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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第41話 蓮田香奈-8

「……そういえば、花乃舞の人間は、御倉沢や神無月と比べて少ない気がするな」


 俺が、花乃舞だと認識している人間は、大河原先生と矢板だけだ。

 この町に俺を連れて来たのが神無月であり、所属は御倉沢なので、花乃舞が一番縁遠いのだが……それにしても少ないように思える。


「あえて、子孫を増やしてないからね。でも、御倉沢としては、それじゃ困るんだよ。私達は、1人が数ヶ月の間しか戦えないから、人数がいないと話にならないんだよね……」

「そういう意味では、神無月の方が、御倉沢に近いんだな?」

「……それは違うよ。神無月は、異世界人の血を独占しちゃいけない、と考えてるから」

「独占……?」

「異世界人は、生物的に、この世界の人間より優れているでしょ? だから、私達が外に行って、異世界人の血を積極的に広めれば、この世界の人間は、今よりも優れた存在になる。それが神無月の主張なの」

「押し付けがましいな……」

「やっぱり、そう感じるよね? それに、異世界人の遺伝子が、あらゆる意味で優れているとは証明されてないんだよね……」

「……そうなのか?」

「だって、異世界人が、この世界のあらゆる病気に耐性を持っているかなんて、誰も調べてないんだよ? ひょっとしたら、ある種の病気に対しては、凄く脆弱かもしれないよね? それに、異世界人の遺伝子には、女性ばかりが産まれるっていう、最大の弱点があるでしょ? だから、この世界に異世界人の血を広めるのは、良くないことなんだよ」

「それなのに、神無月は思い留まらないのか?」

「聞く耳を持ってくれないよ。むしろ、広めることが自分達の責任だと思ってるから」

「……」


 宝積寺や北上も、同じ意見を持っているのだろうか?

 そうではないと思いたいところだ。


「神無月の方針は、花乃舞とは正反対だし、御倉沢とも相性が悪いの。神無月が外に人を流出させると、この町の守りは弱くなるから。そういう無駄なことはやめてほしい、というのが御倉沢の考えなんだよ」

「なるほど」


 これでは、対立が収まるはずがない。


 黄門町を守ることを最優先する御倉沢。

 黄門町から人を流出させてでも、この世界に異世界人の血を広めようとする神無月。

 自分達の存在を否定し、人を極力増やさないようにしている花乃舞。


 どうやっても、相容れない思想である。


「今の話を聞くと、大河原先生は、花乃舞の考え方に染まってないように思えるな」


 俺が、先生の言動を思い出しながらそう言うと、蓮田は首を振った。


「それは違うよ。先生が、まだ学生だった頃……御倉沢の子に、酷いことを言って泣かせるなんて、珍しいことじゃなかったんだから」

「……先生が? とても想像できないんだが……?」

「御倉沢には、私達みたいに、魔力の乏しい人がたくさんいるからね……。『枯れ木も山の賑わい』とか『劣等種族』とか『死んでも大した損失じゃない』とか、酷い暴言を吐いて泣かせた人の数は、矢板さんよりも遥かに多かったらしいよ?」

「……!?」


 先生が、そこまで酷い差別主義者だったとは……!

 とんどもない真実を知って、目の前が真っ暗になったような気がした。


「でも、大河原先生は、高校の生徒会長になった時に、全校生徒の前で謝罪したんだって。それから、誰かを傷付けるようなことは、全然言わなくなったんだよ」

「……いや、おかしいだろ。そこまで酷いことを言ってた奴を、生徒会長になんてするか?」


 今の生徒会長だって、善良な人間とは思えない。

 しかし、あの人は御倉沢の当主だ。

 御倉沢の人間にとっては、絶対に逆らえない存在である。

 他の家に所属していたとしても、御倉沢に喧嘩を売るつもりでなければ、当主が生徒会長になることを拒めるとは思えない。


 それに比べて、先生は花乃舞の当主ですらないのだ。

 先生にどの程度の魔力があるのかは知らないが、いくら何でも、生徒会長にして良い人物ではないだろう。

 早見だって、クラス委員長になっていないのは、性格に問題があるから、ということが理由であるはずだ。


「さすがに、反発はあったらしいよ? でも……御三家の当主の方々が選んだ人だから」

「御三家が……先生を? 魔力至上主義で決めたのか?」

「……そうじゃないの。御三家の方々は、春華さんの指名に従った、っていう噂だった」

「それは……宝積寺の姉さんのことか?」

「あっ……!」


 蓮田は、慌てた様子で口を押さえた。

 やはり、宝積寺春華という人物の話題は、こいつらにとってはタブーらしい。


「なあ、蓮田。宝積寺春華という人について、詳しく教えてくれないか?」

「でも……私よりも、宝積寺さんに尋ねたらいいんじゃないかな? 春華さんは、あの子のお姉さんだから……」

「それで、俺が宝積寺を怒らせることになったら、どうするんだよ? あいつは、姉から贈られたリボンをからかわれただけで、相手を半殺しにするような奴なんだろ?」

「……私が言ったって、言い触らさないでよ? あの人に対して、御倉沢は複雑な感情を持ってるから……」

「分かってる」


 俺が頷くと、蓮田は、意を決した様子で話し始めた。

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