第88話 白石利亜-1
話を聞いた後で、俺は、早見に家まで送ってもらうことになった。
俺の家の近くまで来た時に、異変に気付いた。
家の前に、10人以上の女性が集まっていたのだ。
近付いてみると、そのメンバーは、俺の家ではなく、宝積寺の家の前にいることが分かった。
集団の中に、見慣れた女子の姿があった。
「平沢……?」
俺が近寄ると、平沢は、こちらを冷たい目で見てきた。
「黒崎君、貴方……アリスさんとデートするなんて、どういうつもり?」
「デートじゃねえよ。2人で、あかりさんに会いに行っただけだ」
俺がそう言うと、早見は、何故か拗ねたような顔をした。
「あら、デートではなかったのですか?」
「お前は、事態をややこしくするようなことを言うんじゃねえ!」
「不潔だわ……」
「仕方のないことですわ。黒崎さんは男性ですから」
「お前らなあ……!」
「どうしようもない人ですね、貴方は」
こちらに近付いて来た女が、呆れた様子で言った。
この人は、水沢さんの家から、俺を送ってくれた先輩だ。
「あら、霧子さん。お久し振りです」
早見が挨拶すると、先輩は嫌そうな顔をした。
「まったく……このような時に、早見アリスと親しくするなど……。貴方には、御倉沢の一員であるという自覚が、完全に欠如しているようですね」
「このような時って……どんな時ですか?」
俺が尋ねると、今度は、先輩が冷たい目で俺を見た。
「今、吹雪様が、宝積寺玲奈と、直にお話をなさっておられます」
「!?」
「さらに、神無月愛様が、その場に立ち会われていらっしゃいます。たかが1人の女のために、御三家の当主であるお二人が足を運ぶなど……これが、どれほどの異常事態であるか、貴方でも分かるでしょう?」
「一体、どうして……!?」
「原因は貴方に決まっています。宝積寺玲奈を説得するために、吹雪様は、自らが動く決意をなさったのです」
「……」
俺は、この場に集まっている女子の集団を見回した。
ほぼ全員が、お嬢様然とした、きちんとした身なりだ。
状況と考え合わせると……こいつら、御倉沢と神無月の幹部か……?
そういえば、神無月先輩と会った時、その場にいた女子らしき人物がいる。
水沢さんの家の前にいた女子もいるようだから、2つの家の主要なメンバーが集まっていることは間違いないだろう。
俺は、早見の方を見た。
早見は、動揺した様子もなく、ニコニコとしている。
「おい……お前は、このことを知っていたのか?」
「当然ですわ。私は、神無月の幹部なのですから」
「お前……それでも宝積寺の友達か!? これじゃ、ほとんどイジメかパワハラじゃねえか!」
「まあ! 心外なことを仰るのですわね? こういう解決をしなければ、いつまで経っても現状が打開できないことは明らかでしょう?」
「だからってなあ!」
「気持ちは分かるが、少し落ち着くんだ。これは、玲奈にとっても、決して悪い話じゃない」
そういって、別の女性が近寄ってきた。
長身の、明るい色の茶髪をショートカットにしている女性だ。
近付かれて、その女が、俺よりも背が高いことに気付いた。
1人だけ、場違いにラフな格好をしている。
身体にフィットした服のせいで胸の大きさが目立ち、加えて、この場にいる誰よりも短いデニムスカートを履いている。
だが、エロさよりも、健康的な印象を抱かせる装いだと感じた。
「利亜さん、お久し振りです」
そう言って、早見は、その長身の女性に頭を下げた。
「久し振りだね、アリス。君が男子と親しくしているなんて、とても意外だな」
「冴えない男性をからかうのも、時には楽しいものですわ」
「おい……」
俺が睨んでも、早見は涼しい顔をしたままだった。
「アリスがそういう気になったのなら、嬉しく思うよ」
「私、自分を安く売るつもりはございませんわよ?」
「意外と、君には、こういう男が合っているのかもしれないな」
「まあ! 全く嬉しくないお言葉ですわね」
「……」
俺が睨んでいると、長身の女性は、にこやかな顔でこちらに手を差し出してきた。
「僕は白石利亜。愛と同じ2年生だよ。よろしく」
「……よろしくお願いします」
俺は、白石先輩の手を握った。
それから、あることに気付いた。
「愛って……まさか、神無月先輩のことですか?」
「そうだよ。僕と愛は幼馴染でね。彼女が当主になった時に、僕にだけは、今までどおりの呼び方を続けてほしいと言われたんだ。春華さんからも、そうした方がいいと言われて、ずっと呼び捨てのままなんだよ」
「……」
北上が、御三家の権威が損なわれたことについて嘆いていたのを思い出す。
神無月先輩は、元々、当主になるような立場の人ではなかったので、フランクなんだと思うが……こういうところに、不満を持つ者もいるということだろう。
「利亜さんは、3年前のイレギュラーに対応したメンバーの1人です。今では、神無月の中心的な存在になられた方なのですわ」
「よしてくれよ。僕は、魔力だってそれほど多いわけじゃない。愛の親友だから、祭り上げられただけさ」
「ご謙遜ですわね。男性と女性を合わせれば、この町で、一番プロポーズを受けていらっしゃるのは利亜さんですのに」
「僕には、その気がないんだけどね……」
「……女性からも?」
俺が思わず呟くと、白石先輩は困った顔をした。
「幼い頃から、髪を伸ばしたり、可愛い服を着たりするのが苦手だったんだ。背が伸びすぎたこともあって、こんな感じの性格になったんだけど……そうしたら、ね……」
「確かに、白石先輩は、女にモテそうですよね」
「……黒崎。それは、褒めてないと思うよ?」
白石先輩は、残念そうな様子でそう言った。
この人は、タイプとしては水沢さんに似ているようにも思えるが……水沢さんと違って、男っぽくなることについては迷いがあるようだ。
ひょっとしたら、胸の大きさや、脚を隠さない恰好でいるのは、女として扱われたいという願望の表れなのかもしれないと思った。




