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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第280話 館腰美樹-11

 宝積寺が放った魔法は、百合香さんの目の前の床に着弾した。


 とてつもない音を立てて、床が陥没する。

 機械で数百トンの圧力がかけられたかのような、とてつもない破壊だった。


 外した……?


 俺がそう思ったのと同時に、百合香さんの身体がよろめいた。

 恐怖で失神したらしい百合香さんを、芽里瑠さんが抱き止めた。


「美樹さん……!?」


 宝積寺が、驚愕した様子で叫んだ。

 美樹さんが、宝積寺が魔法を放った腕を押し下げていたのだ。


 おそらく、美樹さんが妨害しなければ、百合香さんは重力で圧し潰されて、惨たらしい姿になってしまっただろう。


「いけません、玲奈さん。人の命は、失われたら戻ってきません」


 美樹さんは、悲しそうな顔をしながら言った。

 怒っているわけではなさそうだが、珍しく口調は強い。


「ですが……!」

「いけません」

「……」


 宝積寺は、さすがに、美樹さんには逆らえないようだった。

 この場の全員が、殺し合いが終わったことを悟った。


「あの、白石先輩……」

「まだ駄目だ、黒崎。お前の催眠術の解除条件は不明だ」

「……」

「黒崎……お前……」


 白石先輩は、自分が女として意識されていることに気付いて戸惑ったようだが、それ以上は何も言わなかった。

 代わりに藤田先輩から睨まれてしまったが、十条先輩が藤田先輩を宥めてくれた。


「美樹さんの能力って……瞬間移動だったんですか!?」


 長町が、美樹さんが元々いた場所と、今いる場所とを交互に見ながら言った。


 そういえば、美樹さんは、栗橋の後ろにいたはずだ。

 ところが、今は、宝積寺の傍にいたかのように立っている。


 魔法を使って、全速力で移動したとしても、間に合わなかっただろう。

 仮に間に合ったとしても、宝積寺を突き飛ばすのが精一杯だったはずだ。


 長町が言ったとおり、瞬間移動したとしか思えない。


「あら、そうだったのですか?」


 美樹さんは、意外そうな顔をしながら言った。


「……ご自分で、気付かなかったんですか?」

「はい。私の魔法は、自分でも、何をしているのかが分からないものですから」

「……」

「美樹さんは守り神なのです。それで良いではありませんか」


 早見はそう言って笑ったが、本当は、美樹さんの魔法について理解しているように思えた。


「……宝積寺玲奈! 貴方は……散々無礼な振る舞いをして、挙げ句の果てに、各家の当主である皆様に対して攻撃魔法を放つなんて……! 生きて帰れるとは思っていないでしょうね!?」


 本宮の姉さんは、真っ青な顔をしながら叫んだ。

 言葉とは裏腹に、宝積寺に襲いかかる度胸があるようには見えない。


 この場にいる大半のメンバーが、同じように、恐怖に支配されているようだ。


 もちろん、先ほどまでの発言と、御三家の当主や美樹さんまで巻き込むような魔法を放ったことは、とても弁明できるものではない。

 いかに宝積寺が最強でも、ここまで酷い言動をした人物を無罪放免にしたら、それこそ御三家はおしまいだろう。


「……いけません。玲奈さんは……」


 雅が呻くように言った。

 北上の魔法による治療でも、まだ痛みは引いていないようだ。


「雅ちゃん……まだ、無理をしてはいけません」

「……玲奈さんは、お姉様にとって唯一の、実の妹です……」

「えっ……?」


 雅の言葉を聞いて、宝積寺は目を丸くした。

 以前から思っていたとおり、そんな可能性があるなんて、本人は一度も考えたことがないようだ。


「それは……確かに、その子と美樹さんは似ていますが……!」

「似ているだけではありません。春華さんが外に行ってから、DNA鑑定をして確認したことです」

「……!?」


 雅から、意外な証拠を提示されて、皆が顔を見合わせた。


「お姉様が……その女のために、わざわざ、そのようなことをしたのか!?」


 花乃舞梅花にとっても、これは初めて聞いた話のようだった。


「はい。春華さんは、自分がいなくなったら、いずれは玲奈さんが暴走することを確信していました。その時のために、お姉様と玲奈さんの、血のつながりを明らかにしなければならないと考えていたのです。姉妹の可能性があるだけであれば、皆様は、玲奈さんを処刑しようとするでしょうから」

「……」

「ただし、血のつながりを証明したことは、なるべく明かさないことが春華さんの希望でした。血縁関係を重視しない、お姉様のお考えを尊重していたからです。おそらく、義理の妹である、私への配慮でもあったと思いますが……」

「そうですわね。美樹さんと雅ちゃんは、実の姉妹以上の関係ですから。血縁関係を明らかにすることについて雅ちゃんに任せたのは、春華さんの思いやりですわ」

「……」


 何を言うべきなのかが分からない様子の宝積寺を、美樹さんは抱き締めた。

 その様子は、実の姉妹だと言われても、全く違和感のないものだった。


 それから、美樹さんは、この場にいる全員を見回しながら言った。


「皆様。本日は、お帰りいただけないでしょうか? 生じた問題につきましては、事後的な話し合いで解決を図りたいのですが……」

「……分かりました。私の配下は、和己と渚以外の全員を帰らせます」


 生徒会長は、美樹さんの提案をあっさりと受け入れた。


「吹雪様……!」

「これ以上の争いは無益です。この場は、美樹さんの顔を立てるべきでしょう。ただし……私は、和己の無事を確認するまではここに残りますが、よろしいでしょうか?」

「もちろんです」

「じゃあ……私たちも帰ります」


 神無月先輩は、生徒会長に便乗するように申し出た。

 この人にとっては最大の危機を乗り越えて、疲れ切っているように見える。


「利亜さん。そのままだと大変でしょうから、私が代わります」

「そうだな。桃花、頼むぞ?」

「はい! お兄ちゃんのことは私に任せてください!」


 そう言って、桃花は白石先輩の代わりに俺を抱き締めた。

 いつもと同じような、慣れた動きだ。

 しかし、力加減は、以前と同じような遠慮のないものに戻っている


「では、梅花様。我々も帰りましょう」

「……」


 十条先輩に促された花乃舞梅花は、自尊心を散々傷付けられたためか、放心したような顔で帰って行った。



 美樹さんの屋敷から、住人ではないメンバーの大半が引き揚げた。


 部屋の中には、美樹さんと俺と桃花、大河原先生、雅、早見、北上、生徒会長、そして意識を失ったままの百合香さんだけが残った。

 宝積寺は屋敷にいるが、この部屋から出て、芽里瑠さんやあかりさんと思い出話をしている。


 芽里瑠さんから、春華さんの話をしようと誘われた時に、宝積寺は少し嫌そうな顔をした。

 欲望に身を任せて、禁止されている行為をした芽里瑠さんは、宝積寺にとって軽蔑の対象なのだ。

 だが、あかりさんも参加すると申し出たこともあって、結局は応じた。


 芽里瑠さんは先生のことも誘ったが、先生は俺や桃花に付き添うことを口実として断った。

 今までのやり取りの直後に、宝積寺や芽里瑠さんと思い出話をするなんて、先生は耐えられないだろう。


 意外だったのは、先生が、芽里瑠さんから話しかけられた時に、逃げだそうとしているような素振りをしたことだ。

 どうやら、芽里瑠さんのことが苦手らしい。


 学生だった頃から、この2人はこういう関係だったのだろうか……?

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