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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第77話 早見アリス-6

 俺は、早見に連れられて、長町姉妹の家を後にした。

 長町姉妹は、わざわざ家の外に出て見送ってくれたが、妹の方は、まだ気持ちの整理ができない様子だった。


 俺も動揺していた。

 宝積寺が魔女を殺した時の具体的な様子を聞いたのは、これが初めてだったからだ。


 できれば、間違いであってほしかった……。

 それが正直な感想である。


 俺は、隣を歩いている早見の様子を窺った。

 平然としているが、こいつだって、イレギュラーの時にはメンバーとして参加していたはずだ。

 目の前で魔女が殺され、あかりさんが負傷した時に、どう思ったのだろうが?


「なあ、早見……」


 俺が話しかけると、早見は突然、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


「お、おい……!」

「いけませんわ、黒崎さん。玲奈さんに関するお話でしたら、2人だけになれる場所でしましょう」

「分かったから、離れろ!」

「……女性と接触した状況で、そのようなことを言うのは、さすがに酷いのではありませんか?」

「これこそ、誰かに見られたらまずいだろ……!」

「あら、分かり易く慌てていますね。本心では、もう少し、このままでいたいのでしょう?」

「……」


 すぐに否定することができなかった。

 何といっても、俺に対して恋人のように接している女は、容姿だけなら完全な人物なのである。


 そして、滅多に味わえない、この感触……!


「……さすがに、そこまで興奮して喜ばれると気持ち悪いですわね」


 そう言って、早見は俺から離れた。

 こんな反応をするなら、自分から身体を押し付けないでほしいものである。



 俺達は、神無月の運動場に辿り着いた。

 かなり広い。こんな施設がこの町にあるとは思わなかった。

 これと同様の物が、御倉沢や花乃舞にも用意されているのだろうか?


「まずは、男子更衣室にご案内致します。そこで、用意してある服に着替えてください」

「準備がいいな……」

「ちなみに、私は隣にある女子更衣室で着替えますが……覗いたら、二度と女性に欲情できない身体にしますので、そのつもりでいてください」

「……」


 こいつなら、本当にやるだろう。

 それにしても、こいつも他の女も、気軽に男の局部を攻撃しようとしないでほしいのだ……。



 俺が男子更衣室に入ると、部屋の中は綺麗にされていた。

 どうやら、最近掃除をしたばかりらしい。


 この町では、男は訓練をしないと聞いたが……ひょっとして、俺のために掃除してくれたのだろうか?

 だとしたら、意外と気が利いている。


 部屋の中に箱が置いてあり、その箱に目立つ紙が貼ってあった。

 その紙には、女の文字で「この中に入っている服に着替えてください」と書いてある。

 俺は、その指示に従うために箱を開けた。


 中には、海水パンツが入っていた。


 少しの間、思考を停止して。

 俺は、これがどういうことか考える。


 この運動場にはプールが併設されていて、そこで訓練をするのだろうか?

 だが、早見は「体操着」に着替えろ、という指示を出したはずだ。

 海水パンツを履くように指示したいなら「水着に着替えろ」と言うだろう。


 誰かが、俺への嫌がらせのために、体操着を海水パンツにすり替えたのか?

 しかし、そんな地味だが陰湿な嫌がらせを、俺に対してする人物の心当たりなど、ほとんどない。


 一番最初に思い付く容疑者は……早見だ。

 俺は、着替えずに廊下に出た。


「おい。早見、聞こえるか?」


 女子更衣室にはあまり近付かないようにして、俺は言った。

 覗こうとした、などと疑われて局部を攻撃されたら、誇張ではなく人生が終わるからだ。


「着替えは済みましたか?」


 早見は、女子更衣室の中から楽しそうな声で言った。

 まるで、俺の用件を察しているようだ。

 こいつ……やっぱり、嫌がらせをするつもりだったのか!


「悪質ないたずらはやめろ」

「あら、私はいたずらなどしておりませんわ」

「明らかに嫌がらせじゃねえか! 運動場で海パンになる奴がいるか!」

「ご安心ください。この運動場は、私達の貸し切りですので」

「お前はいるだろ! 相手が男だったら、セクハラをしてもいいと思うんじゃねえよ!」

「まあ! あくまでも、訓練のためですのに。黒崎さんは、絵画の練習のために男女が互いの裸を描くことを、卑猥だと思いますか?」

「そういうことをするのは、純粋に技術を向上させるためだろ! 海パンで訓練する意味が分からねえよ!」

「意味がないわけではありませんわ。魔力放出過多である方の訓練を手伝った経験など、私にだってありませんもの。本当は、全裸になっていただいた方が、身体の隅々の問題点が分かり易いのですが……」

「冗談じゃねえ!」

「そのように仰ると思いました。ですから、水着をご用意したのです」

「ふざけるな! そこまで裸に近い格好にならなくても、お前なら、俺の問題点くらいは指摘できるだろ!」

「あら。指導を受ける立場だというのに、随分と態度が大きいですわね?」

「水着で訓練するなら、せめてプールでさせろ!」

「いけませんわ。プールサイドで走ったら危険ですのよ?」

「だったら、いっそのこと、お前も水着になれよ! それが嫌なら、お前の前で裸に近い格好になるなんて、絶対に嫌だからな!」

「分かりました」

「……は?」


 更衣室から、着替えた早見が出てきた。

 その姿を見て、俺は何も考えられなくなった。


 早見は、赤いビキニを着ていた。

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