第6話 一ノ関水守-2
「……なあ。この話は、また今度にできないか?」
須賀川に引き下がる様子がないので、俺は提案した。
「そんなことを言って、逃げるつもりでしょ!?」
「いや……お前らがビショ濡れだから、一応心配してるんだが……」
「……!」
須賀川は、飛び退くようにしながら、自分の胸を両手で隠した。
「サイッテー! 今すぐ死になさいよ、あんた!」
「どうして、俺のあらゆる言動を、悪意的に解釈するんだよ……」
須賀川の反応のせいで、むしろ注意を惹かれてしまった。
この女の胸は、伊原が言った通り、それなりのサイズがありそうだが……そういう意図で須賀川を見ていたわけではない。
勝手に、性的なニュアンスで発言したと思われるのは不本意だった。
傘も差ささずにワニの化け物と戦っていた須賀川達は、頭から水を被ったような姿になっており、身体も冷えているはずだ。
ついでに言えば泥だらけである。心配するのは当然だろう。
しかし、この女達は、頭ごなしに俺を変態扱いしている。
やはり、俺が伊原と、一ノ関について、色々な話をしていたと思われていることが影響しているようだ。
そういえば……胸なら、一ノ関の方が大きいはずだ。
つい、そんなことを考えてしまい、思わずそちらに目をやって……激しく後悔する。
ずぶ濡れの一ノ関のブレザーは、身体に張り付いて、膨らみを強調していた。
非常にエロい恰好である。
そして、俺に見られた瞬間、一ノ関が胸を庇うような仕草をした。
見たことはバレバレのようだ。
「……この変態!」
須賀川が俺のことを罵った。
今回は、キレられても当然だろう。
「黒崎君って……やっぱり、凄くエッチなんだね。宝積寺さんが可哀相……」
これまで、俺に対する非難を抑制していた蓮田まで、両腕で自分の胸を隠しながら、嫌悪感を露わにして言ってくる。
もはや、言い逃れは不可能だろう。
こうなったら、土下座でも何でもして、潔く謝ってしまった方が良いのかもしれない。
「2人とも、それくらいにして」
ようやく、一ノ関本人が口を開いた。
「水守! こんな奴、金玉を潰してやったらいいのよ!」
須賀川が、恐ろしいことを唆す。
俺は、思わず股間を隠した。
「黒崎君とは、私が直接話す。2人で、きちんと納得できる決着をするから」
「……そう? でも、水守って、肝心なところで甘いし……」
「心配しないで。簡単に終わらせるつもりはないから」
一ノ関は、俺のことを真っ直ぐに見つめてきた。
その目からは、ただならない決意のようなものを感じる。
どうやら一ノ関は、俺のことを簡単に許すつもりはないようだ。
「分かったわよ。絶対に、きちんと償ってもらうまで、許したら駄目だからね?」
念を押した須賀川に、一ノ関は頷いた。
「……水守、本当に大丈夫?」
蓮田は、急に不安そうな様子になった。
どうやら、宝積寺に関して、平沢から何かを言われたらしいが……冷静になって、そのことを思い出したようだ。
「……大丈夫。同じクラスだし、黒崎君のことはよく知ってるもの」
そう言って、一ノ関は俺に歩み寄ってくる。
「一緒に、私の家まで来て。言いたいことは、たくさんあるから」
俺は、一ノ関の言葉に頷くしかなかった。