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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第268話 花乃舞梅花-4

「私は、命を狙われたとしても、あきらちゃんを殺すつもりはありませんでした」


 宝積寺は、抗議するような口調で言った。

 暗殺未遂の件を知らなかったメンバーは、かなり動揺しているようだ。


「あきらちゃん、玲奈さん……貴方たちの間に、そのような出来事があったとは知りませんでした」


 片岡は、意外そうに言った。


「もう終わったことです。蒸し返さないでください」

「……分かりました」


 宝積寺の口調は、有無を言わせないものだった。

 あの事件は、宝積寺が長町を許したことによって、当事者の間では完結したのである。


 それに、長町が宝積寺を襲ったことは、詳しく話すと、宝積寺が下着姿であったという情報が漏れかねない。

 自分が春華さんの言い付けを守っていなかったことを知られたくない宝積寺としては、あの時のことを話したくないのだろう。


「梅花様が、愛様は当主に相応しくないと思っていらっしゃることは、よく分かりました」


 早見は、淡々とした口調で言った。


「アリスちゃん……!」

「私は、あきらちゃんも玲奈さんも愛しております。黒崎さんとも、友人として、悪くない関係だと思っております。愛様のなさりようは、あまりにも乱暴だと思いますわ」

「……」


 早見からも見限るような態度を取られて、神無月先輩は絶望の表情を浮かべた。


「ですが、愛様が当主に相応しいか否かは、あくまでも神無月の皆様が判断するべきことですわ」

「合併後には、花乃舞の人間にも意見を言う権利があるはずだ。神無月愛のこれまでの言動を知れば、合併後の当主に相応しくないと我々が考えるのは当然だろう?」

「では、神無月家の他の方に、当主になっていただきましょうか?」

「そんな……!」


 神無月先輩は焦り、花乃舞梅花は首を振った。


「駄目だ。神無月家の人間を、合併後の当主にすることは認められない」

「あら。どうしてですか?」

「神無月家の人間には、我々の当主になる資格がないからだ。そもそも、誰にも当主が務まらないから、お前たちは神無月愛を当主にしたのだろう? 神無月家に適任者がいないのは当然だ。とうの昔に、配下の方が魔力量が多くなり、人望も上回っているからな。宝積寺春華を後ろ盾にしなければ、当主が家をまとめられなかったことが何よりの証だ」

「愛様を当主にした時に、意見を伺ったのは春華さんだけではありません。それに、神無月家の方々には、合併後の当主になっても良いと考えている方もいらっしゃいますわ」

「……!」


 その言葉に、神無月先輩はショックを受けたようだった。

 そして、花乃舞梅花は鼻で笑った。


「ほう。それはつまり、イレギュラーのリスクが高い時期には引き受けなかったのに、最もリスクが低い時期には当主になりたい、ということだな? ずいぶんと虫の良い話だ」

「神無月家の方々がイレギュラーを避けた、というのは邪推ですわ」

「客観的な事実だ。3年前にイレギュラーが終わり、あと100年はないことが確実なのだからな。そのような情けない者の配下になど、誰がなりたいと思うものか。神無月の人間は、遠慮して何も言わないだろうが、花乃舞の人間ならば、面と向かって糾弾するぞ? 胸を張って反論できる者が神無月家にいるのか?」

「梅花様の仰ることはもっともですわね。そこまで仰るのでしたら、私としては、梅花様が当主でも構いませんわ」


 早見のその言葉に、神無月のメンバーは慌てた。


「えっ!? ちょっと待って!」

「アリスさん、それは……」

「アリス。愛が駄目だったとしても、配下であるアリスが私達の当主を決めるのは、さすがに越権行為だぞ?」


 神無月先輩だけでなく、宝積寺や白石先輩も早見を窘めた。

 だが、早見は続けて言った。


「梅花様。貴方が相対的に素晴らしいことは認めても構いませんが、それだけでは不充分だと感じる方もいらっしゃるはずですわ」

「そうか。お前は、私に、当主になることを要請されるような人物であることを要求するつもりだな?」

「さすがは梅花様ですわね。神無月は、花乃舞と合併しなくても存続できます。梅花様が、合併してでも当主としてお迎えしたい御方でなければ、この話は成立しませんわ」


 早見は、俺の日記の件など関係なく交渉を進める。

 神無月先輩はハラハラしているようだが、花乃舞梅花は、日記の話を持ち出す気はなさそうに見えた。


 日記の件を知れば、宝積寺は早見や北上を殺しかねない。

 そうなれば、後処理が大変である。


 おそらく、花乃舞梅花は、日記の件を持ち出すことなく、当主になれると思っているのだ。

 一体、どんな交渉材料を隠しているのだろうか……?


 花乃舞梅花がニヤリと笑った……ように見えた。


「では、教えてやろう。私には、神無月を従える権利がある」

「どうしてですか?」

「それは、宝積寺春華から、そうすることを頼まれたからだ」

「えっ……?」


 思いも寄らない言葉が出て、宝積寺は、何を言われたのかが分からないようだった。

 神無月のメンバーは、大半が同じような反応をしている。


「まあ! それが事実であれば、私たちには無視できませんわね」

「そんなはずがないでしょ!? 合併の話が出たのは、ほんのちょっと前なのよ? どうして、春華さんが、あんたに当主になることを頼むのよ!? 証拠を見せなさいよ!」


 ついに、神無月先輩はパニックを起こしたように喚き始めた。

 白石先輩やあかりさんが宥めるが、神無月先輩は落ち着いてくれない。


「証拠はある。宝積寺春華から送られた手紙だ」

「まあ! 春華さんの、直筆の手紙があるのですか?」

「そうだ。その手紙には、私に神無月を任せると書いてある。疑うのであれば、お前達にも見せてやろう」


 花乃舞梅花がそう言うと、雅が立ち上がって、神無月先輩に歩み寄った。

 そして、雅は跪くようにしながら、一通の手紙を差し出した。


「ご覧ください」

「梅花様。愛様は混乱なさっているので、代わりに、私が確認してもよろしいでしょうか?」


 早見の提案を聞いて、神無月先輩は文句を言おうとしたが、白石先輩に止められた。

 今の神無月先輩が読むよりは、早見が読んだ方が良いという判断だろう。


「構わない」

「では、失礼いたします」


 早見は、雅から手紙を受け取って、内容を確認した。

 それから、その手紙を神無月先輩に渡した。


 宝積寺も、春華さんに関することは気になる様子で、その手紙を覗こうとしている。


「確かに、春華さんの文字ですわ。愛様のなさりようが問題になった時には、梅花様に神無月を任せたい、と書いてありますわね」

「おかしいわ! こんなの、あり得ないわよ! 捏造に決まってるわ!」


 神無月先輩は、目に涙を浮かべており、逆ギレした子供のように叫んだ。

 このザマでは、手紙の真贋がどうであれ、当主失格だと言われても当然だろう。


 そんな神無月先輩を見て、花乃舞梅花はため息を吐いた。


「捏造ではない。宝積寺春華が相談する相手は美樹しかいなかった。そのために、頻繁に美樹の屋敷を訪問していたことは、お前達も知っているはずだ。私は、美樹の屋敷で宝積寺春華と何度も話した。一緒に風呂に入ったこともある」

「……!」


 その言葉に、一番強く反応したのは宝積寺だった。

 他のメンバーも、春華さんと花乃舞梅花の間にそんな関係があったことは意外だった様子で、顔を見合わせた。

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