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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第273話 宝積寺玲奈-27

「玲奈、お前は……吹雪様も、そのご一族も、全員を殺害するつもりだったのか……?」


 水沢さんですら、動揺した様子で質問した。

 人の本性を見抜けるこの人でも、宝積寺が、そこまでヤバい計画を立てるとは思っていなかったらしい。


「当然ではないですか。むしろ、どうしてやらないと思うのか、理解に苦しみます」

「……そのようなことをすれば、御倉沢の全員を敵に回すことになるんだぞ?」

「お飾りでしかない当主の一族のために、命がけで復讐を試みる人なんて、大勢であるはずがないでしょう? 最大でも、何十人か殺せば済む話です」


 宝積寺の口調は、まるで「何十円か払えば済む話です」と言っているような口調だった。

 あまりの軽さに、皆が戦慄している。


 人を殺すのは大したことではない。

 そんな、宝積寺の言葉を思い出した。


「……実行したら、神無月や花乃舞の人間だって、黙っているはずがないだろう?」

「私の行動が問題になったら、神無月家であれ花乃舞家であれ、滅ぼしてしまえば良いと思っていました」

「!?」


 この発言には、皆が驚愕した。

 もはや、動揺していないのは早見と美樹さん、雅だけになっていた。


「お前は……本気で、そんなことを考えていたのか?」

「はい。御三家が無くなって、お姉様がこの町のリーダーになることは、私の心からの願いでしたから。お姉様は、体制の変化を急ぐと失敗すると仰っていましたが、私は気が短いんです。余計なものが無くなったら、スッキリすると思っていました」

「宝積寺! 何でもかんでも、力尽くで解決しようとするなって言ってるだろ!」


 とんでもない発言を続ける宝積寺を、俺が制止した。

 すると、宝積寺は恨めしい顔で俺を見た。


「黒崎さんだって、敵は殺しても構わないと仰ったではありませんか」

「いや、それは……敵対した人間を、全員殺せって意味じゃなかっただろ!?」

「和己……貴方の迂闊さは酷いものですね……」


 生徒会長は呆れ返ってしまった。

 宝積寺は、思い詰めた様子で、早口で喋り始めた。


「そもそも、何の価値もない御三家を存続させたのは、人間が本能的に変化を嫌がる生き物であることを、お姉様が重視したからにすぎません。それなのに、一丸となって外の住民を守るべきだというお姉様の意向を理解せず、逃げ出して生き延びようとするなど……私は、お姉様との再会を果たしたら、何と言ってお詫びすれば良いのですか? こんな醜態を見せられるくらいなら、さっさと始末しておくべきあったと心から思います。いいえ……今からでも、私がこの手で……!」

「いけませんわ、玲奈さん」

「……!」


 早見の、聞いたこともないような厳しい声に、さすがの宝積寺も我に返った。

 そんな宝積寺に対して、早見は、安心させるように微笑みながら語りかけた。


「玲奈さん。御倉沢の方々が春華さんを非難していたことは事実ですが、春華さんから受けたご恩を、忘れ去ったわけではないはずですわ。それに、春華さんが誰よりも争いを嫌っていたことは、玲奈さんが一番理解していらっしゃるはずです。御三家の暗殺などという事件を起こされたら、春華さんが困ってしまいますわ」

「……イレギュラーが起こる前から、御三家は戦ってくれないだろうと、皆さんは察していたはずです。内紛で弱体化した御倉沢も、配下に上回られて衰退した神無月も、跡継ぎが梅花様だけになった花乃舞も、イレギュラーに対処できるほどの力がないことは明らかだったじゃないですか。戦うのが好きでないお姉様を、無理矢理戦わせて、倒れるほど追い込んでおきながら、悪く言うなんて……。本当に最低だと思います。地獄に落ちればいいんです……」

「玲奈さんのお気持ちは、よく理解できますわ」


 そう言って宥めながら、早見は宝積寺を抱き締めて頭を撫でた。

 いつもは嫌がる宝積寺は、早見にしがみついて泣いている。


 早見は、今まで見せたことのないような険しい顔をして、この場にいる全員を睨んだ。

 絶対に余計な言動をするな、という牽制である。


 今、宝積寺を刺激したら、間違いなく殺されるからだ。


 そのことが伝わったらしく、大半のメンバーが、全身を硬直させたまま黙っている。

 さすがに、この状況で宝積寺に抗議して、命をドブに捨てる人間はいないようだ。

 いや……今だけは、早見の方が、宝積寺より怖いのかもしれない。


 しかし、生徒会長だけは、宝積寺に対して明確な敵意を向けていた。


 この人は、宝積寺の本性を軽く見ていた。

 春華さんが止めなかったら御倉沢家を滅ぼしていた、というのは想定外だったのだろう。


「玲奈さん。御三家を追放して、その後はどうなさるおつもりだったのですか?」


 美樹さんは、優しい声で宝積寺に尋ねた。


「……お姉様がこの町を率いて、この町や外を守れる体制を構築する予定でした」

「では、春華さんがいなくなった現状では、他の方が我々を率いなければなりませんね? その立場は、梅花様にお任せするべきではありませんか?」

「それは無理です。お姉様に支持されていても、実の妹であったとしても、本人に人望がなければ話になりません。愛様と私を見れば分かるでしょう?」

「では、どなたが、我々を代わりに率いるべきだとお考えですか?」

「……」


 宝積寺は言い淀んだ。

 春華さんの代わりが務まる人間なんて、この町にはいないからだろう。


「……当面の間は、集団指導体制を採用するしかありません。暫定的なリーダーは、アリスさんにお任せするしかないと思います」

「まあ! 玲奈さんから、そこまで高く評価していただけて嬉しいですわ!」

「……」


 喜ぶ早見に縋り付いているのが恥ずかしくなったらしく、宝積寺は早見から離れて座り直した。


「あくまでも、一時的な代理です。本当は、美樹さんか、あかりさんにお願いしたいのですが……」

「そうですわね。美樹さんも、あかりさんも、お身体が万全ではありませんから。御三家に代わって町を率いるなんて、負担が大きすぎますわ」

「ちょっと待って、玲奈ちゃん。アリスだって、神無月以外の家の人間から、手放しで好かれているわけではないのよ? 梅花様を追いやって、アリスの配下になるなんて冗談じゃないわ。玲奈ちゃんだって、アリスのことが苦手でしょう?」


 早見のことが苦手な大河原先生は、本気で嫌がっているようだ。

 多賀城先輩や藤田先輩といった花乃舞のメンバーだけでなく、御倉沢の人間である平沢も、早見がリーダーになることを嫌がっているように見える。


「……代わりになる方が現われるまでは、仕方ありません」

「それでも嫌よ。そもそも、異世界からの大規模な侵攻なんて、本当に起こると思えないわ」

「必ず起こります。花乃舞が、『闇の巣』の向こうへ人を送り込んだために、侵攻する理由ができたからです」


 その言葉に、花乃舞梅花は激しく反応した。


「貴様! どうして、そのことを知っている!?」

「お姉様から伺いました」

「……美樹! お前が情報を漏らしたのか!?」

「申し訳ございません。ですが、春華さんは、この世界を本気で守ろうと考えていらっしゃいました。その志を否定することなど、私にはできません」

「……」


 花乃舞梅花は、とても不満そうな顔をした。

 その顔は、今までの偉そうなものとは違って、まるで親から冷たくされた子供のようだった。

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