表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/289

第74話 長町あかり-2

 早見から離れた長町さんは、俺の方を向いた。


「貴方が黒崎君ね?」


 そう言いながら、長町さんは俺に抱き付いてくる。

 早見に対して行った時と同じ、自然な動きだった。


「あ、あの……!?」

「はじめまして。私が長町あかりよ。歓迎するわ、黒崎君」

「あかりさん、いけませんわ! その方は、相手が人妻であっても毒牙にかける猛獣ですわよ?」


 早見が、危機感を煽るような声で言った。

 こいつは……初対面の女性の前で、何ということを言うのか……!


 長町さんは、首を傾げて言った。


「アリスちゃんは大袈裟ね。この子は、私より4つも年下でしょ?」

「あかりさん。黒崎さんは外の方ですから、かなり年上の女性でも、恋愛関係や、それ以上の関係になる対象に入れてしまいますわ。その証拠に、あかりさんと同じ年齢である大河原先生の身体に欲情して、その肢体を思い浮かべながら、夜な夜な欲求を……」

「おい! それ以上は言うな! やめろ!」


 こいつは……最低限、人前で話してはならないことの区別もできないのか?

 あまりにも無神経で、非常識な女である。


 それにしても……早見に、どうしてそんなことが分かるのだろうか?

 こいつは、俺と先生の、授業中の様子を見ていないはずである。


 まさか……ホームルームの時の様子だけで、そこまで察しがつくのか……!?


「とにかく、黒崎さんは全ての女性にとって危険人物なのです。迂闊に触れると、身も心も汚されてしまいますわよ?」

「アリスちゃん、酷いことを言ったら駄目よ? ごめんなさい、黒崎君。この子は、男の子のせいで嫌な思いをたくさんしてきたから……許してあげてね?」

「……まあ、多少は慣れてるんで。それよりも、そろそろ離れてください」

「あら、ごめんなさい」


 長町さんは、俺から離れた。

 そして、俺に対して笑顔を浮かべる。


「由佳さんから事情は聞いているわ。私が力になれることは、協力させてもらうわね」

「ありがとうございます」


 俺は、長町さんに頭を下げた。


 どうやら、この人自身は、俺に対して敵意を抱いていないようだ。

 だからといって、初対面の異性に抱き付くのはどうかと思うが、嫌われていないことについては安心した。



 長町さんは、俺達をリビングに案内してくれる。

 そこには、長町さんと同じ赤い髪の、小柄な女がいた。


「……いらっしゃいませ」


 その女は、複雑な表情を浮かべながら、俺達に対して頭を下げた。


「まあ、あきらちゃん! 少し見ないうちに、大人の雰囲気になりましたわね」

「……アリスさん、お久し振りです」


 長町あきらは、早見を前にして、恥ずかしそうに俯いた。

 早見は、長町あきらを抱き締めて、その頭を嬉しそうに撫でた。


 長町あきらの髪は、こんな色だったのか……。

 初めて会ったのは夜中で、暗かったので、全く気付かなかった。


「あきらちゃん、お客様に、お茶を淹れてちょうだい」

「はい、お姉様」


 長町あきらは部屋から出て行き、俺達は椅子を勧められて、席に着いた。

 しばらく経ってから、長町あきらが戻ってきて、俺達の前にお茶が並べられる。


 飲んでみると、甘みのある紅茶だった。

 良い香りがしているので、高級なお茶なのかもしれない。


「由佳さんから話を聞いて、久し振りに春華ちゃんのことを思い出したわ。少しだけ、泣いちゃった」


 長町さんは、遠くを見るような目をして言った。


「あの、長町さんは……」

「名前で呼んでくれていいのよ? 私には妹もいるから」

「……じゃあ、あかりさんは……春華さんの親友だったんですよね?」

「そうね……。自分で言うのは恥ずかしいけど、親友と呼べる関係だったのは私くらいだと思うわ。春華ちゃんは、友達が少なかったから……」

「えっ!?」


 誰もが神様のように崇めていた春華さんに……友達が少なかった!?

 信じられない話である。


「だって、春華ちゃんを前にすると、ほとんどの人が、まともに会話できなくなっちゃったんだもの」

「……なるほど」


 言われてみれば、神様と友達になる、というのはおかしなことだ。

 妹の宝積寺までもがあの調子では、春華さんは、気の休まる時がなかっただろう。

 常人には感じられないほどの、強烈なプレッシャーを感じていたに違いない。


「黒崎君。今、春華ちゃんに同情したでしょ?」

「……」


 俺が考えていることを当てたあかりさんは、こちらを安心させるように微笑んだ。


「分かるわ。普通の人は、どんなに大変だろうって考えると思うもの。でもね……春華ちゃんの一番凄いところは、そういう大変さを、全く感じていなかったところなの」

「……演技じゃないんですか?」

「私も、最初はそう思ったわ。神様みたいに崇められて、責任感から、平然としているような演技をしてるんだって……。でもね、ずっと間近で観察していて、春華ちゃんはそうじゃないって気付いたの。春華ちゃんの神秘性って、そういうところから生まれていた気がするのよ」

「……」


 それが本当だとしたら、春華さんは、本当に神の使いか何かだったのではないだろうか……?

 とても信じられない気分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ