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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第97話 渡波雫-2

「とても信じられないわね……」


 一通りのことを話したところで、須賀川はそう言った。

 他の女子も、信じられないものを見るような目で、こちらのことを見つめている。


 俺は、北上に惚れられたことや、そのことが明らかになった経緯と、早見に訓練を手伝ってもらったことを話した。

 無論、訓練の時に俺達が水着姿だったことや、北上に膝枕をしてもらったことは隠したが……。


「そう言われてもな……。俺は、事実しか言ってないぞ?」

「でも、皆のアイドルみたいになってる北上が、あんたなんかに一目惚れするって……あり得ないでしょ……」

「……正直に言えば、俺もそう思う」

「おまけに、あんなに男を嫌ってる早見が、黒崎に親切にして、腕を組んだりするって……訳が分からないわ……」

「……俺にも分からない」

「あんた、騙されてるんじゃないの?」

「早見は、からかってるだけじゃないかと思うんだが……北上については、それはあり得ない」

「……まあ、確かに。北上は、そういうことをしないと思うけど……」


 須賀川は、腑に落ちない様子だ。

 俺だって、北上に惚れられた理由など分からないのだから、仕方のないことだろう。


 渡波は、何かを考え込んでいる様子で言った。


「でも……天音ちゃんって、黒崎君のこと、全部分かってて好きになったの? 私は、御倉沢の人間だし、同じクラスだから、黒崎君のことを色々と知ってるけど……」

「色々って……どんなことだ?」

「黒崎君と、水守ちゃん達が結婚させられた原因が、下着を見たことだったこととか……」

「誤解を招くようなことを言うな!」

「でも、後で知ったら、生理的に無理になるかも……」

「……」

「もしも、天音ちゃんが、黒崎君のことを美化してるんだったら……早く訂正しないと、お互いに傷付くことになると思うよ?」

「……北上は、ある程度のことは認識してる様子だった。心配してもらわなくても大丈夫だ」

「えぇ!? じゃあ、天音ちゃんは、黒崎君が変態でケダモノだって知ってるのに好きなの!? あり得ないでしょ!?」

「お前なあ……」

「雫。黒崎君のことを、あまり悪く言わないで」


 一ノ関が、たまりかねた様子で言った。

 窘められて、渡波は目を丸くする。


「えっ……? 水守ちゃんは、黒崎君が今のままでいいの?」

「……嫌な気持ちになることもあるわ。でも、黒崎君が、女性に対する興味をなくしたら……私は困るから……」

「そっか……やっぱり、水守ちゃんが一番大きいもんね……。柔らかくて、ふかふかで……」


 そう言って、渡波は羨ましそうな顔をした。

 渡波の目は、一ノ関の胸に釘付けである。


「……一応言っておくけど、私は、まだ黒崎君に触らせてないわ」

「えっ!? そうなの!?」

「そうよ。宝積寺玲奈だって、触らせていないのは同じでしょうね。黒崎君は、貴方が思っているほど酷い人じゃないのよ」

「……」


 渡波は、俺の方を、横目で窺った。


「ねえ、黒崎君」

「……何だよ?」

「アリスちゃんが、『他の子とは別れて、私と結婚して』って言ったら、どうするの?」

「……」


 俺は黙り込んでしまった。

 周囲から、刺すような視線が送られてくる。


「……断るだろうな」

「散々迷ってから言われても、信用できないんだけど……」

「いくら早見が美人でも、他の全員を見捨てるっていうのはあり得ない」

「……そっか。やっぱり、数は大事なんだ……」

「どうして、悪意で解釈するんだよ……」

「じゃあ、吹雪様から、私と結婚するように命じられたら? 結婚するの?」

「……命令には従う約束だからな」

「そうなったら喜ぶの? 困るの? ひょっとして、嫌がったりする?」

「……答えづらい質問をしないでくれ」

「……嫌なんだ……」


 渡波が、落ち込んだ様子で言った。

 女に、こういう反応をされるのは、これで何度目だろうか?


「じゃあ、喜ぶって言ったら、お前は俺を非難しないのか?」

「それは……大喜びされたら、さすがに軽蔑するかも……」

「……だったら、嫌に決まってるだろ」

「酷い……」


 渡波は、涙ぐんだ目で俺を見た。

 こういう状況で何と言えば良いのか、俺にはいまだに分からない。


「お前に、女としての魅力がないわけじゃない」

「……本当?」

「ああ。お前が俺を罵らないでくれるなら、生徒会長に命令されたとしても、まあ……喜べるんじゃないか?」

「私……玲奈ちゃんみたいに尽くせないし、天音ちゃんみたいに従順なタイプでもないけど……?」

「あいつらが特殊なだけだ。張り合われたら、俺が困る」

「それに……水守ちゃんほど大きくないけど……?」

「……そろそろ、胸の話はやめてくれ」


 俺はため息を吐いた。

 案の定、周囲の視線はとても冷たい。


「雫ちゃん、大丈夫だよ。雫ちゃんは、充分に大きいから……」


 蓮田が、暗い顔で言った。

 こいつは、どうしても、胸の大きさについてのコンプレックスが抜けないらしい。


「そうなの?」


 渡波が、俺を見ながら尋ねてきたので、思わず目を逸らした。


 一ノ関は規格外だ。基準になるはずがない。

 渡波だって、充分すぎるサイズである。おそらく、この町の女の平均よりも大きいだろう。

 だが、こんなことは、とても口に出せない。


「男性は、そこまで、女性の胸にこだわるものなのですね。勉強になります」


 本宮が、本気の口調でそう言った。

 自分の胸を押さえながら、何かを悩んでいる様子である。

 こいつだって、平たくはないように見えるのだが……。


「霜子さんは、魔力がたくさんあって、もう婚約者もいるでしょ? 黒崎君の変態みたいな性癖なんて、気にすることないよ」

「雫。黒崎は、変態みたいなんじゃなくて、変態なのよ」

「お前らなあ……」


 女子というのは、どうしてこうなのだろうか?

 目の前で、俺の悪口で盛り上がるのはやめてほしいのだが……。

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