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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第46話 一ノ関水守-7

 一ノ関の家に辿り着き。

 俺は、リビングに通されて、荷物を置いた。


「じゃあ、これから、貴方に近接戦闘での魔法の使い方を教えるけど……その前に、黒崎君には、くれぐれも忘れないでほしいことがあるの」

「……何だ?」

「まず、武器についてだけど……貴方に渡すのは、本物の剣よ。当然だけど、迂闊な使い方をすれば、味方や自分を傷付けることになるから。絶対に、安易に抜いたり、振り回したりしないでね?」

「ああ」

「それと……これは、どうしても避けられない話題なのだけど……」

「……下着を見ないでほしいって話か?」

「……」


 一ノ関が、恨めしそうな目で俺を見た。

 本人にとっては、切実な問題なのだろう。


「分かった。見ないようにするから、安心しろ」

「……無理よ。私が実演したら、見ないわけにはいかないでしょ?」

「なあ……多少、魔法に制約がかかったとしても、スパッツを履くとか、方法はあるんじゃないか? 今回は実戦じゃないから、構わないだろ?」

「……確かに、貴方の言うとおりよ。今回は、服装を変えても、特に問題ないわ」

「だったら、着替えればいいじゃないか」

「でも……それだと、実戦の時に困るじゃない。結局、私は見られるのを気にすることになるし、貴方は、見えることを気にすることになるわ」

「そりゃあ、そうだが……実戦の時には命がかかってるんだから、そんなことを気にしてる場合じゃないだろ? もし見えても、気にする余裕なんてねえよ」

「……そうね。でも、貴方は、本当に分かっているの? 魔法を使っている時に、余計なことを考えたら、大怪我をするリスクもあるのよ?」

「そうなのか?」

「魔法を使っている時には、爆発物を扱っている時のように集中しないと駄目。でないと、物を投げようとしたら、自分の腕が千切れて飛ぶ、なんてことになりかねないわ」

「それは……ヤバいな……」

「だから、必要のないことは絶対に意識しないで」

「……分かった」


 外に出て、蓮田の時と同じように、魔法を使って見せる。

 すると、一ノ関は不思議そうな顔をした。


「貴方は……魔法を使う時に、随分と手加減しているのね」

「そりゃあ、当然だろ? いきなり全力で跳んだり走ったりしたら、大怪我するかもしれないからな」

「でも……黒崎君の魔法の使い方は、凄く不自然よ? 例えるなら……止まりそうなスピードで、自転車をこいでいるような状態に見えるわ。それでは、上手くいくはずがないわよ」

「さすがに、そこまで手加減してるつもりはないんだが……」

「自覚がないの? それにしても……不思議だわ。黒崎君の魔力は、麻理恵さんよりも、かなり乏しいはずなのに……。私と一緒に訓練していた時の麻理恵さんよりも、大変そうにしているわね」

「それは、俺が平沢ほど器用じゃないからだろ?」

「そうかもしれないけど……。とにかく、私から黒崎君に言えることは少ないわ。貴方は、もう少し力を解放してみるべきよ」

「……大丈夫なのか、それ?」

「加減はするべきでしょうね。今は抑えすぎているから、もう少し出力を上げるべきだ、というだけよ。間違っても、何の加減もせずに跳び上がったりしたら駄目よ?」

「分かってる」


 そう言って、俺は、今までよりも少し高い位置を目指して跳び上がった。

 確かに、この方が無理なく跳べている気がする。

 下を見ると、一ノ関がかなり小さく見えた。


 勢いよく落下して。

 着地は、無事に成功した。

 ……地面に、勢いよく頭から落ちる、などというオチでなくて良かった。


「どうかしら?」

「まだ、少し怖いが……意外と、平気だな」

「そう。だったら、他の運動も試しましょう」

「……いや、ちょっと待て」

「何かあったの?」

「……着替えは、あるか?」

「……」


 一ノ関は、俺から目を逸らした。

 俺の制服のズボンは、尻の部分が、大きく裂けてしまっている。

 着地の際に、衝撃を吸収するため、思いっきり膝を曲げたが……その際に、かなりの負荷をかけてしまったようだ。


「麻理恵さんに連絡するわ。男子の制服を、持ってきてもらいましょう」

「悪い……」

「慣れないうちは、よくあることよ。訓練を積めば、そういうミスも無くなるわ」

「……だといいんだが」

「ちなみに……私は、スカートの中を見られるのが嫌で、ズボンを履いた時に、同じ経験をしたわ」

「それは……女子だと悲惨だな……」

「……そうね。でも、女の子には、似たような経験をした子がたくさんいるの」

「それで、諦めてスカートのまま飛び跳ねるのか……」

「……それが理由ではないわ。隠す必要がないからよ」

「いや、必要ならあるだろ……。チラッと見えるどころじゃなくて、丸出しなんだぞ?」

「でも、スカートのままで跳んでも、男の子に喜ばれるのは魔力に恵まれた子だけなのよ? わざわざ隠したりしたら、勘違いしているみたいで痛々しいと思われるだけよ。そのことが分かった時には絶望したわ」

「……」

「いっそのこと、飛び跳ねないで戦えたら、良かったのだけど……。私の母は、鈴みたいに、水を操る魔法が使えたの。その才能が私に受け継がれなくて、とても残念に思っている様子だったわ」

「そういえば、お前の名前……」

「……才能に恵まれない人間って、存在自体が罪よね……」

「そんなことはないだろ」

「外ではどうなのか分からないけど、この町ではそうなのよ」

「仮にそうだったとしても、お前は美人だから存在価値がある」

「……さすがに、その慰め方はどうかと思うわ」

「俺に、気の利いたことなんて言えるかよ……」

「……でも、そうかもしれないわね。貴方が存在価値を認めてくれなかったら、私がここにいる意味はないもの」

「お前は、命がけで戦ってるじゃないか。そのことは、皆が認めてると思うぞ」

「……駄目なのよ。この前、魔物に負けたばかりなんだもの……。貴方が助けてくれなかったら、私はあのまま死んでいたでしょうね」

「……俺が? 何の話だ?」

「とぼけなくていいわ。あんな場所に、早見アリスが突然現れるなんて、あり得ないもの。持ちかけたのは早見アリスの方だと思うけど、貴方が頼んでくれたんでしょ?」

「……」

「怒っているわけではないの。貴方のおかげで、命が助かって、脚に傷も残らなかったから。感謝しているわ」


 そう言ってから、一ノ関は平沢に電話をかけた。

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