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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第81話 早見アリス-9

「どうなさいました? まだ動けるのでしょう?」


 早見が、挑発するように言ってくる。


「……当然だ」


 俺は、そう言ってから立ち上がった。


 今度は、早見にスライディングを仕掛ける。

 だが、早見は高々と跳び上がってかわした。

 そして、前方宙返りに捻りを加えて降りる。


 明らかに、余裕を感じさせる動きだ。

 これでは、ただ転ばせるだけでも難しい。


 どうやって攻める?

 フェイントを仕掛けてみるべきか?

 いや……おそらく見切られるだろう。


 だったら、砂を掬って投げつけるか?

 だが、それで砂が目に入れば、眼球に傷が付くリスクがあることは否定できない。

 故意に相手を負傷させることは厳禁なのだから、この戦法は使うべきではないだろう。


 ならば、どうするか……?

 そこまで考えて、俺は1つの作戦を思い付いた。


 激しく動揺した状態では、魔法を使うことができない、と聞いたことがある。

 ならば、早見が動揺するようなことを言えばいいのだ。


 俺は、早見にもう一度スライディングを仕掛けた。

 しかし、先ほどと同じようにかわされる。

 そこで、俺は早見に、頭から突進して、太股のあたりを狙ってダイブした。

 今度は、早見は横に動いて躱した。

 なるべく時間を空けないようにして、早見の脛に向けて足を突き出す。

 早見は跳び上がり、わざわざ後方宙返りをした。


 狙いどおりである。

 足元を狙い続ければ、先ほどのように、跳び上がって避けると思ったのだ。

 俺は立ち上がり、着地して涼しい顔をしている早見の胸に目を向けてから叫んだ。


「……早見! 乳首が!」

「!」


 早見は、反射的に胸を両手で押さえ、下を向いた。

 その隙に、俺は全速力で走る。


 早見が目前に迫った。

 その時、早見が口元に笑みを浮かべているのが、見えたような気がした。


 抱き付いて押し倒そうとした俺の脇に、早見が潜り込む。

 そして、身体を反らすような動きをしながら、俺を後ろに放り投げた。


「……!?」


 何が起こったのか分からないうちに転がされた俺は、もう一度起き上がろうとしたが、途中で力尽きた。


 全身を、激しい疲労が襲ってくる。

 どうやら、この勝負は俺の負けらしい。


 それはいい。

 今は、もっと大きな問題がある。

 うつ伏せで倒れたために、顔が土に埋もれかけていているのだ。


 苦しい。

 上体だけでも起こしたかったが、そんな力は残っていない。

 このままでは窒息する……!


「黒崎さん!」


 北上が、心配そうに駆け寄ってくる。

 そして、俺の身体を仰向けにして、俺の鼻や口から砂を取り除いてくれた。


 窒息する事態を免れて、俺は安堵する。

 そして……自分の目の前にあるものを見てしまい、慌てて目を逸らした。

 無防備な北上の身体は、この距離で見ると、あまりにも刺激が強すぎる。


「黒崎さん。貴方が、どうしてこんなに早く力尽きたか、お分かりでしょうか?」


 早見が、全く疲れた様子もなく尋ねてきた。


 俺が激しく疲労するのは、魔力放出過多で、肉体に負担がかかるからではないのか……?

 そう思っていると、早見が北上の反対側に回り、俺の脇にしゃがんだ。

 そして、早見はその姿勢から身を乗り出し、俺の顔を覗き込むようにする。

 今度は早見が間近に迫って、俺はドキリとした。


「黒崎さんの敗因は、それですわ」

「……どれだ?」


 ようやく、その言葉だけを発することができた。


「私を見て興奮した状態で、全身に無駄な力が入ってしまい、その状態で余分に魔力を放出したから、身体に過度の負担がかかったのです。魔力放出過多を扱うためには、常に平常心が求められるのですわ」

「……」


 俺は目を逸らした。

 目の前にビキニ姿の早見がいて、定常心でいろなどと言われても、俺には無理だ。


 しかし、早見の反対側には北上がいる。目のやり場に困る。

 そんな俺を見て、早見はクスリと笑った。


「黒崎さん。貴方は、今すぐに去勢するべきですわ」

「満面の笑顔で、死刑宣告をするなよ……」

「ご安心ください。今のは、半分冗談ですから」

「半分は本気かよ……」

「当然ではないですか。貴方の気持ち悪い欲望によって、私だけでなく、多くの女性が迷惑しているのですから」

「……」

「ですが、黒崎さんが子孫を残せなくなると、御倉沢の方々は困ってしまうでしょう。それに、黒崎さんの周囲にいらっしゃる方々は、貴方が溢れ出すような欲望を持て余していることは承知しているでしょうから、今さら手遅れですわね」

「人のことを、ケダモノ扱いするなって言ってるだろ……」

「……黒崎さん。本当に気付いていらっしゃらないようですので申し上げますが……貴方が麻理恵さんに負けたのは、あの方と身体的に接触したことによってパニックとなり、大量の魔力を放出して、身体に激しい負荷がかかったからですわ」

「……」

「黒崎さんは、ご自分が捌け口を求めているという事実を、今すぐに受け入れるべきです。認めるところから始めなければ、貴方の魔法は、いつまで経っても安定しませんわよ?」

「……それで、認めてからどうするんだよ?」

「折り合いをつけてください。人は、自分の欲望を制御できなければ、身を破滅させてしまいます。玲奈さんを見ていれば、お分かりになりますでしょう?」

「……」

「天音さん、そこで正座をしていただけませんか?」

「は、はい……」


 北上は、早見に従って、砂の上に正座した。

 すると、早見は俺を抱えるようにして移動させ、俺の頭を北上の脚の上に置いた。


「……!」

「あ、あの、これは……!?」

「私からのプレゼントですわ。それでは、私はシャワーを浴びますので、お二人は後でいらしてください」


 早見は、楽しそうに言って立ち去った。

 残された俺と北上は、しばらくの間、無言だった。

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