜まったら、掬って乾かす。


 6.乾かした塩を壺に入れれば出来上がり。


 という工程で作られるようだ。途中まで煮詰めた塩水を濾すとか、全然知らなかった。確か日本史か何かに塩田が出てきたような記憶があるが、そんな細かい部分まで解説があっただろうか?


 さすが先生、グッジョブだ。


「なるほど。では燃料は現地で調達するとして、大きな鍋と柄杓と目の細かい布が必要だな。あと壺か。煮詰める時間はどの程度必要だ?」


 先生は口元に手を当てて、少し考えてから答えた。


「丸一日はかかるでしょう。」


 先生のしぐさに妙に色気がある。先生は前世の17歳より下のはずなので、もしかしたらロリコンの気があるのやもしれない。


「ふむ。ではテントと食料もだな。アン、明日の晩まで持つもので、持っていけるものを9食分用意してくれ。私はこれからプラースとアブスのところに声を掛けてくる。」


 プラースさんは村長で、状況を把握している人なので一緒に行くのだろう。父上はアンにもてきぱきと指示を出していく。


「あの!」


 マイナ先生がその流れを断ち切るように、強い声を出す。全員の注目がマイナ先生に集まった。


「それで報酬なんですけど、み、認めては頂けるのでしょうか?」


 先生の耳がちょっと赤い。がんばって勇気を出したんだろう。


「ああ。それについては大歓迎だ。早急にシーゲンの街にいらっしゃるご両親と、王都のフォートラン伯爵にご挨拶に伺おうと思っている。君も一緒に行って、ついでに王都で論文を発表したら良い。」


 父上の話を聞いて、先生の顔がパッと明るくなる。


「あ、ありがとうございます。じゃあ急いで論文を完成させないとですね。イント君、今日はよろしくね。」


 先生がこっちを見て笑いかけてくる。筆算ごときでこんなことになるとは思っていなかったけど、今さら後には引けないし、僕の名前を伏せてもらうには付き合うしかない。


 父上にも言われているし、四則演算ぐらいならどうということもないだろう。頷くと、マイナ先生が嬉しそうににやけた。


 なんかイメージと違う気がするけど。


「じゃあイント。私は出かけるので、剣の訓練はここまでだ。ちょっと早いが、これからマイナの論文を確認してくれ。」


 父上はやたら張りきった様子で、小走りに出かけていった。塩不足に関しては、真剣に悩んでいたようなので、見つかった温泉から塩が取れたら、領主として面目躍如なんだろうな。


 塩が取れると良いけど。


 祈るように空を見上げると、3階の窓から様子をうかがっていたストリナと義母さんと目があった。

今日ブックマークと評価を入れていただき、評価ポイントが昨日の倍になり信頼性がアップしたおかげで、今日はまだ1話しか投下していないのに、昨日のPV数を超えました。


ついでにPV数が全体で1,000を超えました。これも読んでいただいている皆様のおかげです。ありがとうございました。


妻からは「承認欲求の塊になったらあかんよ」とのお言葉をいただいていますが、皆様の承認を貰えるよう頑張っていきたいと思います。


そう言えば、承認欲求とかも、保険かなんかの教科書に出てきていましたね。何かのネタにならないものか。

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