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10話 普通と違い

「え?この短期間で8匹も?どうやったらそんなことができるんですか?」


 魚を8匹を渡すと、パッケは驚いていた。冒険者ギルドからの帰り道で別れてから今まで、一時間とたっていない。


「取引したんだよ。走り方をこの村の子に教える約束をして、そのかわりに魚をもらったんだ。

 村の子なら、走り方教えても問題ないよね?」


 事情をかいつまんで、簡単に説明する。昨日、パッケは走ることは軍事的な秘匿技術で、広まると反乱の危険性があると言っていた。勝手に教えると怒られるかもしれない。


「それは旦那様の許可が必要ですね。勝手に教えると怒られるかもしれませんよ。」


 前世の記憶では、早い遅いの違いはあれど、だいたい誰でも走れた。でも、それで反乱が起きたなどと聞いたことがない。だから大丈夫だろう。


「それぐらい心配いらないんじゃない?それに僕、今後身体を鍛えるために村の中を走るつもりだから、それ見られたら出来るようになる人もいるでしょ。一緒だよ。」


 渋るパッケに、アンとパッケの分を含め、6匹を塩焼きに、残りの2匹は適当な料理に使うようお願いして、館を出る。


 集合場所は村長の家の前。すぐそこだ。


 昨日のランニング分と午前中の素振りの筋肉痛はまだ少し残っているけど、軽く走るぐらいなら大丈夫そうだ。


 軽くストレッチしてから、村長の家までの下り坂を、軽くランニングしてみる。


 元々身体が軽いせいか、下りだからなのか、今日は昨日より少し速いかもしれない。


 靴がランニングシューズではないことに、まだ違和感が残っているが、これも慣れでなんとかなりそうだ。


 あっという間に、待ち合わせ場所である村長の家の前に到着した。


 まだ誰もいなかったので、何をするか少し考えてみる。


 こちらの世界の子どもがどの程度の身体能力かわからないけど、多分最初は色々教えないといけないだろう。


 となれば、その分当初の計画である自分の基礎体力作りがおろそかになるのは間違いない。


 記憶には残っていないにせよ、すでに魔物に襲われたという実績がある以上、基礎体力のなさは命に直結する。


「時間を無駄にはできないか。」


 とりあえず、背筋、腹筋、腕立て、スクワットを10回ずつを1セットとして、みんなが集まるまでやることにした。


 黙々と筋トレのメニューをこなしながら、時計があれば便利だろうなと漠然と考えて、すぐにあきらめる。


 そもそも、構造を知らない。学校の教科書で時計の構造なんて見たこたがない。こんなことになるなら、学校の授業以外の勉強もしておくべきだったのかも。


 そんなことを考えながら、筋トレをしていると、2セット目で腕立てができなくなり、その他を3セットこなしたところで、バテて動けなくなる。


「あれ?何でもう汗だくなの?」


 疲れて休んでいるところに、レット君たちがやってきた。ウィン君が声をかけてくる。


「身体を鍛えようと思ったんだけど、ちょっと早かったかも。あ、全員そろったね。じゃ、始めようか。」


 一応、陸上部で後輩に走り方を教えたこともある。楽勝だろう。


「じゃあまず見本を見せるから、見ててね。」


 皆が見てる前で、走って見せる。


「意識するのは、かかとで着地して、親指の付根で地面を蹴るの。じゃやってみて。」


「えっと、そんな走り方初めて見るんだけど、どうやるんだ?」


 レット君が困り顔で言う。なんか調子狂うなぁ。僕にとっては普通の走り方だけど、こちらではやっぱり『普通』ではないらしい。


「うーん、じゃあみんな走る時どうやってるの?全員あの木まで走ってみてよ。」


 とりあえず、こちらの世界の『普通』も見ておく必要があるかもしれない。


 全員がバタバタと走る。全員が全員、圧倒的に遅い。


 レット君とサーブレさんは手を振らず足だけで走ろうとしているし、ウィン君はお笑い芸人張りの横走り、ルド君は古いギャグ漫画のように手を横に広げて走っていた。


 フィーちゃんに至っては、走ろうとしてすぐに転んで、地面に寝そべったまま目に涙を浮かべている。


 手足を交互に動かして走った子どもはゼロ。戻ってくる姿をよく観察してみると、歩く時も腕は振っていない。


 なるほど。前世では保育園の時代から、運動会の前とかに行進の練習とかしていて、てっきり団体行動を教えるためだと思っていたけど、元々は違う意図もあったのかもしれない。


「フィーちゃん、大丈夫?」


 転んだフィーちゃんを助け起こして、頭を撫でながらみんなと合流する。

 フィーちゃんは膝を擦りむいてしまっていた。


「うーん。みんな走るのはまだ早いかも。歩く訓練から始めようか。」


 結局、その日は手と足を交互に振って歩く行進訓練になった。


 みんなにとっては、それすら難しかったのか、手と足が同時にでて、バランスを崩している。なかなか思い通りにならないものだ。


 ちなみに、フィーちゃんの膝は、いつの間にか訓練に混ざっていたストリナが治療していた。


日本で現在のような腕と足を交互に振る走り方が普及しはじめたのは、幕末頃の話と言われています。実は走るというのは、我が国ではまだ200年経っていない、歴史の浅い技術なんですね。(諸説あり)


それが何で幼児の頃から教育に取り入れられているのか。本当のところはわかりませんが、もしかすると今の人たちはみんな忍者クラスの身体能力の持ち主になっているのかもしれません。


最近は見かけなくなりましたが、職場にも「普通」とか、「当たり前」という言葉を連呼して新人教育しようとして、理解してもらえずに「最近の若いのは常識がない」とこぼす先輩がいました。


教科書を読んで、「普通」や「常識」の正体について考えてみるのも良いのではないでしょうか。


ーー感謝ーー

昨日は1日で118PVを頂きました。皆様、読んでいただきありがとうございます。

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