第67話 水沢由佳-3
平沢は、ミュレイを家の外へ連れ出した。
俺と水沢さん親子は、2人に付き添う。
外では、既に車が待っていた。
平沢達が姿を見せると、家を取り巻いていた御倉沢の女子達が、一斉に嬉しそうな声を出す。
それを聞いて、目隠しをされているミュレイが身体を震わせた。
「貴方達、静かにしなさい!」
平沢がそう言うと、女子達は静まり返った。
何というか……やはり、こいつらは普通の女子学生と大差ないようにしか思えない。
平沢も、少し呆れた様子だった。
「ミュレイ、乗り物に乗るわ。もうしばらく、我慢してね?」
「あ、あの……私は、どこに連れて行かれるんですか……?」
「安心して。私が仕えている御方の家に行くの。検査さえ終われば、ちゃんと歓待するわ」
「……黒崎さんは、付いて来てくださいますか? せめて、その家に着くまででも……」
「大丈夫よ。私を信じて」
そう言って、平沢は、躊躇するミュレイを車に乗せた。
平沢は、俺と水沢さんに頭を下げると、車に乗り込む。
「平沢のやつ……少し強引じゃないか?」
俺は、思わず呟いた。
この状況では、ミュレイが怯えるのは当然だと思う。
「麻理恵は、御倉沢の面子も大切にしている。最後までお前に頼るわけにはいかないんだ。あの子も、色々と苦労していることを理解してやってくれ」
「あの車……御倉沢家に行くんですよね?」
「私達を疑っているのか? 我々は異世界人を大切にしている。危害を加えるはずがないだろう? 大切な母体になるんだからな」
「……」
車は、御倉沢家に向かって出発する。
それから、周囲の女子達は、水沢さん親子に挨拶をした。
「協力していただき、ありがとうございました」
「いや、私は雑談をしていただけだ。礼なら黒崎にするべきだ」
水沢さんがそう言うと、御倉沢の女子達は、あからさまに嫌そうな顔をした。
しかし、水沢さんに逆らうことはできないらしく、俺に対して形だけの礼を言った。
「この男は、まだ自分で戦うことができない。誰かが家まで送り届けてやってくれ」
「では、私にお任せください」
1人の女性が申し出た。
制服姿で、青いネクタイを着けている。3年生だ。
平沢や宝積寺に劣らないほどの、綺麗な黒髪が印象的な先輩である。
「そうか、助かる。私は黒崎と話したいことがあるから、少し待っていてくれ」
「かしこまりました」
御倉沢の女子達は、1人を残して解散した。
水沢さんは、残った先輩に自分の娘を預けた。
「さて。世話になったな、黒崎」
「いえ……俺はただ、ミュレイと話をしただけですから」
「リスクを承知で、協力しただけでも大したものだ。お前は、まだ、魔法がまともに使えないんだろう?」
「まあ、そうですね……」
「魔力放出過多だそうじゃないか。麻理恵に勝ったと聞いた時には驚かされたが……」
「……勝ったわけじゃないんですけど」
「麻理恵は、自分が負けたと思っているはずだ。だから、今回のことでお前に助けを求めたのだろう」
「勢いよく走りすぎて、体当たりしてしまっただけですよ?」
「魔法は、激しく動揺した精神状態では使えない。お前に押し倒されて、麻理恵は酷い恐怖を覚えたはずだ。あの子は、男に対して免疫がないからな。お前に、あと少し余力があれば、麻理恵を降参させることも殺すこともできた」
「……物騒ですね」
あの程度の接触について、そこまで深刻に考えていたとは……。
俺としては、自滅した、としか認識していなかったのだが……。
「お前は、自分の力を誇ればいい。あとは、魔法を適切に使えるようになることだ」
「早くそうなりたいんですけど、そのための訓練が、全く進んでないんですよね……」
「……お前は玲奈と付き合っているんだろう? 彼女からは話を聞いたのか?」
「宝積寺に……?」
「知らなかったのか? 春華は魔力放出過多だった。ならば、まずは彼女の妹から、話を聞いてみるべきだろう?」
「春華さんが? そんなことは、誰も言ってなかったんですが……」
「……なるほど。それをお前に話せば、玲奈との仲が深まるから、御倉沢にとっては都合が悪いのだろう。神無月としても、御倉沢の人間であるお前に、強い力を与えることには慎重であるというわけだ」
「やっぱり、足の引っ張り合いですか……」
「呆れるか? だが、我々が争うのは当然だ。お前は誤解しているようだが、御三家は仲間ではない。どちらかといえば、互いに敵同士だ」
「貴方達は、この世界を、異世界人から守ってるんじゃないんですか?」
「そうだが、だからといって、誰とでも共に戦えるわけではない」
「……そう思うなら、水沢さんはイレギュラーの時に、どうして春華さんに協力したんですか?」
「御倉沢の名誉を守るためだ。突発的な事態に対して、花乃舞が3人も協力している状況で、御倉沢が誰も協力しない、などということは考えられない。誰かが参加していなければ、御倉沢から皆の心が離れ、見捨てられていただろう」
「御三家というのは、この町の人間にとって、神様のような存在なんでしょう?」
「だが、春華の人気は御三家を上回っていた」
「……」
「あの時、私は雪乃様から裏切り者扱いされたが、自分が間違っているとは思わなかった。雪乃様が自身の正当性を主張したとしても、判断するのは下の人間だからな。吹雪様も同じ考えだったはずだ。あの方が当主になられた後で、私の名誉は回復された。その結果として、今、ここにいるというわけだ」
御倉沢雪乃と生徒会長は、仲が悪かったという話を思い出す。
2人は、そのような点でも意見が対立していたようだ。




