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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第33話 大河原桜子-2

「先生、相談したいことがあるんですけど」


 いつもの、2人だけの授業中に、俺は大河原先生に申し出た。


「何ですか?」


 先生は、不思議そうな顔で、首を傾げながら言った。

 こういう仕草をされると、とても可愛らしく見えるので困ってしまう。


「実は……しばらく、宿題をなくしてほしいんです」

「まあ! いけませんよ? 貴方は、皆さんと比べて、学習が遅れているのですから」

「……」


 異世界人の遺伝子のおかげで、この世界の人間よりも知能が高いような連中と、比べられたくはないのだが……。

 俺は、言いたくなった文句を飲み込んだ。


「実は……今の俺は、魔光を生み出す訓練にかかりっきりなんですよ」

「……そう。でもね、黒崎君。戦う力を身に付けたら、貴方は異世界の人間や魔物と、戦わなければならないのよ? 外から来た貴方に対して、危険な役割を押し付けることに、先生は反対です」

「でも、俺が戦わなかったら、他の誰かが戦わないとならないんですよね?」

「それは、そのとおりなのだけど……」


 先生は、困っている様子だ。

 せっかくの機会なので、俺は抱いていた疑問を、大人である先生にぶつける。


「先生。俺は、ずっと疑問に思ってるんです。高校生が、異世界から来た連中と、戦う必要なんてあるんですか?」

「貴方の疑問は理解できます。出来ることなら、大人が戦うべきなのでしょうね……。でもね、年齢を重ねたら、この町には住めないのよ」

「それは知ってます。でも、この町にだって大人はいるでしょう?」


 この町に住めなくなるのは、30歳になってからだ。

 つまり、20代の大人は存在するということである。

 実際に、先生達は、ほぼ全員が20代であるはずだ。


「大人は……一度、この町のために戦った人ばかりなの。もう一度戦ったら、健康に重大な影響があるわ」

「じゃあ、子供のうちに戦って、大人になったら何もしないんですか?」

「そうね……。戦うのは、原則的に、13歳から21歳の間だけよ。教師としては、生徒を戦わせるなんて嫌なのだけど……。代われるのであれば代わりたいけど、私は3年前に戦ったばかりなのよ……」

「……3年前?」


 異世界人や魔物がやって来るのは、9年に1回だったはずだ。

 3年前に、先生は何と戦ったというのか?


「あら。そのことは、まだ誰からも聞いてないの? 3年前にイレギュラーがあったのよ。9年に1度の周期から外れて『闇の巣』が現れたの。そういう現象は、200年~300年に1回起こることだと言われているわ」

「9年に1回という前提で戦っているのに、余計な1回が発生したってことですか? じゃあ、今のこの町は、戦えない奴ばっかりになってるってことですよね?」

「いいえ。そういう時に備えて、御三家の方々は、通常の機会には戦わないの。その代わりに、イレギュラーの場合には、基本的には御三家の方々だけが戦うのよ」

「……じゃあ、先生は、どうして3年前に戦ったんですか?」

「それは……花乃舞は人材不足だからよ。ご当主の梅花(ばいか)様は、当時、まだ7歳だったの。とても、戦える年齢じゃなかったのよ……」

「3年前に7歳だった、ということは……今、やっと10歳? 花乃舞家は、今でも、小学生が当主なんですか?」

「そうなの。といっても、梅花様は、学校には通っていないのだけど……。それはともかく、花乃舞家は跡継ぎに恵まれなかったから、そろそろ血筋が絶えるって、御倉沢や神無月からは思われているのよね……」

「跡継ぎを残すのって、大変なんですね」


 俺がそう言うと、大河原先生は頷いた。


「外では、身体の欲求を満たすことに対して、快楽ばかりが強調されていることは先生も聞いています。ですが……それが義務になったら、どんな行為であっても、楽しんでばかりはいられないものです」

「……まあ、少しだけ、分かります」


 俺は、生徒会長や須賀川を思い浮かべて、ため息を吐いた。

 新しい生命を「製造」することには、抵抗があって当然だろう。

 それは、本来は授かるべきものであるはずだ……などと、宗教家のようなことを考えてしまう。


「花乃舞家の当主が戦わなかったら、他の2つの家は、当主が戦うことを渋ったりしなかったんですか?」

「……当然、揉めたわ。結局、御三家の当主は、3年前はほとんど戦わなかったのよ」

「えっ……!?」

「3年前は、この世界に魔女が送り込まれるようになってから、最初のイレギュラーだったの。だから、御三家は魔女との戦いに備えて、なかなか動けなかったのよ」

「それじゃ……結局、先生や他の人が戦ったんですか? それは……まずいですよね?」

「……ええ。あの時は困ったわ。春華さんがいなかったら、どうなっていたか……」

「それは、宝積寺春華という人のことですか?」

「あっ……ごめんなさい。今は授業中です。宿題については、少しだけ猶予しましょう」

「……ありがとうございます」

「でもね、黒崎君。宿題がなかったとしても、勉強は、しなければなりませんよ?」

「分かってますよ……」


 俺はため息を吐いた。

 面倒事には、これ以上増えてほしくない。


 せめて、戦っていれば勉強なんかしなくていい……というわけにはいかないのだろうか?

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