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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第40話 蓮田香奈-7

「……でも、私は水守が羨ましいよ。外の男の子って、胸の大きな子が好きなんでしょ?」


 蓮田が、こちらを窺うようにしながら言ったので、俺はため息を吐いた。

 この町の男が魔力の量を基準にしているので、外の男は代わりに胸の大きさで判断する、というのは、話として分かりやすいのだろうが……。


「どうして、お前達はそれが一番だと認識してるんだよ……」

「……黒崎君は違うの?」

「俺に限らねえよ。そりゃあ、巨乳が好きな男の割合は高いと思うが、小さい方が好きな男だってそれなりにいるだろ。それに、実際に付き合うなら、優先順位はかなり低いはずだ」

「でも……私達が水着だった時に、黒崎君は、水守の胸ばっかり見てたよね?」

「……誤解だ。そもそも、俺はお前たちの方を、なるべく見ないようにしてたはずだぞ?」

「そうは見えなかったよ? 鈴の胸だって、チラチラ見てたし……」

「……」


 見ないように気を付けたはずだが、そう見えなかったらしい……。

 さすがに、思い込みではないだろうか?


「大体、お前だって、気にするほど小さくないだろ。世の中には、ほとんど膨らんでない女だっているらしいからな」

「この町では、そんな子、見たことないけど……?」


 蓮田は、俺の言葉を疑っている様子で、こちらを見てくる。

 こいつは……色々な意味で、住む場所を間違えているとしか思えない。


「お前たちは、外に旅行でもしておけ。いずれは、町の外に出るんだろ?」

「でも、引っ越す先は、どうせ黄門町だし……」

「は? ここが黄門町だろ?」

「えっ? あ……黒崎君は知らないんだね? 私達は、30歳以上になったら、清生(せいしょう)市にある黄門町に移住して余生を過ごすの」


 清生市といえば、この町から、比較的近い場所にある自治体だ。

 要するに、この町の住人は、一生この町から遠い場所には行かない、ということなのだろう。


「前々から思ってたんだが、そこは『外』という評価ではないんだな?」

「そうだね。御倉沢や花乃舞の人は、ほぼ全員がそこに移住するから。そこに住んでいる人は、全員がこっちの黄門町の出身者なの」

「……御倉沢と花乃舞? じゃあ、神無月は、向こうの黄門町には移住しないのか?」

「それは……移住する人もたくさんいるけど、神無月は、外に積極的に人を送り出しているから……。あの人達は、御倉沢や花乃舞とは考え方が違うの」


 せっかく各家の考え方の違いが話題に出たので、俺は前々からの疑問をぶつけた。


「お前達が派閥争いをしている理由を、教えてもらってもいいか?」


 俺の言葉を聞いて、蓮田は困った様子だった。

 やはり、この話題については、あまり話したくないらしい。


「……いいけど。あんまり、この話題について話したら駄目だよ? 結構デリケートな問題だから」

「分かった」

「御三家の対立は、簡単に言えば、私達の存在意義についての認識の違いが原因なの」


 そう言って、蓮田は解説を始めた。


「この辺りに、異世界人の血を継いだ人が増えてきた頃に、私達のご先祖様は、皆で話し合ったの。異世界人からの侵略を受けたら、どう対応するのかについて、なんだけど……。御倉沢のご先祖様は、とにかく異世界人の血を継いだ人間を増やして、集落の力を高めて、守り切ることを最優先するべきだって主張したの。でも、神無月と花乃舞は、それだけでは納得しなかったんだよね……」

「それぞれ、どういう主張をしたんだ?」

「神無月は、他の集落に応援を求めて、もっと広範囲を守ろうと主張したの。花乃舞は、異世界人の血を継ぐ人間を厳選して、異世界人と少数でも戦える力を持った戦士を育て上げてから、『闇の巣』の向こうに送り込んで、異世界を攻撃することを主張したの」

「それで……そいつらの主張は、実現したのか?」

「駄目だったんだよ。神無月は、仲間を集めようとしたけど……周囲の集落とは、むしろ対立することになっちゃったんだ。怪しい妖術を使う集団だと思われて、この集落に攻め込まれたこともあったんだって。花乃舞にも、あの人達の計画を実行できるほどの人材は、御三家の当主を務めた方々を除いたら、全然生まれなかったんだよね。今なら、候補になる人が何人かいるけど……」

「身体能力の違いなんかを考えると、数人で異世界を征服するなんて、不可能な話だよな」

「そうだね。花乃舞は、異世界人と互角に戦える人間が誕生しなくて、方針を転換したの。神無月も、ニュアンスが変わってるから、方針がブレなかったのは御倉沢だけなんだよね。あっ、でも……これを言ったら、他の家の人たちは凄く怒るから、絶対に言わないでね?」 

「ああ。それで、花乃舞は、何をすることにしたんだ?」

「花乃舞は……徐々に、私達の存在は間違っていると思い始めたんだ。異世界人は、この世界の人間よりも、生物的に上回っているから……このままだと、この世界の人間を駆逐しちゃうと考えたの。だから、異世界からの侵略者と戦うための後継ぎは残すけど、むやみに子孫を残すべきじゃない、というのが花乃舞の今の考え方なんだよ」

「なるほど……」

「……どうして共感するの? 花乃舞の考え方は、私達の存在を否定してるんだよ?」


 蓮田が、怒った様子で言った。

 確かに、花乃舞の主張は、異世界人の子孫にとっては許し難いものなのだろう。


 だが……異世界人は、ほとんど侵略的外来生物のような存在だ。

 現代の常識ならば、駆除する方が正しい。

 こんなことを言えば、この町の連中は激昂するだろうが……。


「悪い。ただ、矢板の態度が酷い理由が分かったからな」


 俺は、そう言って誤魔化した。


「……矢板さんだけじゃないよ。花乃舞の子は、他の家に喧嘩を売るような言動を、よくするんだよね……」

「じゃあ、他の家の連中とは、仲が悪いんだな?」

「まあ、どちらかといえば悪いけど……。でもね、どうしても嫌いになれないところもあるっていうか……。花乃舞の人達は、1人1人がエリートで、保有してる魔力量が多いから……面と向かうと、ドキドキしちゃうんだよね……」

「……」


 外の感覚だと、イケメンや美女ならば、態度が悪くても許容してしまう、といったところだろうか?

 それにしても、限度がある気がするのだが……。

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