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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第53話 神無月愛-2

「へえ。和己君って可愛いのね! 玲奈ちゃんって、こういう子が好きなんだ!」


 そう言って、神無月愛は、俺に歩み寄ってきた。

 そして、俺の頬を撫でたり摘まんだりしてくる。


 生徒会長とは、随分と雰囲気が違うな……。

 物珍しそうに接してくる、その女を見ながら、俺は少し戸惑った。


「愛様、いけませんわ。そんなに触ったら、病気をうつされてしまいますわよ?」


 早見が不愉快そうに言った。


 こいつ……絶対に、俺と仲直りするつもりなんてないだろ……。

 そう思ったが、神無月愛を止めようとしているのは早見だけではなかった。

 特に、青いネクタイを着けている3年生は、いつでも飛びかかることができる体勢になっている。

 俺に対して良い感情を抱いていないことについては、この場にいる連中の大半が同じであるようだった。


「あら。酷いことを言ったら駄目よ、アリスちゃん。この子は、玲奈ちゃんの未来の旦那様なんだから」

「黒崎さんは、玲奈さんと別れようとなさっているのですが……」

「そう、その話だったわね」


 神無月愛は、そう言って俺のことを上目遣いに見てくる。


「本題に入る前に、貴方には謝っておきたいの。アリスちゃんと天音ちゃんが迷惑をかけて、ごめんなさい。許してあげてね?」


 そう言って、神無月愛は、俺の頬を指先で撫でた。

 これだけ親しげに接されると、嫌だとは、とても言えない気分になってくる。


「……もう、怒ってませんよ」

「それだけじゃないの。あきらちゃんのことも、謝りたくて……」

「……あきらちゃん?」

「玲奈ちゃんの家に押し入った、あの子よ」

「ああ……」


 もう、遠い昔の出来事のようだ。

 あの女が、宝積寺の家に忍び込むところを目撃したことが、俺と宝積寺が知り合うきっかけになったのである。

 あんな行為に及んだ事情は知らないが、あいつは神無月の人間だったのか……。


「……まあ、あいつ自身は、俺に何もしてないんで……。そういえば、あいつは無事だったんですか?」


 俺は、宝積寺に片腕を折られて、苦悶している女の様子を思い出しながら言った。


「怪我はしていたけど、ちゃんと治ったわ」

「そうですか……」


 思いもよらない人物の話が出たところで、もう1回、神無月愛が俺の頬に触れてきた。

 そして、指先で、俺の頬を撫でてくる。


 これは……誰かと話す時の、この人の癖なのか?

 やめてくれと言えずにいると、神無月愛は、俺の顔をじっと見つめてきた。


「和己君。私のことは、神無月先輩と呼んでくれればいいからね?」

「……助かります」

「それと……悪いことは言わないから、御倉沢の子達と離婚しなさい」

「……は?」

「何を驚いてるのよ? 和己君は、何の話をするために、ここまで来たの?」

「いや、だって……俺には、あいつらと離婚する権利なんて無いんですよ?」

「知ってるわ。でも、貴方は、好きでもない相手と結婚させられて、迷惑してるんでしょ?」

「確かに、最初は命令されましたけど……あの3人には、大分良くしてもらったんですよ……」

「だからって、このまま強制された結婚生活を送るなんて良くないわよ。だから、私が吹雪さんと話して、取り消してもらうわ」

「……どうして、俺なんかのために、そんなことをしてくれるんですか? あまり内部のことに干渉すると、御倉沢との関係が悪くなるかもしれませんよ?」

「だって、玲奈ちゃんのためだもの。それに、春華さんからも、玲奈ちゃんを守ってあげてって頼まれちゃったから」

「そうだとしても……どうして、今になって、そんなことを?」

「それは、貴方が結婚した直後に動かなかったのはどうしてかっていうこと?」

「はい」

「そんなの決まってるじゃない。和己君と玲奈ちゃんがお付き合いをすることに反対だったからよ」

「……それなのに、今は賛成してるんですか?」

「和己君が、結婚した3人と、まだ何もしてないって聞いたから。そういう子なら、応援してあげてもいいかなって思ったの」

「……ちょっと待ってください。誰から聞いたんですか、そんな話?」


 俺が尋ねると、神無月先輩は、悪戯っぽく笑った。


「御三家の情報網を、甘く見てもらったら困るわ」

「でも……俺が一ノ関の家に泊まったのは、昨日の夜ですよ? それに、寝室の中のことなんて、他人には分かるはずがないでしょう?」


 一ノ関達が、俺との間に起こった出来事を、平沢や生徒会長に報告することはあり得る。

 だが、それがすぐに神無月に伝わることは不自然だ。

 御倉沢には、神無月のスパイでもいるのだろうか?


「言っておくけど、盗聴器を探したりしても無駄よ? 私達には魔法があるもの」

「……!?」


 つまり……この人には、俺の私生活が、全て筒抜けなのか!?

 俺は寒気を覚えた。


「玲奈ちゃんを傷付けないように、他の子とは何もしないなんて、普通の男の子には出来ないわ。よほど、玲奈ちゃんに惚れてるのね」

「……誤解です。俺は、きちんと宝積寺と話し合って、お互いに納得してから別れたいんですよ」

「へえ……どうして? 玲奈ちゃんは、あんなに和己君のことが好きなのに」

「それは……事情が変わった、としか言えません」

「分かるわ。玲奈ちゃんの3年前の話を聞いて、怖くなったんでしょ?」

「!?」


 この人は……そんなことまで把握しているのか!?


 神無月先輩が、俺の頬を、指先で撫でてくる。

 からかうような仕草だが、俺は、ナイフを突きつけられているような気分になった。


「黒崎君。逃げようとしても駄目よ? 貴方は、玲奈ちゃんのことを肯定したんだから。今さら取り消せないわ」

「……」

「私に任せて。御倉沢とは、きちんと話をするから。貴方は、誰にも邪魔されないで、玲奈ちゃんのことだけを考えてあげなさい。分かったわね?」


 神無月先輩に説得されて、徐々に俺の気持ちは傾いた。

 このまま、この人に助けてもらえば、今のややこしい状況が解消されるのではないだろうか……?

 そんな期待が膨らんできた、その時だった。


「おやめください、愛様」


 突然、教室の外から、宝積寺の声が聞こえた。

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