第3話 早見アリス-1
翌日のホームルームの後で、俺がいつもどおりに数分待ってから教室を出ても、宝積寺は廊下で待っていなかった。
そこで、宝積寺がいるはずの隣の教室を覗いたが、既にホームルームは終わっており、宝積寺の姿はなかった。
「あれ、黒崎君?」
教室の中にいた小柄な女子が、俺の名前を呼んだ。
少なくとも俺にとっては、面識のない女子である。
「……?」
「玲奈さんなら、先に帰ったよ? メールを送ったから、まだ見てないなら、確認してほしいって言ってたけど?」
「……そうか。助かった、ありがとな」
俺は、その女子に礼を言って、メールを確認した。
『申し訳ありません。急用が出来たので、先に帰らせていただきます。気を付けてお帰りください。後でお詫びに伺います』
宝積寺からのメールには、そのように書かれていた。
必ず一緒に帰ると約束したわけでもないのだから、わざわざ謝罪に来てもらうようなことではないのだが……。
いや……1人で外出するなと自分で言ったのに、1人にしてしまうことについて、気が咎めたのだろう。
代わりに、誰かを誘って帰るべきか……?
だが、他に、一緒に帰る人間のアテがあるわけではない。
俺は1人で帰ることにした。
「あら、とうとう玲奈さんに捨てられたのですか?」
突然、攻撃的な言葉をぶつけられて、俺は廊下で立ち止まる。
俺を見下したような態度で見てくるのは、クラスメイトの早見アリスだ。
今となっては見慣れた、金髪の、容姿だけなら完璧だと言っても良い女子である。
「……お前には関係ない」
「関係ならありますわ。玲奈さんとお会いする度に、貴方のような、ろくでもない男とは縁を切るようにと繰り返しご忠告して、ようやく聞き入れていただけたのですから」
「……それは、宝積寺にとっては災難だっただろうな」
「これまでは、玲奈さんのご希望に従って、貴方を直接的に非難することは控えてまいりましたが……それも、もう限界ですわ。これ以上玲奈さんに付きまとうなら、危険性を物理的に除去させていただくことになりますわ」
「……それじゃあ、脅迫じゃねえか」
「あら、私、か弱い乙女ですのよ? 暴力的な手段に訴えたりはしませんわ」
「……」
男子を見る度に暴言を吐くような女のどこがか弱いのか、と言ってやりたくなったが、そんなことを言っても、この女は悪口を返してくるだけだろう。
こいつは、男のことを心の底から嫌っているのだ。
俺は、早見のことを無視して帰ることにした。
「玲奈さんに捨てられても、気落ちする必要はございませんわ。貴方には、元々、それほどの価値がなかっただけなのですから」
俺の背中に向けて、早見は悪意に満ちた言葉をぶつけてきた。
お前は、そんなことばかり言っているから、平沢ほどの人気がないんだろう……と言ってやりたかったが、自重する。
こんな奴の熱烈なファンが、女子には多いのだと聞いたことがある。
さらに、男子の中にも、この女に罵られて喜ぶような奴が何人もいるらしい。
いくら、早見が絶世の美女と呼ぶべき女であっても、理解に苦しむ話だった。