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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第70話 北上天音-3

「……」


 北上の発言を聞いて、俺は言葉を失った。


 こいつは、いきなり何を言い出すんだ……?

 北上は良識的な女だと思っていたのだが、そのイメージとかけ離れたことを言われて、俺は混乱した。


「……分かっています。こんなことを言われても、困りますよね……」

「お前は……そういう男女関係に対して、肯定的だったのか?」


 そう尋ねると、北上は何度も首を振った。


「いいえ! 男性であれ女性であれ、心に決めた1人のことだけを、生涯考え続けるべきだと思います」

「……それなのに、俺には、手当たり次第の関係を勧めるのか?」

「それは……黒崎さんは、事情が特別ですから……」

「まあ、宝積寺に対して気を遣うのは分かるが……」


 俺がそう言うと、北上は首を振った。


「玲奈さんのことではありません。黒崎さんは外の人で、魔力を多く保有しています。そういう人がいれば、パートナーにしたいと考える女性が、この町には多いということです」

「どうしてだよ?」

「私達は、血縁の近い方とは結婚しませんので。黒崎さんには、そういう心配がありません。そして、黒崎さんと同等の魔力を保有する方であれば、本来ならば、お相手は2人程度です」

「魔力の多い男は、相手の数を絞るのか? どうしてだ?」

「それは、パートナーになる女性の自尊心に配慮するためです。女性は、男性に対して、自分だけを愛することを求めますから……」

「普通はそうだろうが、この町では女の数が男の3倍以上だから、1人の男は、3人以上の女を相手にするものなんだろ? 生徒会長や須賀川だって、それを当然のことだと認識していたぞ?」

「それは、魔力の多くない女性を想定した話だからです。例えば、アリス様や麻理恵さんと結婚する男性には、他の女性を愛する権利が与えられません」

「お前達も、魔力量で階級社会を作ってるのかよ……」


 どうしてこいつらは、異世界人の悪いところを見習ったのか?

 俺はため息を吐いた。


「黒崎さんは、御倉沢では脱走者の子孫として扱われており、玲奈さんとお付き合いをしているので、迂闊に親しくなれば大変なことになると皆さんが思っています。そうでなければ、特に指示を受けなくても、多くの女性が黒崎さんにアプローチしたはずです」

「迷惑な話だな……」

「お気持ちは分かりますが、子供が生まれても、魔力に恵まれなければ、将来、良い暮らしをすることはできません。少しでも多くの魔力を有する男性とお付き合いをしたい、と考える方の気持ちも分かります」

「じゃあ、魔力がない子供には、価値がないのかよ? おかしいだろ」

「……」


 俺の言葉に、北上は俯いてしまった。

 こいつ自身は、俺の言葉の意味を理解することができるのだろう。


「とにかく、俺は妻が3人でも持て余してる状態なんだ。さらに結婚相手の数を増やすなんて、冗談じゃない」

「ですが……玲奈さんに黒崎さんの独占を諦めさせるためには、あくまでも御倉沢を優先するという原則に立ち返るしかありません」

「……」


 俺は不思議に思った。

 どうしてこいつは、俺と宝積寺の関係を変えようとするのだろうか?


「お前は……ひょっとして、宝積寺のことが嫌いなのか?」

「違います!」

「だったら、どうしてお前が御倉沢のことに口を出すんだよ? それだって問題があるはずだろ?」

「……」


 北上は黙り込んでしまった。

 しばらく無言の状態が続いたが、やがて口を開いた。


「……私は、御三家に、元の状態に戻っていただきたいのです。春華さんがいらっしゃった頃には、春華さんを中心とした体制を構築しました。ですが、春華さんがいなくなった今、御三家の権威を取り戻さなければ、この町は無秩序な状態になってしまいます」

「自由になっていいんじゃないか?」

「……そんなに単純な話ではありません。御三家の権威が失われ、あの方々が軽く扱われるようになれば、これまでの私達の価値観も生き方も、その全てが崩壊するということなんですよ?」

「そうだとしても、現状を続けることが、いいことだとは思えないんだが」

「……」


 北上は、再び黙り込んででしまった。

 とにかく、これは難しい話題なのだということが伝わってくる。


「それに、俺には御倉沢に尽くす義理がない。宝積寺よりも、あの連中を優先する必要を感じないんだが?」

「……実は、神無月でも、黒崎さんと玲奈さんに対する不満が噴出しておりまして……」

「何だよ? また、早見が何か言ってるのか?」

「いいえ。不満は、神無月の中枢からは離れた方々から出ています」

「それは……神無月先輩が当主であることに対して、不満を抱いている連中か?」

「……」


 俺が平沢の話を思い出して言うと、北上は黙り込んだ。


「ひょっとして、お前……神無月先輩が当主であることに、不満があるのか?」

「そういうことではありません……。私は、愛様に、当主に相応しい言動をしていただきたいだけなんです」

「あの人には、そんなに問題があるのか?」

「愛様は……」


 北上は、話しづらそうな様子で、言葉を溜めてから吐き出した。


「あの方は、誰に対しても、何も否定をしないんです」

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