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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第37話 早見アリス-5

 姿を現したのは、巨大な亀のような生き物だ。

 胴体が甲羅のような物に覆われており、そこから、本物の亀よりは長めの手足と首を伸ばしている。

 そして、甲羅には、数本の鋭い棘があった。


 最初に動いたのは蓮田だ。

 金色の光を地面に広げて、相手の足場を崩す。


 続いて、須賀川が、金色の光で雨粒を集め、亀の頭に向けて放った。

 亀は、首を引っ込めて回避したが、そこを一ノ関が狙う。


 剣で、右足を薙ぐ。

 そして、すぐに跳んで距離を取った。

 どうやら、3人の戦法は、前回と同じらしい。


「いけませんわね。このままだと、あの3人は負けますわ」


 早見はそう言った。

 戦い始めたばかりで示された見通しに、俺は驚く。


「だが、前回の時には、あの戦法で勝ったぞ?」

「それは、敵の背中が無防備だったことと、相手がすぐに森の外まで逃げたことが、3人にとって有利に働いたからですわ。香奈さんの魔法は、落ち葉などで魔光を遮られるために、森の中では効果が半減します。鈴さんの魔法も、空が開けた場所でなければ、充分な量の水を集めることができません。そして、水守さんが相手の背中を刺せなければ、敵に決定打を与えることができないのです」

「このまま脚を斬られ続ければ、あの亀は動けなくなるはずだろ?」

「何度も斬ることができれば、そうなるでしょう。ですが……あの魔獣の同種に関する報告によれば、手足を甲羅の中に引っ込めて、攻撃を回避するのが上手いとされていました。それに、水守さんの力では、甲羅を貫くことはおろか、手足を一撃で斬り飛ばすこともできません」

「……なら、森の外に相手を誘い出すか、逃げて応援を呼べばいいじゃねえか」

「そうですわね。すんなりと逃げることができれば、ですが」

「……」


 早見の指摘は正しいように思えた。

 3人は、ワニと戦った時と同じように連携しているが、前回のように足が沈んだ様子はない。

 須賀川の水柱も、前回より細いように見えるし、亀はタイミング良く首や手足を引っ込めている。

 一ノ関は、木々や甲羅を蹴って跳び回っているが、ほとんどの攻撃を回避されていた。


 あの亀には、頭以外の場所にも、目が付いているのではないだろうか?


「応援に参ります。黒崎さんは、何があっても出てこないでください。3人のプライドが傷付きますので」

「あ、ああ……」

「3人が負傷しても、軽い傷であれば、私が魔法で治します。ご安心ください」


 早見は、そう言い残して3人の方へ走って行く。

 雨が降っている森の中とは思えないような加速力だった。


 一瞬、早見に気を取られた後で、改めて3人の様子を双眼鏡で見た。

 やはり、3人は亀に決定的なダメージを与えられていない。


 一ノ関達は、森の外まで、亀を誘い出そうとしているようだ。

 しかし、亀は、なかなか3人の意図したとおりには動いてくれない。

 そして、唐突に、亀が4本の脚を使って、飛び跳ねるような動きをした。


「!」


 慌てた様子で、須賀川と蓮田が逃げる。

 2人がいた場所に、亀は着地した。

 ビチャ、と泥がはねる。


 その隙を逃さず、一ノ関が木を蹴って、亀の右前脚に斬り付けた。

 勢いはそのままで地面を転がったので、髪や制服が泥まみれになる。


 だが、そこまでしても、亀には大したダメージがなかったようだ。

 再び飛び跳ねた亀に潰されないように、一ノ関は飛び退く。

 だが、亀は一ノ関を追撃しようとしている。


 一ノ関は、自分の後ろにあった木を蹴って、一気に亀を飛び越えようとした。

 だが、それに合わせるように、亀も飛び跳ねる。

 

 亀の甲羅から生えている棘が、一ノ関の脚に引っかかった。


「!」


 一ノ関の脚から、血が噴き出すのが、見えた。


 そのまま、一ノ関の身体が、放り出されたように地面に落ちる。

 須賀川が叫んだのが、ここまで聞こえてきた。


 そのタイミングで、大量の金色の閃光が走る。

 早見が放った魔法は、亀を甲羅ごと両断した。


 あの巨体を、一撃で真っ二つにするとは……。

 御倉沢の3人の魔法とは、レベルが違いすぎる。


 早見は、倒れている一ノ関に駆け寄った。

 須賀川と蓮田も、慌てた様子で駆け寄る。


 早見が何らかの指示を出した。

 それに従っている様子で、須賀川は魔光を生み出し、空中の雨粒を集めて、一ノ関の脚にかける。

 続いて、早見も魔光を生み出し、一ノ関の脚に当てた。

 あれが回復魔法なのだろう。


 できれば見守りたかったが、俺にできることは何もない。

 俺は、早見の指示に従って、須賀川達に気付かれる前に、この場を立ち去ることにした。


 とにかく腹が立った。

 大した力のないことが分かっていながら、一ノ関 たちを戦わせている御倉沢に対する怒りも覚えたが……自分が何も出来ないことが、一番悔しかった。

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