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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第56話 平沢麻理恵-3

 翌日、俺と宝積寺は、いつもと同じように2人で登校した。


 学校に近付くと、周囲の人間から、あからさまに避けられる。

 以前は、まるで空気のような扱いだったが……今回は、露骨に、俺達から離れようとする連中ばかりだった。

 これは、神無月先輩と俺が会談し、不調に終わったからだろう。


 御倉沢としては、俺と神無月の関係が定まるまで、迂闊なことはできない。

 神無月には、俺や宝積寺が、どのように振る舞うのかが分からない。

 花乃舞だって、今後どうなるのかを把握するために、しばらくは様子を見るしかないはずだ。


 宝積寺は、俺まで避けられることについて、申し訳ないと思っている様子だった。

 こいつだって、腫れ物のように扱われて、大変なのだと思うのだが……。



 教室に入ると、その場が一瞬、静まり返った。

 そして、何事も無かったかのように、皆が会話を再開する。

 早見や矢板ですら、俺のことを完全に無視した。

 ただ、一ノ関だけは、逃げるように教室から出て行ってしまう。


 一瞬だけ、一ノ関を追いかけようかと思った。

 だが、そんなことをすれば、俺は御倉沢の連中からストーカー扱いされるかもしれない。

 とにかく、平沢に相談して、俺の妻になっている3人とは、きちんと話さなければならないだろう。



 その後は何事もなく放課後を迎えたが、こちらから話しかける前に、平沢の方から俺に近付いてきた。

 やはり、俺と宝積寺や神無月全体との関係について、話があるようだ。

 そう思って身構えた俺に対して、平沢は予想外のことを言ってきた。


「黒崎君。異世界人のことで、貴方に協力してほしいことがあるの」

「協力……?」


 その言葉に、俺は困惑した。


 俺に、まだ実戦で戦えるような能力がないことは、平沢だってよく知っているはずである。

 まともに戦えないような人間に、一体、何を手伝わせようというのか?


「安心して。敵と戦ってほしいわけじゃないから。もしも誰かと戦うことになっても、貴方のことは優先的に逃がすわ」

「……俺に、何をさせるつもりだ?」

「異世界から来た女性を説得することを、手伝ってほしいのよ」

「それは……俺がやらないと駄目なのか?」

「もちろん、強制するつもりはないわ。まだ戦えない貴方にとっては、リスクのあることだもの。でもね……異世界の女性は、この世界の女性とは比較にならないほど男に弱いのよ。だから、お願い」

「俺以外の男じゃ駄目なのかよ?」

「それは……」


 俺の、当然とも思える指摘に対して、平沢は困った様子を見せた。

 まだ魔法が使えない俺ではなく、既に魔法を使うことができる男を連れて行くべきだということは、誰だって思い付くと思うのだが……。


「麻理恵さんを困らせるなんて、サイテー」

「あんた、自分が危ない目に遭うのが嫌なんでしょ?」

「……裏切り者」

「少しは、皆を助けようと思わないの? 役立たずのくせに」


 突然、平沢の後ろから、数名の女子が、口々に俺のことを非難してきた。


 全員が、俺に女を紹介する時に、伊原が名前を挙げていた連中だ。

 こいつらは御倉沢の人間だろう。


「ちょっと、貴方達! 黒崎君に対して、迂闊なことを言っちゃ駄目よ!」


 平沢は、慌てた様子で、クラスの女子達を宥めた。


 御倉沢の女達は、こちらを非難するような目で見ながら立ち去る。

 その際に、1人の女子が、こちらに対して「あっかんべー」をした。


「……ごめんなさい。あの子達は、貴方の事情をよく知らないの」

「この町の住人は、異世界人の遺伝子のおかげで、知能が高いと聞いたんだが……言動は、外の連中と大差ないんだな」

「ちょっと、黒崎君!」

「……まあ、その話はいい。まだ戦えない俺が、あえて異世界人に会いに行くべきである理由は何だ?」

「それは……他の男の子は、戦うための訓練を、一切受けていないからよ」

「……はあ?」


 男が……訓練していない?

 女は、命がけで戦ってるのに……?


「貴方が驚くのも無理はないわ。外では、男が率先して戦うべきだとされているんでしょ?」

「最近では、そうでもなくなってきてるような気がするが……基本的には、そうだ。男の方が腕力が強いし、体力もあることが多いから、率先して戦うべきだっていう考えは根強いな。……ひょっとして、この町では違うのか?」

「1対1だったら、男の方が腕力も体力も上よ。そのことは、この町でも、異世界でも変わらないわ」

「……それなのに、男は戦わないのか?」

「そうよ。男は希少な存在だもの。全ての女が、力を合わせて守るべき対象だわ」

「俺は、全く大切にされてないと思うんだが……」


 そう言うと、平沢は目を逸らした。

 どうやら、俺のことを大切にしていない自覚はあるらしい。


「とにかく、一緒に来て。貴方のことは、私が全力で守ると約束するから」

「……分かった」


 平沢には、宝積寺のことについて相談に乗ってもらわなければならない。

 それに、この町に来てから、こいつには散々世話になっている。

 この際、少しでも手助けして、恩を返しておくべきだろう。


 俺は平沢に連れられて教室を出た。

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