第272話 宝積寺玲奈-26
「宝積寺玲奈。御三家が守ってきた秘密を、このような場で暴露するとは……」
生徒会長は宝積寺を睨んだ。
だが、宝積寺は生徒会長を蔑むように見た。
「悪いのは貴方達です。私達だって、元は外の住民と同じ人間でした。異世界人の遺伝子を取り込んだからといって、外の人の命を軽んじるのは傲慢です」
「……よりによって、貴方がそれを言うのですか?」
「お姉様は、外の住民のことは尊重しなければならないと仰っていましたので」
「……」
生徒会長は、納得していない顔をした。
宝積寺が外に行ったら、外の人間のことも敵だと認定する確率が高いからだろう。
「私達に悪意があったわけではない。これまでも、外に被害を生じさせないために、私達はずっと戦ってきた」
今度は、花乃舞梅花が反論した。
しかし、宝積寺は首を振る。
「戦ってきたのは、ほとんど御倉沢の人達でしょう? それに、合併後には見捨ててこの町を去ると、先ほど仰ったばかりではありませんか」
「秘密を守るために、あえて説明しなかっただけだ。全ての家を合併したら、外を防衛するための体制は構築するつもりだ。この世界の人間を見捨てるわけではない」
「そんな体制は役に立ちません。ちょっと考えれば分かることです」
「……どうして、そのようなことが言える?」
「この町の人間は、外の人間を見下しているからです。黒崎さんの扱いを見ていれば明らかです」
「……」
「宝積寺……ここで引き合いに出されると、絶望しそうになるんだが……」
「……申し訳ありません。ですが、黒崎さんだって否定しないでしょう?」
「……」
否定できるはずがない。
俺がこの町で評価されたのは、魔力がボーダーラインを超えていることや、年下の男子であること、美樹さんの義弟であることなど、俺の努力や人格とは関係ない部分ばかりだ。
ずっと、軽く扱われていることには気付いていたし、苦痛を感じていた。
それに、この町の人間には選民思想のようなものがある。
そんな連中が、外の人間を守るとは思えなかった。
花乃舞梅花は、苛立ちながら言った。
「私が当主になれば、敵前逃亡など許さない」
「許さない……ですか。でも、御三家を統合できたとしても、貴方の命令なんて誰が聞くんですか?」
「やめなさい! これ以上、梅花様を侮辱したら……この場で貴方を殺すわ!」
大河原先生だけでなく、花乃舞のメンバーの多くは、本気で怒っているように見える。
勝算が無かったとしても、宝積寺に襲いかかりかねない雰囲気だ。
しかし、宝積寺は、そんな花乃舞のメンバーを非難するような目で見た。
「では、お尋ねします。3年前のイレギュラーの時に、戦ったのは誰ですか?」
「……私たちよ」
「そうです。では、戦う義務があったのは誰ですか? その義務を放り出したのは、御三家の方々ではありませんか? そんな人たちの命令を、この町の住民が聞いてくれると、本気で思っていますか?」
「……3年前、梅花様は7歳だったのよ? それに、最後の戦いには参加してくださったわ」
「当主が幼かったのは花乃舞家の事情です。この町の住民にとっては知ったことではありません。最後の戦いの時だって、何もせずに傍観していたのですから、戦いに参加したとは言えないと思います」
「それは……玲奈ちゃんが、異世界人を皆殺しにしたせいじゃない! それに、愛様は中学生だったのに、戦いに参加しなかったのよ!?」
「愛様が、余計なことしかしない役立たずだ、ということは否定しません」
「玲奈ちゃん……酷い!」
「黙っていてください」
「……」
宝積寺が神無月先輩を睨んだ目には、明確な憎悪が込められていた。
これ以上、余計な口を挟んだら、黙らせるために殺しかねない。
「ですが、問題があるのは愛様だけではありません。そもそも、皆さんは、御三家の当主が心から尊敬されているだなんて、本気で信じてるんですか?」
「……私は、梅花様を心から尊敬しているわ」
「そうですか。でも、愛様や吹雪様のために、命をかけて戦うつもりはありませんよね? それは、他の家の方々だって同じだということです」
「……」
大河原先生を黙らせてから、宝積寺は話を続けた。
「それでも、それぞれの家の幹部である皆さんには、当主のために命をかける覚悟はあるでしょう。ですが、幹部ですらない方々の多くは、当主のために命を捨てるのは馬鹿らしいと思っています。この町の住民は、御三家がお飾りの存在になってしまったことを、充分に理解しているのですから。口に出したら非難されて、処罰を受けるおそれがあるから、誰も言わなかっただけです」
「……待って、玲奈さん。そんな言い方ってないと思うわ。御倉沢の皆さんは、吹雪様を尊敬しているのよ? だから、辛い訓練にも耐えて、魔獣と戦ってくれているの。それこそ、命を捨てても構わないと思っているはずだわ」
平沢は、我慢できなくなったらしく、宝積寺に苦言を呈した。
だが、宝積寺は、そんな平沢を軽蔑しているような目で見た。
「御倉沢家は、内紛によって終わった存在です。そんなことも分からないんですか?」
「宝積寺玲奈……! 貴方は、どれだけ、私たちのことを……!」
本宮の姉さんは、宝積寺に襲いかかりかねないほど怒り狂っている。
だが、生徒会長は、自分の配下が飛び出さないように制止した。
宝積寺は、ため息混じりに言った。
「御倉沢家が形だけの存在であることは、誰よりも、吹雪様が理解しているはずです」
「……!?」
御倉沢のメンバーは、自分たちの当主を見た。
生徒会長は、あえて表情を変えないようにしているようだ。
「よほど頭が悪くなければ、自分達は没落して、実質的な存在価値はないということは分かるはずです。かつては最大の勢力を誇った御倉沢が、愚かな内紛によって弱体化し、今では人数が多いだけの集まりになってしまったのですから。明らかに器ではないのに当主に祭り上げられて、そんな現実を突き付けられた雪乃様が命を絶ってしまったのは、当然のことだと思います」
「……宝積寺玲奈。もう少し、私の立場に配慮しなさい」
「嫌です。貴方達は、雪乃様に、どうして当主を辞めるように言わなかったんですか? 誰かが、御倉沢家を終わらせるように進言していれば、あのような結果にはならなかったはずです。誤魔化すことは優しさではありません。貴方達は残酷です」
「……」
「それなのに、貴方達は雪乃様の死の責任を、お姉様に押し付けました。自分達は戦わず、代わりに戦ってくれたお姉様を非難するなど、御倉沢の卑劣さは万死に値します。お姉様の意向に背いてでも、私がこの手で全員殺してしまうべきであったと、何回思ったことか……」
「……軽々しく、そのようなことを言うのはおやめなさい」
「軽い気持ちではありません。私は、報復のために御倉沢家を殲滅することを、何回もお姉様に提案したのですから」
「!?」
この発言には、御倉沢のメンバーが震え上がった。
生徒会長ですら、恐怖が顔に表れた。
他の家のメンバーも、宝積寺の言葉に愕然としている。
宝積寺は、自分が大量殺戮テロを計画していたと宣言したのだ。
「私がどれほど強く訴えても、お姉様は許可してくださいませんでした。とても残念なことです」
「……」
冗談や脅しではないことは明らかだ。
死ねば良かったのに。
殺しておけば良かった。
そんなことを本気で言う人物が、今、目の前にいた。




