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16話 先生と王都

 異世界5日目。


 アンはよほど鶏ガラスープが気に入ったのか、朝御飯は刻んだ塩漬け肉と野菜の入った鶏ガラスープと固いパン、それにレモン水ぽい水だった。鶏ガラスープは、最初の頃より澄んでいて雑味がない。


 割と美味しいが、早くも飽きだしている自分がいる。前世の母親は、実は偉大だったのかもしれない。


「さて、イント。今日は午後からマイナが来る。」


 父上は朝食の席でそんなことを言い出した。今日の朝食の席には、父上しかいない。義母さんは寝室で、ストリナと一緒に食べているからだ。


 ストリナは父上が足の付け根のツボに何かして、痛みを感じなくなっているが、そのせいでうまく歩けないらしい。


「彼女は今、計算の高速化手法をテーマにした論文を書いてる。中身はお前の筆算だから、何か気づいたことがあったら助言してやって。」


 なるほど。マイナはこれから、こんな辺鄙な村に拠点を移すらしいから、話し相手は必要なのかもしれない。


「それはわかったけど、今日は家庭教師の日じゃないよね?マイナ先生はここに住むの?」


 とりあえず、トゲトゲした雰囲気を出さないように注意しながら、質問を投げ掛ける。


 父上は困った顔で説明をはじめた。


「すぐではないけど、そうなるかもしれない。母さんとも相談して、受け入れても良いと思っているけど、イントはどう思う?」


 もげろと思ってるよ。あんな美少女に惚れられやがって。年の差何歳だよ。


「それはいいと思うけど、第二夫人にするの?」


 聞いて見ると、父上は照れ笑いをしながら、頭を掻く。この爽やかスケベが。


「マイナはフォートラン伯爵の姪だから、適当な扱いにはできないかな。まぁでも、しばらくは村の宿からこっちの館に通う形になると思うよ。仕事場はここにするそうだから。」


 その辺のしきたりはよくわからない。でも、父上は母上と義母さんとマイナ先生、あと多分元第三王女も惚れさせている。


 何だろう?このチート感。すごくイライラする。何で転生者の自分ではなく、父上がチートしてるんだ。


「まぁ、塩のことを含め、今度王都に行かなきゃならないから、その時に関係者に挨拶しに行かなきゃね。」


 フォートラン伯爵のところに挨拶に行くわけか。貴族は大変だね。


 僕はシーゲン子爵に挨拶するだけでもいっぱいいっぱいなので、さらに上の伯爵とか、できるだけ近づきたくない。


 父上の話を聞きながら、スープを一口啜る。


「ああ、もちろんイントにも来てもらうから。」


 ブッ!


 焦ってスープを吹きそうになったが、なんとか踏みとどまる。


「僕が王都に?何で?嫌だからね。」


 ナプキンで口元を拭きながら、抗議する。


「いや、目的はマイナの実家に挨拶しに行く他にも、論文の発表とか、塩関連の情報収集、王家への献策とかいろいろあるんだよ。マイナはイントの先生として雇っていたわけだし、その他も全部イントがらみだから、一緒に来てもらうよ。マイナからも言われているし。」


 有無を言わせない雰囲気を全面に出してくる。なんだか当主っぽい。


「やだよ。貴族様の相手なんて、できるわけないじゃないか。マナーとか苦手だし。」


 父上が頷く。


「実は、貴族様の相手は僕も苦手なんだ。今度マイナの手が空いてる時に、一緒に習おうか。」


 父上はいたずらっぽく笑う。マナーは元の世界でも地域によって違った。まして異世界ともなれば、元の世界の知識は何の役にもたたない。元々のイントも礼儀の授業は嫌いで、自発的に何かできるほどの知識は身についていない。


 父上には不安が見透かされているようだ。


「うう。わかったよ。」


 断るという選択肢は用意されていなかったので、しぶしぶ、本当にしぶしぶ頷く。


「そういうわけだから、午前中は少し剣術をやろうか。筋肉痛はもう大丈夫でしょ?」


 話の脈絡はわからないけど、確かに今朝は、昨日の朝に比べれば、だいぶマシになっている。


 昨日は弓の訓練を終えた後、約束通り村の子たちと訓練をこなし、塩気のない夕飯を食べ、寝るまで神術を発動するための訓練に費やした。


 運動的には大したことがなかったせいか、ちょっと腕と胸と背中に痛みがあるものの、木剣を持てないほどではなさそうだ。


 片道4時間ほどのシーゲンの街からの道中でさえ、魔物に襲われた。自分の身を守る技術というのは、きっとこの世界では必須なのだろう。


 それに、うかうかしてると、ストリナとの差は開くばかりだ。


 訓練を嫌がっている自分を説得して、頷く。


「じゃあ、今日はいつも持ってる短剣を振ってみようか。護身用なら、ちゃんと使えるように素振りしないとね。」


 思ったよりも地味な訓練で、がっくりする。チートでいきなり強くなるとか、レベルアップで簡単に強くなるとか、そういうのはないもんだろうか。


「昨日リナが使おうとした仙術とか、そういうのはいつ教えてくれるの?」


 きょとんとした顔で、父上がこちらを見てくる。一呼吸ほど間があいた。


「ああ、そうか。説明してなかったね。仙術の修行法は大まかにわけて、魂を鍛える制魂法と、身体を鍛える制魄法というのがあってね。素振りは身体が鍛えられるから、制魄法の一種だよ。」


 まさか筋トレが仙術の修行とは、世の中わからない。思ってたのとだいぶ違う。


「十分な制魄法の修行をせずに、制魂法を使うと、身体が耐えきれなくてケガをすることになるから、焦らないでね。焦るとリナみたいになるから。」


 顔に出てたかな。どっちみち焦ってもストリナみたいにはできないから、素直に頷く。


「わかったよ。じゃあ、素振りで気をつけないといけないことって何かあるの?」


 今日は素直に剣術の練習をしよう。本当は昼寝がしたいけど。


「そうだなぁ。素振りって、刃物を振り回す訓練だから、刃物であることを意識して振らないといけないね。」


 言われてみればその通りだけど、『刃物である』ってどういう意味だろう?前世では、包丁より長い刃物を持った事がない。


「棒と刃物ってどう違うの?」


「例えば、刃物っていうのは、刃を立てないと切れない。だから、刃は常に進行方向に対して真っ直ぐじゃないといけないんだ。それに、刃物は当てるだけじゃなくて、押すか引くかしないと切れないよね。」


 父上は、腕を剣に見立てて、身振り手振りで、ほんわかと教えてくれる。

 言っている意味がわかるようでわからない。


「刃を立てる?」


 刃を立てるという表現は聞いたことがない。剣を扱っていた映画やアニメの主人公は適当に剣を振るっている気がする。


「剣を扱う冒険者でも、叩きつけるだけしかできない人は多いんだけどね。刃物ってのはそうじゃないんだ。例えば、そのナイフでパンを切ろうと思ったらどうする?」


 こちらの手元の朝食用のナイフを指しながら、聞いてくる。


 普通にパンを切って見せると、父上が頷く。


「だよね。じゃあ刃を斜めにして切ってみて。」


 言われた通りに斜めにすると、真っ直ぐは切れなくなる。いや、でもそれは当たり前の話だ。


「そうなるよね。刃こぼれの原因は固いものを切る以外にも、刃を立てていないこともよくあるんだ。ま、朝食を食べ終わったらいろいろ試してみよう。」


「やってみる。」


 生ぬるいレモン水を口に流し込んで、頷く。なるほど、納得した。


「僕も父上みたいに強くなれると思う?」


 ふと、気になったことを聞いてみる。

 前世の世界には神術も仙術も存在しない。剣はあるけど、握ったこともない。弓はあるけど、吸盤がついたオモチャだった。


 これじゃ1からのスタートだ。前世の知識も常識も、まるで役に立たない。


「どうだろうね?やってみなきゃわからないけど、僕も昔から強かったわけではないし、少しずつがんばれば良いと思うよ。」


 それは前世でもそうだ。高校では陸上部に所属していたが、やはりタイムは急激には縮まず、数回のスランプを経て少しずつ縮んでいった。


「自信ないなぁ。」


 父上のチートじみて見える能力も、きっとコツコツと積み上げられたものなのだろう。それはわかる。


 が、自分も同じことができるかと言われれば、自信はない。


「8歳でそんな風に先のことが考えられているわけだし、心配いらないと思うけど。」


 話をしている間に、父上は朝御飯を食べ終わる。


 そのまま、いそいそとトレイの上に食器をまとめ、運び始める。


「今日も美味しかったよ。ありがとう。」


 お礼と共に厨房のアンに渡した。


 父上は前世でイメージしてた貴族とは違って、あまり偉そうではない気がする。


 そう言えば、イントの知識から言っても、父上は少しおかしい。


 たとえば、マイナ先生からは、貴族と一緒に食事をする時は相手の速度に合わせなさいと教えられていたけど、父上がそんなことをしているところは見たことがない。


 食器を持って行くことも、メイドや執事の仕事を奪うことになるので、あまり良くないと言われていたっけ。


 まぁ、こっちのほうが気楽なのは間違いないけど。


「さて、では練習用の道具を取りに行って 準備をしてくるから、食べ終わったら中庭に来なさい。」


「うん。」


 父上はさっさと食堂を出て行った。僕はようやく3分の2食べ終わったところだ。


 硬いパンは苦手なので、スープに浸して食べる。


 そう言えば、前世の柔らかいパンって、どうやって作ってたんだろう?発酵させるとは聞いた事があって、生物の授業で乳酸発酵とアルコール発酵は習ったけど、実際にどうやるのかはわからない。


 前世では、料理は母親任せで、家ではほとんどしたことがない。やったとしても、電子レンジやお湯でどうにかなるレベルまでだ。

 だからあちらの料理が懐かしくても、どうすれば良いのかわからない。


 こんなことなら、ちゃんと料理を習ってておけば良かった。


 苦手なパンを無理矢理スープで流し込み、一息つく。お腹一杯にすると横っ腹が痛くなる可能性があるので、お腹は腹7分目ってところで抑えてある。


「今日も昼寝は出来なさそうだなぁ。大丈夫かな?」


 無意識に呟きがこぼれる。前世の記憶が戻るまでは、習慣的に昼寝していたが、ここのところ全然だ。スローライフがしたいが、まぁ仕方ないか。


 食器が載ったトレイをアンに渡し、短剣を持って中庭に向かった。




ブックマークと評価がお一人ずつ増えました。本当にありがとうございます。


無茶苦茶励みになったので、がんばって今日の投稿分を書き上げたいと思います。


文字数が原稿用紙160枚分を突破したので、塩不足編はそろそろ手仕舞いに向かわねば。



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