12話 筋肉痛と解決法
前世を思い出して、というのが正しい表現なのかはわからないけど、ともかく4日目。
朝起きると、地獄が待っていた。体力がないのに、無理をしてしまったのか、全身くまなく筋肉痛だ。
昨日も結局、昼寝出来なかったので、寝足りない感覚もある。
ノロノロと着替えて、食堂に行くと、もう全員揃ってお茶を飲んでいた。
「おはよー…」
挨拶すると、家族から朝の挨拶がパラパラと返ってくる。
父上はかなり眠そうにしているし、リナもウトウトしていた。
コンディションはみんな悪そうだが、ただ一人、義母さんだけが何故か艶っぽい。義母さんは前世の基準で言うと、女子大生ぐらい若々しいので、破壊力は抜群だ。
一瞬、あられもない想像をしてしまい、顔が赤くなる。
「今日の朝御飯はなにー?」
気持ちを切り替えて、厨房を覗きこむ。昨日の魚の塩焼きがおいしかったので、余計に塩味に餓えているのを自覚できる。
「今日は昨日の魚をスープにしておりますよ。ああ、そう言えば、昨日は美味しいお魚をありがとうございました。大変美味しゅうございました。」
アンがスープの鍋をかき混ぜながら、昨日の魚のお礼を言ってくる。
昨日、レット君はあんなに獲ったのに、行き渡る量はアンのところで一匹。専門の漁師がいないのは、獲れる量が少ないせいで、生計が成り立たないせいだろう。
「少なくてごめんね。自分で獲れるようになったら、もっといっぱいお裾分けするから。」
レット君一人でも、川から魚影が消えるぐらいの乱獲できたわけで、僕が弓を覚えても、同じかもしれないけど。
「あ、そうだ。川で使える弓と矢ってうちにない?」
そう聞くと、アンが目を見開いて手を止めた。
「坊っちゃん、弓を始めなさるので?」
変な事を言ったかな?テーブルをちらりと見ると、父上と義母さんがアイコンタクトしている。
「あの魚、矢で獲るんだ。」
そう言えば、食堂の壁に弦を外された弓が掛けられていたっけ。最低限の装飾しかないのに、どこか優雅な雰囲気のある弓だ。
食堂の壁には、弓の他に、父上の持っている剣にそっくりな剣と、先端に銀色の珠が埋め込まれた杖、びっしりと装飾された短剣が飾られている。
これまで意識したことはなかったけど、何か意味があるのだろうか?
「イントは弓もやりたいのか?じゃあこの後、剣と一緒に手解きしようか。」
父上はやたらと嬉しそうだ。
「父上、これまでさぼっていたせいか、今日は全身が痛いので勘弁して欲しいです。明日にしませんか?」
「身体が痛いから動きたくないなんて、戦場では許されない話だよ。大丈夫、筋肉痛じゃ死にはしないから。」
一応父上に自分の意思を伝えてはみたけど、激しく脳筋な理屈で一蹴された。いや、戦場なんか出るつもりはないし。身の回りの誰かを守れる程度の武力で充分です。
「だったら、その次は神術ね。私が教えるわ。コンストラクタ家の嫡男なら当然よね。」
義母さんも立ち上がる。神術は10歳からで良いとか言ってなかっただろうか?何だか燃えているようだ。
「おにいちゃんがやるなら、あたしもやる!」
ウトウトしていたリナまで、目をキラキラさせはじめた。
「あらあら。英才教育が始まりそうですね。」
アンが楽しそうに、朝食を載せたワゴンを押して、厨房から出てくる。
盛り上がってしまって、もう逃げられそうもないが、何とか今日だけは回避したい。全力で思考を回す。
「えーと、今日の午前中は、昨日父上に言われた塩不足解消のアイデアを補強するために、市の仕組みについて勉強しようと思ってて、午後はアイデアのまとめと、みんなと走るから…。」
前世の心臓の痛みには遠く及ばないが、筋肉痛がひどい。許されるなら1日寝て過ごしたい。
本音を押し殺して、それっぽい言い訳を考えてみる。
「ふむ。それなら、これから村長と打ち合わせしよう。どうせ、村で小難しいことを考えているのは、僕と母さんと村長のプラースぐらいだ。アイデアをその場でまとめたら、訓練の時間も取れよう?」
藪蛇だった。訓練から逃げる道がまったく見えない。
「良いわね。じゃあ、今日のリナの付き添いはアンにお願いするわ。
リナを毎日待機させておくのは勿体ないから、怪我人が出た時の連絡方法をオバラに考えさせて、昼はこちらに帰ってきて。」
義母さんがニコニコと指示を出す。話が希望しない方向にまとまっていく。
「かしこまりました。」
アンは皿を並べながら頷く。どんどん決定が近づく。
「ちょ、ちょっと待って。村長さんの前で僕が話をするの?レイス憑きとかと勘違いされない?大丈夫?」
起死回生を狙って、反論を試みる。本当に痛いのだ。
「大丈夫だ。お前が気になるなら、私からきちんと口止めしよう。」
うん、これはダメだ。まったく通じてない。
「これは楽しみだわぁ。どんなアイデアが出てくるのかしら。面白かったら、神術の訓練は痛くしないであげる。」
義母さんがハードルをあげてきた。しかも、痛くしないであげるって、もしかして心を読まれてる?
「母さんはまだイントからあまり話をきいていないんだったっけ。面白くないとか、あり得ないから大丈夫。」
ハードルを上げるのは、父上もだった。しがない高校生に、一体何を期待しているのか。
「ますます楽しみね。次期コンストラクタ男爵のお手並み拝見。」
テーブルに突っ伏して、大きくため息を吐き出す。反論しても無駄な空気をありありと感じる。
「そんなに期待して、どうなっても知らないからね。」
悔し紛れの反論を投げかけて、食事を開始する。
生姜の香りのする川魚のスープはいつもより塩味が効いていて、かなり美味しかった。これも多分、アンからの無言の期待の現れなんだろう。
なんだかプレッシャーがきつい。
開始から4日目まで、毎日PV数が倍のペースで上がり続け、昨日は236PV、全体を通してなら400PVを超えました。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。




