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第7話 一ノ関水守-3

 須賀川と蓮田が立ち去った後で、俺は一ノ関に対して、傘に入るよう促した。

 すると、意外なことに、一ノ関は素直にそれに応じた。

 嫌がって1回は断るだろうと思っていた俺は、少し面食らう。


 先ほど、一ノ関は、俺のことを「よく知っている」と言った。

 それは明らかな嘘だ。俺とこいつは、今まで一度も話をしたことがなかったはずである。

 おそらく、自分や他の2人が風邪をひいたら困るから、嘘を吐いてでも話を打ち切ったのだろう。

 俺を自分の家まで連れて行くのは、内心では怒りが収まらないからなのだと思うのだが……一見すると落ち着いた様子で、あまり怒っているように見えないことが、かえって不気味に感じられた。



 無言のまま2人で歩く。

 折り畳み傘は小さいので、俺の右肩には雨がかかった。

 しかし、そんなことよりも、左側にほとんど密着するような状態で、嫌がる様子もないまま身体を押し付けてくる一ノ関のことが、気になって仕方がなかった。


 気まずい空気を打ち消すために、俺は一ノ関に話しかける。


「なあ……さっきの化け物は何なんだ?」

「まだ、詳しいことは話せないの。本家からの指示がないから」

「本家……か。平沢も、同じことを言ってたが……本家って何なんだよ?」

「ごめんなさい。まだ、詳しいことは話せないの」

「……」


 一ノ関は、俺に何も説明する気がなさそうだった。

 というよりも、本家とやらから口止めされていて、話せないのかもしれない。


「……」


 一ノ関が、寒そうに身体を震わせた。

 やはり冷えてきたらしい。


「大丈夫か?」

「……大丈夫。もうすぐ家に着くから」

「ブレザーだけでも、俺のに着替えるか? 少しは楽になるんじゃないかと思うが……」


 俺がそう言うと、一ノ関は自分の胸を押さえて、こちらを睨んできた。


「脱がせたいの?」

「……下心はねえよ」

「……ありがとう。でも、大丈夫。あれが私の家」


 一ノ関が示した家は、俺や宝積寺が住んでいるのと同じような一軒家だった。


「まさか、お前も一人暮らしなんてことは……悪い、変なことを考えてるわけじゃないんだ、本気にしないでくれ」

「私も一人暮らし」

「はあ!?」

「この町では珍しくない。心配しないで。いきなり殺して埋めたりしないから」

「……」


 一人暮らしの家に男を招き入れるなど……通常であれば、一ノ関の身の安全が心配されるべき状況だ。

 だが、この女は先ほど、超人的な身体能力を披露したばかりである。普通の人間である俺に、どうにかできるはずがない。

 ブレザーのポケットから鍵を取り出す一ノ関を見ながら、謝り方を間違えたら本当に殺されるのではないか、と不安になった。



 一ノ関は、俺を居間に通して暖房を入れてから、タオルとドライヤーを持って来た。


「ここで、髪を乾かして待っていて。設定温度は高めにしたから、黒崎君の服は自然に乾くと思う」

「あ、ああ……」

「私はお風呂に入るから」

「……」

「長時間待たせることになると思うけど、ここでソファに座って待っていてほしい。トイレは、ここを出ると目の前にある。それ以外の扉は……プライバシーに関わるから開けないで」

「……分かった」


 言うべきことを言うと、一ノ関は部屋から出て行った。

 それにしても、俺より遥かに身体能力が高いとはいえ、これから無防備な状態になることを宣言するとは……。

 覗かれたら、どうするつもりなのか?


 とりあえずソファに座り、落ち着かない気分で時間を過ごす。


 短期間のうちに、こんな経験を2回もすることになるとは思わなかった。

 前回、宝積寺との間で同じようなことがあった時にも、色々なことを考えすぎて疲れたが……今回は、前回にも増して苦しい。


 この状況で、平常心でいられる男はいないだろう。

 これは仕方のないことなんだ……。

 心の中で、そんな言い訳を繰り返した。

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