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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第39話 蓮田香奈-6

「自分の魔光が何に作用するかは、実際に色々な物に魔光をかけてみれば分かるの。例えば、私の場合だけど……」


 そう言って、蓮田は小さな魔光を生み出し、地面に向かって放った。

 その魔光が当たった部分に、小さな砂山ができる。


「見てのとおり、私の魔光は、大地を操ることができるの」

「すげえな。この能力を活用すれば、敵を串刺しにしたり、生き埋めにしたりすることだって可能なんじゃないか?」

「私の魔力だと、そこまでやるのは無理だよ……」

「そうなのか?」

「……ごめんね、役立たずで」

「そんなことはない。お前は、お前なりの方法で、一ノ関と須賀川をサポートしてただろ?」

「あれは……雨でぐちゃぐちゃになった地面を、魔法でもっと柔らかくしただけなの。乾いた地面では、とても再現できない魔法なんだよね……」

「それでも、役には立ってるし、命がけで戦ってるんだろ? だったら、そのことは誇っていいと思うぞ?」

「……ありがとう」


 蓮田は、泣きそうな顔で笑った。

 こいつ……やけに自信のない言動をするな……。


 蓮田は、一ノ関や須賀川のように、敵を攻撃するような、派手な魔法が使えるわけではない。

 だが、蓮田がいなければ、あのワニを仕留めることは出来なかったはずだ。

 あの2人だって、蓮田には感謝していると思うのだが……。



 俺は、須賀川に教えてもらった方法で、魔光を生み出した。

 それを、色々な物に当てたり、自分の身体に取り込んだりして、作用を確認する。

 蓮田は、俺に尊敬の眼差しを向けていたが……その顔は、訓練を進めると徐々に曇っていった。


「……俺って、役立たずなんじゃないか?」

「そ、そんなことないよ!」


 俺を慰めようとする蓮田の声が、若干上擦っている。

 そのことが、俺の質問に対する、何よりの答えだろう。


 俺の魔法は、とにかく融通が利かないらしい。

 基本とされる各種の魔法を試して、使うことができたのは、身体能力の強化と、物質の硬化だけだった。


 この2種類だけでも、近接戦闘は可能だと言われたが……問題はそれだけではない。

 とにかく俺は不器用なのだ。


 高速で走ろうとすれば転ぶ。

 高く跳び上がれば、着地に失敗する。

 石を投げようとして、地面に叩き付けてしまい、狙った的に当たらない。

 全ての動作がそんな調子で、身体能力が上がっても、宝の持ち腐れだった。


 考えてみれば、当然のことかもしれない。

 この町の連中は、あらゆる能力が、この世界の各分野のエキスパートを上回っているという、異世界人の血を継いでいるのだ。


 俺は、外の基準であれば、運動が得意な方である。

 しかし、この町の連中と比べたら、遥かに劣るだろう。

 このような結果になるのは、仕方がないことなのだろう。


「明日、水守に、魔法の使い方を教えてもらったらいいんじゃないかな? 私は、身体能力を強化する魔法が苦手だから……」

「……ああ」


 一ノ関は、俺と同じような魔法を使って、実際に戦っているのだ。

 何らかの、コツのようなものを聞くことができる可能性はある。


「今日の訓練は、これぐらいにしよ? 何か、食べたい物はある?」

「何でもいい」

「それ、一番困る答えなんだけどな……」

「食える物なら、何でもいい。……いや、出来ればパスタ以外の物にしてくれ」

「……そっか。鈴は、パスタが好きだもんね」


 蓮田は、俺が昨晩パスタを食べたばかりだと察してくれたようだ。

 いい嫁になる、と言いかけて、既に俺の妻だった、と思い直した。



 蓮田は、和食を用意してくれた。

 といっても、何か特別な料理、というわけではない。

 ごく普通の白飯と味噌汁、そして焼いた鮭と数種類の漬物、そして茹でた菜っ葉。

 はっきり言えば、ありふれていた。


 だが……たった2人の食事に、ここまで手をかけるのは、想像するよりも遥かに大変だ。

 この町に引っ越してきた時に、試しに自炊しようとして、あっさりと挫折した俺にはよく分かる。


 今にして思えば、須賀川が作ったパスタも、相当な手間がかかっていたのだろう。

 だが、自分であのような料理を作ってみたことがないので、それがどれだけ大変か、イメージが湧かないのである。


「ごめんね、大した物じゃなくて」

「いや、充分だ」


 俺は、味噌汁を飲んでみた。

 ……美味い!


「凄いな、これ。俺も、試しに作ってみたことがあるんだが……何故かこうならないんだよな……」

「黒崎君、ダシは取った?」

「……お前、俺を馬鹿にしてるだろ?」

「ごめん……」

「……だが、ワカメと豆腐だけで、こんなに美味くなるってことは……俺が作った時には、ダシの量が足りなかったのかもな……」

「ねえ、黒崎君。ひょっとして……思い付いた具を、片っ端から入れたりしてないよね?」

「あのなあ……俺は、味噌汁に入れていい物と、入ってたらおかしい物の区別くらいはできるぞ?」

「じゃあ、味噌汁に入れていい物は、全部放り込んだとか……」

「……入れちゃ駄目なのか?」

「駄目とは言わないけど……それで美味しく出来たら、かなりの達人だと思うな……」

「……」


 根本的な勘違いを指摘されてしまった。

 味噌汁は、より具を多くした方が、美味くなるわけではないらしい。


「自分で作ろうとしただけでも、偉いと思うよ?」

「それで満足するのは、いくら何でも志が低いだろ。それにしても……お前たちは、皆料理が上手いんだな」

「そんなことはないよ。苦手な子だっているよ?」

「そうなのか?」

「うん。たとえば、水守は……」


 そう言って、蓮田は突然、遠くを見るような目をした。

 少し意外な言葉である。


「一ノ関が? あいつ、料理が下手なのか?」

「……水守はいい子だから。何があっても、嫌いにならないであげてね……」

「いや、そんな風に言われたら、滅茶苦茶気になるだろ!」


 その後、俺がどんなに質問しても、蓮田は一ノ関の料理について何も教えてくれなかった。

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