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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第42話 宝積寺春華-1

「春華さんは、一言で表すなら、神様みたいな人だったの」


 蓮田は、真顔でそう言った。


「神……?」


 それは、生徒会長の表現と同じだった。

 だが、あれは、宝積寺にとって、姉である春華さんが神様のような存在だった、という話だったはずだ。


「そうなの。あの人の言うことなら、どんなことでも聞いてあげたくなるし、あの人のためなら死んでも構わない。誰もがそう思ってしまうような……そういう人だったよ」

「それは……よほど、保有してる魔力の量が凄かったんだな」


 こいつらにとって、魔力量の多さは絶対の基準だ。

 規格外の量を保有していれば、そういうこともあるのだろう。

 そう思ったが、蓮田は首を振った。


「違うよ? 魔力の量だったら、妹の宝積寺さんの方が遥かに多かったから。多分、春華さんの魔力量は、黒崎君と比べても、そんなに多くなかったんじゃないかな?」

「は? じゃあ、どうして春華さんは、そんなに魅力的な人間だと思えたんだよ?」

「分からない」

「分からないって……」

「それは、誰にも説明できなかったんだよ。とんでもないカリスマ性があった、としか言えないかな? だから、神様」

「……」


 とても信じられなかった。

 そんな人間が存在するのだろうか?


「1つだけ、春華さんのカリスマ性を説明できる要素があるとしたら……あの人は、魔光を操れたんだよ」

「魔光を?」

「そうなの」

「それは……凄いことなのか?」

「……そっか。黒崎君は、まだ知らないよね……。そもそも、私達の魔法は、原則的に、目の前に存在している物にしか影響を及ぼせないの。だから、光や重力みたいな、存在をイメージしづらいものを操れる人は、本当に珍しいんだよ。それでも、普通の光だったら、操れる人が何人かいるんだけど……魔光を操る人間なんて、後にも先にも春華さんだけ。異世界の人間だって不可能らしいよ?」

「……それで、魔光を操れると、どんなメリットがあるんだ?」

「普通なら、魔光に魔光をぶつけたら、相殺されて量の少ない方が消滅するんだけど……春華さんは、少量の魔光をぶつけて、大量の魔光を自由に操ってしまったの。相手が放った魔光を、曲げることも、はね返すこともできたし、誰かが自分にかけている魔光を奪い取ることもできたから、魔力の多寡が、あの人に対しては無意味だったんだよ」

「だったら……無敵じゃねえか!」

「そうだね。だから、3年前にイレギュラーが発生して、御三家が対応に苦慮していた時に、春華さんは自分が戦うことを決意したの」

「イレギュラーには、御三家の人間だけが対応するんじゃないのか?」

「本当は、そうなんだけど……花乃舞梅花様は、当時まだ7歳だったし、神無月愛様も、当時はまだ中学2年生だったから……。そんなに幼いメンバーが戦うのかって、大分浮き足立っちゃったんだよね……。御倉沢も、当時のご当主だった雪乃様は高校3年だったけど、吹雪様はまだ中学3年生だったし……」

「だからって、他の連中に任せるわけにはいかないはずだろ?」

「そうなんだけど……」

「なあ、ひょっとして、御三家の連中はイレギュラーに対しての警戒を怠って……」

「黒崎君!」

「……悪い」

「……ごめんね。でも……滅多なことを言ったら、大変だよ?」


 蓮田は、俺に念押しするように言ってきた。

 この町では、御三家を批判するのはご法度なのだ。


「それで、春華さんには、たくさんの人が協力を申し出たんだけど……全員が戦ったら、3年後……つまり、今回の『闇の巣』の出現に対応できなくなるから、少数精鋭で戦うために、春華さんは7人の仲間を選んだの。そのメンバーの中には、大河原先生や早見さんもいたんだよ」

「早見が? あいつ、中学1年で戦ったのか?」

「そうだね。早見さんは、私達の学年では1番の天才だから」


 蓮田はそう言ったが、中学生でも戦えるのであれば、神無月の当主が戦わなかったことを正当化できなくなる。

 早見は神無月の人間なのだから、なおさらだ。


「……そういえば、大河原先生って何歳なんだ?」

「春華さんと同じだよ? 私達より4つ上」

「じゃあ……今年で20歳!? 嘘だろ!?」

「……黒崎君。そんなに驚いたら、先生に失礼だよ……」

「……内緒にしてくれ」


 先生は、よく見れば若いので、大学生の年齢でもおかしくないのだが……まさか、あれほどの色気を、高校を卒業して1年少々で身に付けているとは……。

 この世界では、あの人のような人こそ魔女の呼称に相応しいと思った。


「春華さんは、自分が選んだ仲間と一緒に、漂流者を保護して、魔獣を駆除して、罪人を捕らえて……戦った魔女を全員説得して、7人も投降させたの。本当に、凄かったんだけど……春華さんは、残り4人の魔女を残して、倒れちゃったんだよね……」

「倒れた?」

「急性魔素中毒だったらしいの。短期間で、無理をして魔法を使い続けたから……」

「……」

「その後で、残る4人の魔女を捕らえるために、今度こそ御三家のご当主の方々が揃って、春華さんの7人の仲間に、宝積寺さんを加えて臨んだんだけど……そこでも、御三家の出る幕はなかったの」

「どうしてだよ?」

「……妹の方の宝積寺さんが、4人の魔女を、全員殺したから」

「!?」

「その時の宝積寺さんは、春華さんが倒れた影響で精神状態が不安定だったから、降参して無抵抗だった魔女を、わざわざ殺したらしいんだよね……。その時に、止めに入った神無月の人を巻き添えにして、瀕死の重傷を負わせちゃって……。そのこともあって、宝積寺さんは神無月の人達からも嫌われてるの。……ごめんね、宝積寺さんのことは悪く言わない約束なのに……」


 蓮田は、申し訳なさそうに言った。

 しかし、俺は蓮田を責める気になれなかった。

 先ほどの話は、俺にとって、非常に重大な意味を持っているからだ。


 初めて会った頃に、宝積寺は、俺に重大なことを打ち明けた。

 俺は、それに対して、宝積寺を肯定するような発言をした。


 だが、俺は知らなかったのだ。

 それは、決して言ってはならない言葉だったのだと……。

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