表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

280/290

第279話 東山王百合香-3

 間近に迫った宝積寺は、目を見開いて、こちらを見ようとしている。

 だが、防御は間に合わないはずだ。


 宝積寺は、常に周囲を警戒しているが、「自分を襲うリスクが高い」と認識している相手ではない者へのマークは甘いのである。


 そのために、イレギュラーの時にはあかりさんを負傷させてしまった。

 俺を救出する時には、俺が腰に飛び付くのを許してしまった。


 敵が目の前にいる状況で、俺に襲われても防げないことは証明済みだ。

 さらに、今回、俺は一切の手加減をしていない。


 確実に仕留められる……!


「こうなると思いましたわ」


 早見は、そう言いながら、宝積寺の目の前に魔法を放った。


「……!?」


 早見が放った魔法に突っ込んだ俺の身体は、風船のように軽くなって浮き上がり、宝積寺を飛び越えた。

 これは……反重力の魔法!?


 前方の空間に投げ出された俺の身体を、片岡が放った魔法が受け止める。

 その感触は、早見が魔法で生み出した空気のブロックに似ていた。


 弾き飛ばされた俺を、白石先輩が抱き止めながら、俺が持っていたナイフを叩き落とした。


「大丈夫か、黒崎?」

「……」


 問われても、すぐに答えられなかった。

 俺は……一体……?


「利亜さん。黒崎さんが動けないように、抱き締めていてください。催眠術がかかっています」

「ああ。悪いな、黒崎。ちょっと苦しいかもしれないが、しばらくは動かないでくれ」


 そう言いながら、白石先輩は、俺を後ろから抱き締めた。

 振りほどけないようにしているが、締め上げられてはいない。


 先ほどの出来事は頭の中で整理できなかったが、代わりに、現在の状況を把握して、自分の顔が紅潮しているのが分かった。


 この人は、ボーイッシュな装いや言動に似合わず……大きいのである。

 それに、北上が記憶を操作する催眠術を解除してくれたので、訓練の時に、その膨らみに触れた記憶を、俺は取り戻しているのだ……。


 ……いや、現実逃避して、そんなことを思い出している場合ではない!


 俺は……誰かに催眠術をかけられて、操られたのか……!?


 だが、そういうことのないように、桃花は常に警戒していた。

 さすがに桃花は懲りただろうし、雅にまで催眠術をかけるとは思えない。


 もちろん、生徒会長や北上でもないだろう。

 どちらにしても、俺はともかく、雅に催眠術をかけるのは難しいはずだ。


 一体、誰が催眠術を……?


「雅さん……!」


 美樹さんは、苦しそうにしている雅を見ながら、悲鳴のような声を上げた。

 この出来事は、美樹さんでも予知できなかったらしい。


「天音さん、雅ちゃんの腕を治してください」

「わ、分かりました!」


 早見の指示を受けた北上は、雅の腕に回復魔法をかける。

 それを確認してから、早見は花乃舞のメンバーの方を見た。


「催眠術をかけたのは貴方ですね、百合香さん」

「……」


 名指しされた百合香さんは、表情を消した顔で、宝積寺のことを見ている。

 まるで、早見のことを意に介していないようだ。


 早見は、無視されたことには抗議せずに話を続けた。


「合図となった言葉を発したのは百合香さんです。同居しているのですから、雅ちゃんや黒崎さんに催眠術をかける機会はあったでしょう。そして、貴方の目は、気の弱い女性のものではありません。敵を抹殺する機会を、常に窺っている人間の目です」

「……」


 百合香さんは、早見の言葉を否定しなかった。


 早見は猜疑心が強いので、人の本性に敏感らしい。

 だからこそ、百合香さんの本性に気付けたのだろう。


 そういえば、宝積寺も、百合香さんのことを警戒していた。

 百合香さんには、俺が気付かなかった、裏の顔のようなものがあるに違いない。


 だが、そうであったとしても……まさか、美樹さんの義弟になった俺だけでなく、ほとんど実の妹のような扱いである雅にまで催眠術をかけるとは……!


「百合香、どういうことだ!? 私は、このような指示は出していない……!」


 動揺しながら、花乃舞梅花は叫んだ。


 しかし、百合香さんは、当主に対しても反応らしいものを見せなかった。

 ただ、呟くように言った。


「関係ありません。梅花様も、花乃舞も……」

「お前は何を言っている!?」


 その言葉には反応せず、百合香さんは、ゆっくりと立ち上がった。

 百合香さんの目は、宝積寺しか見ていない。


「皆様も、今までの話を聞いていれば、理解していただけたはずです。外に住んでいる方々……そして、この世界にとっての最大の脅威は、魔獣でも、異世界人でもありません。今、目の前にいる、宝積寺玲奈という異常者です」

「……」


 宝積寺も、表情を消した顔で百合香さんだけを見ている。


「その子を抹殺することができるなら、この場にいる全員が死んでも……いいえ、この町の全員が死んでも仕方がありません。春華さんが放置した、人の姿をした化け物を、確実に処分すること……それが、私たちに与えられた最大の使命です」

「……」

「……駄目!」


 不穏なものを感じ取ったらしく、あかりさんが宝積寺に飛び付こうとした。

 しかし、早見は、道路に飛び出そうとした子供を止めるように、あかりさんの動きを制した。


 そして、ほとんど同時に、宝積寺は動いていた。


 宝積寺は、部屋の全体に攻撃魔法を放った。

 対象を限定しない、無差別な攻撃だ。


「……!?」


 白石先輩は、俺を庇いながら、引きずり倒すようにした。

 だが、宝積寺の攻撃範囲からは逃れられず、魔法を浴びて圧し潰されそうになる。


 これは……俺を救出する時と同じ、重力の魔法だ!


 信じられない。

 この場には、御三家の当主だけでなく、美樹さんやあかりさんもいるのだ。


 攻撃範囲に入っていないのは、宝積寺のすぐ傍にいる北上と雅だけのようだった。

 宝積寺の暴挙には多くのメンバーが反応できず、魔法を浴びて倒れ伏す。


 しかし、何人かは、宝積寺の行動を予測していたようだ。


 早見は、魔法を放ってあかりさんを守った。

 同じように、大河原先生は桃花を守り、芽里瑠さんは藤田先輩と十条先輩を守り、栗橋が美樹さんを守り、水沢さんは生徒会長を守ったようだ。


 そして、百合香さんは、宝積寺が放った魔法を自分で防いだ。


 さらに、宝積寺に対して、百合香さんは魔法を撃ち返した。

 宝積寺の魔法を相殺した直後に放たれた魔法は、とてつもない出力で、北上や雅すら巻き込みかねないほどだ。


 だが、宝積寺は、百合香さんの魔法をあっさりと相殺した。

 いとも容易く無効化してみせたのである。


 百合香さんは目を見開いた。

 さすがに、宝積寺に隙すらできないことは想定外だったのだろう。


 そして、立て続けに、宝積寺は百合香さんに対して魔法を放った。


 宝積寺が、無差別に攻撃魔法を放った理由。

 それは、他に催眠術のかかった人物がいても、襲われないようにするため。

 そして、イレギュラーの悲劇を繰り返さないためだろう。


 イレギュラーの時、宝積寺は、無害だと思っていたあかりさんへの警戒が甘くなって、大怪我をさせてしまった。

 だからこそ、誰も止めに入らないように、全員を攻撃したに違いない。


 つまり、百合香さんに対して放った魔法は、人を大怪我させるほどの魔法だということだ。

 いや……まだ余裕のある様子から、宝積寺は、充分に人を殺せるほどの魔法を放ったはずだ。


 放たれた魔法は、百合香さんに向かって、一直線に空間を切り裂いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ