第65話 ミュレイ-1
俺は、金髪の女と向かい合った状態で座った。
水沢さん親子と平沢は、俺達から離れた位置に座っている。
部屋から出て行くわけではないと分かって、かなり安心した。
「あんた……名前は?」
「ミュレイと申します」
「じゃあ、ミュレイさん……あんた、歳は?」
「……15です」
「はあ!?」
俺は、改めてミュレイを見た。
同じ金髪の早見や矢板と比べても、年上にしか見えない。
異世界人は大人っぽく見えるのかもしれないが、さすがに年下とは思わなかった。
「……あ、あの……?」
当のミュレイは、泣きそうな声を出した。
俺が何に驚いたのか、理解できないらしい。
「黒崎君……異世界とこの世界では、一年の長さが違うのよ。向こうで15歳なら、この世界の基準では18歳程度のはずだわ」
平沢がそう言った。
ミュレイが年下、というのが勘違いだと分かって、俺はホッとする。
「……申し訳ありません」
「どうして謝るんだ?」
「こんなに年を取った女と話なんて……したくないですよね……」
「いや……あんたは、充分に若いと思うぞ?」
「……気を遣っていただく必要はありません。女は13歳まで、というのは常識ですから……」
「おいおい……それだと、この世界でも、せいぜい16歳ぐらいじゃねえか……」
この町の連中も同じだが……異世界人は、年齢に関する感覚がおかしい。
いや、日本でも、昔はこんな感覚だったのか……?
「黒崎君。異世界人は、この世界の人間に比べて、かなり短命だから……年齢に関する認識が違うのは、仕方がないわよ」
平沢がそう言った。
「だが、最高で16歳程度だとしたら、もっと若いのに結婚して、妊娠したりする場合があるってことだろ? そんなに低年齢で妊娠したら、身体に悪影響があるんじゃないか?」
「そうね。純粋な異世界人の身体だから、リスクは低いけど……私達は、15歳以下の女性に子供を産ませたりはしないわ。母体に危険が伴うもの」
「お前らでも、そういう配慮はできるんだな」
「貴方……私達のことを、何だと思ってるのよ?」
平沢の抗議は無視して、俺はミュレイとの会話を再開した。
「それはともかく……ミュレイ、あんたは向こうの世界で、どんな暮らしをしてたんだ?」
「私は、私達が周辺都市と呼んでいる街の生まれです。それは、名前のとおり、首都の周辺にある街でして……首都に住めるほどの魔力を保有していない人が住んでいます」
「見事なまでの階級社会だな……」
「……何か、問題でも?」
「いや……」
こいつに、そういう社会の問題点を話しても仕方ない。
俺に、相手を説得するだけの知識や能力がない、という問題もあるが……。
「通常であれば、人は、生まれた街を離れることはありません。ですが……私は、首都へ働きに出ることを希望しました。私の魔力量では、生まれた街で、子供を作ることは難しかったので……。首都に行けば、少しは可能性があると思ったんです」
「でも、駄目だったんだよな?」
「……はい。誰からも相手にされませんでした……」
ミュレイは、沈んだ様子で言った。
この女は、健康的な容姿になれば、早見と比べても見劣りしないだろう。
これだけの美人だというのに……もったいない話である。
「……あの……何か?」
「いや、何でもない。あんたが、どんな人に仕えていたか、教えてもらえるか?」
「御主人様は……若く、綺麗な人でした。私が仕え始めた頃には、まだ子供でしたが、その頃から驚くほどの聡明さと強い意志を持っていたので、私は圧倒されてしまいました。そのような方でしたが、魔力の乏しい私のことも、大切にしてくださって……。ただ、自分の理想の社会を、どんなことをしても実現したいと考えているようでした」
「完全にテロリストだな……」
「あの、勘違いをしないでいただきたいのですが……御主人様は、破壊活動には消極的でした。ただ、私のように魔力が乏しい者にも、子孫を残す権利を与えるべきだと考えていただけなんです」
「随分と、立派な考えを持ってたんだな? あんたらは、魔力が多い人間にしか魅力を感じないんだろ?」
「……そのとおりです。私も、正直に申し上げれば……魔力の乏しい人は、ちょっと……」
ミュレイは申し訳なさそうに言った。
こいつの本心が見抜かれていたから、主人に置いて行かれたのかもしれない。
「それなのに、俺とは話したいと思うのか? あんたと比べたら、俺の魔力なんて微々たるものだろ?」
「いいえ。女性ならともかく、貴方ほどの魔力を保有している男性は、滅多にいません」
「……そうなのか?」
「厳密に言えば……私程度の女では、会うことができないんです。そういう男性は、家の外に出ませんから……」
そういえば、須賀川が、異世界では男が種馬扱いされていると言っていた。
一生監禁されて、女との性行為を強要されるなんて……酷い人生である。
「差別解消の活動は、同時に、男性解放のための活動でもあるんです。子孫を残す権利を、全ての人に与えるためには、魔力量に基づいた差別をなくしてから、男性を自由にする必要がある。それが御主人様の持論でした」
「……」
志は理解できる。
だが、仮に魔力量による差別がなくなったとしても、女が男の10倍以上いる社会で、平等な権利なんて……実現するんだろうか?
口には出さなかったが、かなり難しいのではないかと思った。




