第27話 蓮田香奈-3
「黒崎君、そんなに落ち込まないで。私達は異世界人じゃないわ。貴方と同じで、そこまでの能力はないのよ」
一ノ関がそう言った。
「……だが、たった今、とんでもない能力の差を証明されたばかりだぞ?」
俺の言葉に、一ノ関は首を振る。
「貴方が香奈に負けたのは、腕力が劣っているからじゃないわ。腕相撲のテクニックの差よ。純粋に腕力を比べたら、こういう結果にはならないはずだわ」
「……一ノ関が言ってることは本当なのか?」
尋ねた俺に対して、蓮田は悪戯っぽく笑った。
「そうだよ。ついでに言うと、黒崎君に苦しそうだと思われないように、余裕があるような演技もしてたんだよ? 気付かなかったでしょ?」
「ああ……」
「香奈は、そういうところが器用よね。でも、異世界人の血が濃い女なら、黒崎には腕力でも負けないと思うわ。私達にも、麻理恵や早見と同じような才能があったら、もっといい人生が送れたのに……」
須賀川が、そう言ってため息を吐いた。
「あいつらは、魔力量だけで評価されてたわけじゃないのか?」
「……そういえば、クラスは同じだけど、あんたって1人で授業を受けてるのよね? 早見は、本当に凄いわよ? あの子だけは、色々な能力が、生粋の異世界人と互角以上なんじゃないかと思うわ」
「あいつの髪が金色なのは、異世界人の遺伝子の影響だよな?」
「そうよ。あの子の髪には、皆が憧れてるの。本当に、羨ましいわ……」
「お前の髪だって、黒くてサラサラで綺麗だと思うぞ?」
「……」
須賀川は、俺の言葉で、顔を真っ赤にして俯いた。
……こいつらは、本当に男に褒められた経験が乏しいらしい。
「……あんたって、外では結構モテてたの?」
「いや、全く」
「それなのに、ナチュラルに女を口説けるの? 宝積寺のことも、そうやって落としたわけ?」
「俺の口が上手いわけじゃない。単に、ギャップが激しいだけだ。この町の女は、女優かモデルみたいな奴ばっかりなのに、本人はそう思ってないからな……。普通なら、面と向かって、女を褒めたりはしねえよ」
「……ねえ、黒崎。私、髪を伸ばした方がいいと思う?」
須賀川が、上目遣いに俺を見てくる。
「いや、今のままでいいんじゃないか? ショートヘアーが似合ってると思うぞ?」
「そ、そう……?」
「……黒崎君。妻は平等に扱う約束よ?」
一ノ関が、不満そうな顔で言ってくる。
「お前のことは、この前褒めたじゃないか」
「それは……」
俺の言葉に、一ノ関は身体をビクリと震わせた。
そして、慌てた様子で須賀川と蓮田の方を見る。
「……そうだったわね。聞いたわよ、黒崎? あんた……水守のことが、好きなのよね?」
「好きだと言ったわけじゃないんだが……」
「でも、凄く好みのタイプなんでしょ?」
「それは……そうだが……」
「……やっぱり、胸が大きいから?」
「それだけじゃねえよ。ていうか、胸ならお前だって充分あるだろ」
「……そ、そう?」
須賀川は、文字どおり胸を撫で下ろした。
「……」
ふと気付くと、蓮田が、澱んだ目で俺のことを見つめている。
この目は……思い詰めている時の、宝積寺と同じものだ……。
そういえば、さっきから、俺は蓮田のことを褒めていない。
だが、今さら取って付けたように褒めるのも、どうかと思う。
蓮田が、その目をしたまま口を開く。
「ねえ、黒崎君……今夜、私の家に泊まってくれないかな?」
「は……!?」
「どうしたのよ、急に? 最初は、私の家だって決めたでしょ?」
須賀川が、不思議そうな様子で言った。
「それは、鈴が黒崎君と喧嘩して、イメージが悪くなってると思ったからだよね? でも、黒崎君って、鈴に結構いい印象を持ってるみたい」
「……」
須賀川は、困惑した顔で俺のことを見てくる。
「ねえ、黒崎……あんた、この前のこと、まだ怒ってる?」
「怒ってねえよ」
「じゃあ……私のことは、どう思うの? 貴方の好みに合ってる?」
「容姿だけなら文句なしだ。性格は……ちょっとキツイようにも思えるが……」
「……」
須賀川は、涙目になって俯いてしまった。
非常に意外な反応である。
こいつは、俺の言葉なんて気にしないだろうと思っていたが……意外と傷付きやすいらしい。
蓮田と一ノ関は、非難するように俺を見た。
「黒崎君。今日は、やっぱり鈴の家に泊まって」
「……ちょっと待ってくれ。そもそも、『闇の巣』が消えるまでは、子供は作らないんだろ? どうして、俺が須賀川の家に泊まる必要があるんだ?」
「そういえば、まだ言ってなかったっけ? 黒崎君には、魔法が使えるようになってもらわないと困るから、そのための指導がしたいの。ついでに、3人の家に1晩ずつ泊まって、夫婦としての絆を深めようと思うんだけど……いいよね?」
「それは……泊まり込みじゃないとまずいのか?」
「だって、黒崎君の家は、宝積寺さんの家の隣にあるから……。あの子には、私達が何をしているか、知られたくないんだよね。私達の指導方法を知られたら、怒るかもしれないから……」
「……怒る? 宝積寺が?」
「私達が使う方法だと、失敗した時に怪我をするリスクがあるんだよ」
「……!?」
「普通なら、そんな方法は使わないし、私達だって、本当はやりたくないんだけど……最短で魔法が使えるようにしろって、吹雪様から命じられたから……」
「お前ら……俺の健康より、生徒会長の命令が優先なのかよ?」
「ごめんなさい」
3人は、声を揃えて謝った。
嫌だと思っていても、御倉沢の命令には絶対服従……ということなのだろう。
やはり、御倉沢は非人道的な連中だ。
宝積寺が信用するなと言ったのは、当然のことである。
「……納得できない気持ちになることは分かるよ? でもね、そういう危険な状態になるリスクは、ほとんどないの。それに……今のままだと、黒崎君は、敵に襲われても何もできないから危険でしょ? 一刻も早く、魔法が使えるようになる必要は、あるよね? だから……いいでしょ?」
蓮田が顔を上げて、俺のことを窺う。
俺はため息を吐いた。
「まあ……必要性は理解できる。リスクはほとんどないんだったら、まあ……」
「……いいよね?」
「いい、と言ってやりたいところだが……1つだけ、条件を出させてくれ」




